(27)ミランダ開眼①
今日から通常営業・・・です
何時もスライムを倒し、何時もスライムを収納し、何時もスライムを納品しているミランダとスロノ。
流石に<魔術>を行使する機会がないまま活動を続けているので、底辺の依頼しかこなせないミランダに対して過去にパーティーを組んでいた面々も全く興味が無くなっていた。
一方のスロノは・・・
場所が異なれば、同種の魔獣とは言え持っている能力が異なる事に毎日興奮している。
以前の町ではスライムから得られる能力はせいぜい<隠密>や良くて<索敵>だったのだが、この町では<浄化>の能力が数多く見られたのだ。
先入観かもしれないがそのおかげで町の周辺が非常に綺麗に見えてしまっているスロノは、楽しそうにミランダとの冒険者の活動をこの町で長く行っている。
推論として・・・証明する手段はなにも無いのだが、人も含めて生活環境によって大きく得られる能力が変わるのではないかと思っていた。
追加の能力は修練によって目覚める可能性がある事は知られているので、環境によって得られる能力が決められていても不思議ではない。
結論の出ない難しい事を時折考えつつ活動しているのだが、やはり気になるのはミランダの事であり二つ目の能力・・・本来スロノは知らない事になっているのだが、あの<補強>と言う能力を如何に無くすかについて考える。
本当は元から持っている<魔術>Bよりも上のレベルに上げる事が最も効果的な能力になるのだが、未だスロノは<補強>を最低のレベルEであっても一つも持っていないので、能力を統合してレベルを上昇させる事は不可能。
結局できる事と言えばミランダから<補強>を収納して補填として一旦<魔術>Bも収納し、レベルを上げて<魔術>Aにした上で付与すれば良いかと考えている。
贅沢な事に、前の町で長期間高レベルを持つパーティーである【黄金】と行動を共にした経験から<魔術>は相当数収納しており、レベルBをAにして返却する程度は何も問題はない。
ただ何時どの様にするのか・・・で悩んでおり、<鑑定>を使った結果、ここまで必死に槍を使っても未だにミランダに<槍術>が発現しない以上は、今後冒険者として活動する為には本来の<魔術>を普通に使えるようにしなくてはならないと思っている。
当人は以前次の道に進む事も考えると言ってはいたのだがその資金も真面に貯まっている状態ではないし、以前の【黄金】パーティーとの別れもそうだが何か予期せぬ出来事でパーティーを突如として解散する可能性もゼロではないので、早い段階で行動しなくてはならないと思い始めているスロノ。
とある日・・・何時もの様にスライムを始末しているのだが、その素材を収納している時に背後から大声が聞こえてきた。
「いつもいつも、底辺の仕事ご苦労さん」
「誰かと思えば、遥か昔に俺達と一瞬行動を共にしたミランダじゃねーの?お前って槍なんて使えたっけ?俺の記憶によれば、能力は<魔術>だった気がするけど?」
「あはははは、私の前の遠距離担当の方ね?初めまして。本当に地べたに這いつくばってお疲れ様です~」
「おい、俺達はそんな奴と違って忙しいんだ。さっさと行くぞ?」
最近は相当明るくなっていたミランダなのだが、やはり元仲間・・・唯一女性だけは当時のパーティーにはいなかったので知らないが、最近の実績から相当傲慢になってしまった三人の男性から有り得ない事を直接的に言われて落ち込んでしまう。
「ミランダさん!ミランダさん!!大丈夫ですよ。今は俺が仲間じゃないですか。あんな奴等、気にしたら負けですよ?」
「そ、そうよね。ありがとう、スロノ君」
その後はいつもの通りの作業が行われたのだがどう見てもミランダは見かけ上だけ元気を出しているのは明らかであり、その姿を見てスロノはミランダの能力を即調整する事を決断する。
しかしいくら信頼しているとは言えまだ最大の秘密を明かすほどの決心は出来ず、どうすれば余計な能力が無くなって、更に<魔術>のレベルが上昇した事を自身で認識できるのかを考える。
今の生活を繰り返している限りは<魔術>の能力を行使する機会は永遠に無いので、多少強引にでももう少しレベルの高い討伐依頼を受ける事にしようと決め、その日の夜にミランダが寝ている内に能力の調整をさっさと終えてしまった。
今のミランダが持つ能力は<魔術>Aだけであり、術の発動を阻害していた<補強>Dはスロノが収納している状態だ。
<補強>Dは<鑑定>の能力を使って調査した結果そのレベルDよりも下の能力を補強する分には有用だが、レベル以上の能力を補強しては能力自体が暴走する事が分かっているので今の所は死蔵になっている。
「で、明日の依頼は別の依頼を受ける・・・っと。どうやって話を持ち出すのかが課題だろうな」
一人呟き眠りについて翌日全く同じ時間にギルドに向かったのだが、そこは何時もの通りとはいかずに必要以上にざわついていた。
「あの~、今日も朝から依頼を受けたいのですが、依頼書が何も貼られていないのは何故でしょうか?」
喧騒についてはあまり気にならなかったスロノなので、何時も通りを意識して依頼書があるボードに向かったのだが何も貼られていなかったのだ。
流石に何時もの通りとはいかずに受付に事情を聞き始めた所、突然二階の階段の上からギルドマスターの大声が響いた。
「お前等、良く聞け。一部の者は既に知っているだろうが、西の方角から大量の獣と魔獣がこの町に向かっている。このままでは防壁が破壊される可能性が高いので、防壁で耐えられる程度に間引く必要がある。なーに、恐れる事は無い。全滅させろとは言っていないからな。安全を見て遠距離攻撃の能力を持つ者を中心に部隊を募る。当然だが特別報酬が出る。申し訳ないが、通常の依頼はそう言ったわけで今日は発行する事が出来ない。遠距離の能力を持つ者、持っていなくとも何らかの手立てがある者は積極的に受付に申し出てくれ。時間はあまり残されていない。頼むぞ!」
これだけ言うと、恐らく他の町のギルドと連絡を取るために奥に消えて行くギルドマスター。
「ミランダさん、困りましたね。今日の依頼は出されないようですから宿に戻りましょうか?」
スロノとしては荒事の対処は慣れているギルドマスターを筆頭に他の冒険者に任せておけば良いと言う思いがあったのだが、こう問いかけた後に冷静に考えればこの部隊に志願すれば嫌でも能力を改めて確認してくれるのではないだろうかと思い至る。
「はははは、ミランダ。お前等はさっさと尻尾巻いて宿に逃げておけ」
「そうですよ~。貴方の後にこのパーティーに加入して素晴らしい実績を上げているこの私ハーネルに任せて、縮こまって震えていてください。私の弓が火を噴きますから!」
「そうだぜ。ハーネルの言う通りだ。俺達はハーネルと違って遠距離の能力じゃねーが、志願してサポートに回る。腰抜け共、邪魔にしかならない弱者は目障りだ」
「完全に同意だな。邪魔だ。どけ!」
再び現れる以前ミランダが所属していたパーティーの【飛燕】四人は最近の実績から相当横柄な態度になっており、その態度に心穏やかではないスロノは能力を認識してもらう良い機会だと思いついていた事もあって自分達も志願すると告げる。
「ミランダさん。俺達も志願しましょう」
「あはははは、志願するのは勝手ですけど~。射線に入って私の邪魔をしたら容赦しませんよ?」
ハーネルと言う<弓術>を持つ女性はこれだけ言うと、残りの三人と共に受付の方に向かって行った。




