(28)ミランダ開眼②
未だに喧騒に包まれているギルドでスロノと向かい合っているミランダ。
「スロノ君。私の槍では命を犠牲にして精々一体が限度だと思うの。スロノ君が行けと言うのであれば行くけれど・・・」
悲壮な覚悟になってしまったミランダを見てやり方を間違えたと激しく後悔したスロノだが、もうここまで条件の揃った事態はそう起きないだろうと思い押し切る事にした。
「ちょっと良いですか?」
敢えて人気の無い場所に移動してから話し始めるスロノ。
「実は、もう一つの俺の能力が関係していまして・・・色々複雑な条件があるので詳細は明かせませんが、今回の実戦でミランダさんが<魔術>を使ってもらえれば完全に制御できる可能性が高いです」
良い言い訳が思いつかなかったので、全てをブラックボックスとして明かせないままに強引に連れ出す事にした。
「ふふ、わかったわ。スロノ君の言う事だもの。信じるわ。行きましょう!でも、スロノ君自身の安全は大丈夫なのかしら?私の能力が制御できれば守ってあげられると思うけど、直ぐに制御できるのかな?」
「えっと、どうでしょうか?久しぶりに力を使う訳ですから少しは戸惑うかもしれませんね。でも安全を見越しての遠距離攻撃ですからね。多少もたついても絶対に安全ですよ!」
久しぶりに術を行使するところは事実なのだが、戻した能力のレベルをAに上げているので力の加減が余計にわからなくなる事だけは間違いないと思い曖昧な回答になってしまうスロノ。
レベルEからレベルDと下のレベルの上昇は比較的楽と言われているのだが上に行くほどレベル上昇は非常に厳しいのがこの世界の常識であり、通常のギルドで見かける数少ない最強と言われるレベルはBだ。
以前スロノと共に行動していた【黄金】のドロデスは<斧術>Aを持っており、ここまでになるとギルドマスターも一目置く別格の存在と言われている。
かつてミランダが所属し、抜けた穴を埋めてパーティーの実績を大きく上げ続けていた【飛燕】のハーネルも<弓術>Bを持っており、彼女一人加わっただけで一気にパーティーの名声を上げる実力を持っていた事が証明されている。
つまり、ミランダの<魔術>Aは相当別格の力であると言って間違いなく、久しぶりである事や初めてレベルAの力を使うのだから初撃は以前の噂の通りに暴走してしまう可能性もあると思い至り、本当に少しだけ気後れしているスロノ。
「そ、そうだ!ミランダさん。一発目は久しぶりなので相当力を抑えて様子を見た方が良いですよ?」
周囲への被害を改めて考えた結果、冷や汗をかきながらも一応念を押しておくことにした。
「ありがとうね。私、頑張るわ!」
あまり時間が無いようで、志願した十人の冒険者に対して即座に移動の指示を出すギルドマスター。
正直十人は今回の対応をするには少なく、それも一部は補助的要員であり遠距離攻撃能力を持っていない人材も含まれているので、これでは防壁が持ち堪えられるほど間引けないかもしれないと判断したのか即座に町に残る冒険者に対して防壁に至るまでの間で攻撃できる体制を整えるように指示を出す。
ギルドマスターの視線の中にはミランダが見えており、彼女の噂・・・と言うよりも過剰な力を持っているが制御できずに能力が暴走すると言う事実を知っていたので、最悪は敵味方関係ないながらも最大限に術をぶっ放して、志願してきた残りの冒険者には申し訳ないが自分と共に犠牲になり町を守る事も有りだと腹をくくっている。
実は残り組の中にも遠距離攻撃の能力を持つ者は多数存在しているのだが、自らの能力を秘匿したい者、遠距離とは言え態々危険な場所に出向く事を嫌った者達が志願せずに現場よりは遥かに安全な防壁の中に留まっている。
「本当に来たのかよ。邪魔すんじゃねーぞ?」
十人と少ない人数の中に【飛燕】の四人とミランダ、スロノがいるので、急ぎの移動と言う事もあって大きな荷台に共に座って移動している。
明らかにミランダを見て発言しているのだが、当のミランダは緊張からか何とか術が暴走しないように精神を落ち着ける方に意識を削いで自分自身の能力を鑑定する事なく集中しているので、その姿を見たスロノは良い傾向だと感心していた。
【飛燕】としては完全に格下、それも迷惑をかけられた不良債権から無視されている形になるので殺気立つがギルドマスターの一声で大人しくなる。
「お前等、良く集まってくれた。緊急事態の為に特別製の魔獣の荷馬車に乗って貰っているので、間もなく奴らを迎え撃つ場所に到着する。高台になっている場所から獣共を見下ろす形になるからな。そこから遠慮なく最大限の攻撃をしろ。コレは町の存続をかけた戦いだと言う事を忘れるなよ?」
有り得ない程真剣な表情で言われてしまい、嫌でも緊張度合いが増しているこの荷台の面々。
実はスロノだけはギルドマスターの言葉で緊張しているわけではなくミランダの一発目がどうなるかに対して非常に緊張しているのだが、状況から誰がどう見てもギルドマスターの言葉で緊張しているようにしか見えない。
「良し、降りてくれ。ギリギリ間に合ったな」
指定された崖の上から下を見下ろすと、崖下までは相当距離がある。
「あっちを見ろ!」
町と真逆の方向を指定されて全員がそちらを向くと、この崖下を通過する為にかなりの数が移動しているのか土煙が見えて徐々に振動と足音も聞こえてきた。
「落ち着いて対処しろ。全滅ではないからな。間引きだ。ある程度遠距離で攻撃できるのであれば、崖下に来ていない位置から攻撃しても構わない。あそこまでの移動速度であれば攻撃されても余計な方向に向かう事は無いからな」
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