(3)現状と過去の出会い③
連投します!
「本当に助かりました。ですが・・・申し訳ないついでに、一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
リノは優しさから、スロノはリノと共に行動する事で心が満たされているのか、何も疑いなく目の前のトレンと言う男と共に食事をしている。
「どうしましたか?私達で力になれる事であれば良いのですが」
トレンの相手はリノに任せ、と言うよりも何故かスロノが話しかけてもそっけない態度であったことから任せざるを得なく、話しかけているのも明らかにリノの視線を見ているので、少々面白くないと思いながらも食事の手配をしているスロノ。
「そうだったのですね。どう思いますか?スロノ君」
「え?あっ、ごめん。ちょっと注文に意識が向いていて聞いていなかったよ。何かな?」
「注文程度で話を聞けないなんて、冒険者としてのレベルも知れますね?」
リノとスロノの会話に突然割り込んで、まるでケンカを売っているようなことを言って来るトレン。
思わず表情が曇るスロノなのだが、リノが心配そうな、それでいて少し驚いているような表情になった事から、ここで騒動を起こす訳には行かないと思い我慢する。
そもそも冒険者のレベルと言えば、薬草採取の場所で倒れていたトレンの方がどうかと言う話になるのだが。
「あのね?トレンさんは行く場所も無くて生活にも困っているのだって。暫くは私達のパーティーと行動を共にして生活の基礎を整えたいって事なのだけど」
お願いする内容からも、あれ程の暴言をパーティーのリーダーに吐けるのだからどこでも生活が出来そうだ!と思っているスロノは断りの言葉を出すために口を開くのだが、リノの本当に心配そうにしている表情を見て思いとどまってしまった。
せっかくここまで心も回復したリノなので、救いを求めている人を切り捨てたとあっては再び心に傷を負わせてしまうと思ってしまったのだ。
「・・・リノの好きなようにして良いよ」
「本当!ありがとう、スロノ君。じゃあトレンさんも今日から仲間ですね。宜しくお願いしますね!」
「リノさん、これからよろしくお願いしますね?」
あからさまにスロノには言葉をかけず視線すら合わせないので流石にリノもオロオロしているのだが、あまり負担をかけるのは良くないと思っているスロノはここでも余計な気を遣ってしまう。
「じゃあ俺は登録をしてくるよ」
その後三人で行動するのだが、パーティーを破壊するつもりで行動しているトレンなので仲間意識が生まれる訳もなく露骨にギスギスし始める。
当初は依頼に対する報酬の配分で揉め、と言ってもトレンが不条理な事を言っているのだが、リノと二人になった際にはスロノ側に常識がないだの一人で報酬をピンハネしているだの無い事無い事吹き込み続けており、最後にはリノをスロノの魔の手から守ると言い続けていた。
刷り込みとは恐ろしいもので繰り返す事でやがてはそれが真実のように聞こえてしまい、例えば依頼を受ける事、報酬を得るための処理をスロノが負担になるからと一手に引き受けている行動も、報酬を一人で独占しようとしているための行動に見えてしまう。
やがてリノからスロノの態度に対する苦言の様な相談を受けるようになったトレンは、作戦が上手く行っていると確信した上でリノを堕としにかかる。
甘い言葉と相当な経験からあっという間にリノは堕ちてしまい、そうなると最早何を言われてもトレンの言葉が正しいと信じて疑わなくなる。
日々自分に対する対応が悪化している事に気が付かないスロノではなく何とかリノに事情を聞こうとするのだが最早リノはスロノとの会話すら避けるようになっており、ここに完全に逆恨みとも言えるロイハルエスの復讐は完了した。
散々薬草採取を行っていたのだが、もう少し報酬が欲しいと感じていたトレンの強引な受注によって低レベルながらも獣・・・と言っても一般的な獣ではなく攻撃力や防御力が高く、魔獣と呼ばれている獣の討伐依頼を行う羽目になった。
「何で勝手に依頼を受けているんだ!俺達は全員レベルEの能力しか持っていないんだぞ?リノは<回復>、俺は<収納>、トレンは<索敵>だろうが!誰が戦闘できるんだよ!死にたいのか?」
「はっ、散々報酬をちょろまかしていた奴は言う事が違うな。良いか?魔獣と言ってもスライムやらしか出ない領域に行くから全く問題はないんだよ!少しでも戦闘経験を積まなければ能力のレベルも上がらない。お前は俺達の能力が上がるのを阻止したいようだが、そうは行かない!」
「そうよ。少しは私たちの事も考えてよね!」
まるで自分が正義であるかの様な物言いに愕然とするスロノ。
散々守ってきたリノが完全に敵に回った事も把握して最早反論する気力もなく、スライムよりは強いが能力に開眼していなくとも気を付ければ狩を行えると言われているゴブリンの討伐依頼に向かった。
今迄に自分の潔白、そしていかにトレンの言っている事がおかしいかを諭そうとしていたスロノなのだが、この会話でそろそろ潮時なのかと諦め始めていた。
その後の討伐時には最後の手向けだとばかりに自ら率先してほぼすべてのゴブリンを始末したのだが、偉そうにトレンが素材を運搬しろと指示を出し、更にはリノが露骨にトレンとイチャイチャしたいから早くしろとせっついてきたのだ。
もう何も言う気力もないスロノは全てのゴブリンを難なく運搬し、遅いと罵声を浴びせられながらも勝手に先導している二人の後をついて行き、納品時にあまりの量、そのほぼ全てをスロノが始末したのだが、その物量に驚かれ、その功績は何故かリノの偽証によってトレンの功績となっていた。
その後のギルドで、リノがかつて経験した言葉がスロノに投げかけられたのだ。