(26)新たな人物との出会い③
「それじゃあ、俺の宿に来てください」
「え?初日から?ちょっと心の準備が・・・スロノ君って、見かけによらず大胆なのね?」
どうやら激しい勘違いをされてしまった様だが、ミランダとしては救ってもらったと言う思いがある事から望まれれば・・・と言う気持ちでいたのは事実だ。
「あの~、俺ってそんな事をするように見えます?」
「あ、あはははは、見えないわ。ごめんね、スロノ君」
どう見ても年下のスロノから呆れたような視線を向けられてしまい、慌てて否定するミランダ。
「でも、私、お金持っていないわ・・・」
「今更何を言っているんですか?仲間ですから俺が出しますよ。分かっているとは思いますけど、二部屋ですからね!」
【黄金】と共に行動した時とは違った楽しさを感じながら、互いの親睦を深めるために一日町を散策し、現地を見ながら詳しい情報を教えてもらったスロノは共に宿に向かって追加の部屋をお願いした所で、思いがけない事件が発生する。
「ごめんね。もう部屋は余っていないんだよ。同じ部屋で良ければ布団を鉄貨1枚(千円)で準備できるけど、どうする?」
何と二部屋目が取れない状況に陥り、どうすると言われても他の宿を探せるような時間ではないので、提言を受け入れる。
「あの・・・図らずもこうなりましたけど、俺の方に潜り込まないでくださいね?」
何故かスロノがミランダを警戒するかのような物言いなのだが、一応床に準備されている布団の上からベッドの上で申し訳なさそうにしているミランダに向けて気持ちを楽にしてもらうつもりの冗談で伝えている。
「ふ、ふふふ。有難うスロノ君。本当に有難う。私、今日一日で本当に世界観がとっても変わったの。正直、スロノ君と活動してお金が溜まれば、冒険者じゃない仕事で生活をしても良いのかなって思い始める事が出来たの。普通に考えれば冒険者は若い内しかできない職業だから、その時が人より早く来るだけって気が付いたの。あっ!でも安心して。足手纏いだけれど、スロノ君が納得するまではお付き合いさせてもらうわ」
どうやらスロノの意図を把握してくれた上で、心の錘も少し取れたように見える。
ミランダの言う通りに冒険者は非常に過酷な職業なので、普通の商人等と比べると仕事についている年齢層は非常に若い。
残念ながら平均寿命も短く、以前の三人組の冒険者の様に実力を勘違いして罪を犯して裁かれる者、裁かれないが暴走してそのまま獣の餌になる者、何れにしても余程の実力と運が無ければ年齢を重ねた状態で冒険者として活動し続ける事は不可能だ。
この世界で数人と言われている戦闘系統レベルSの能力を持つ者やレベルAクラスであれば、現役を長く続けることができるのかもしれないが・・・
その後・・・先ずは最も危険のない魔獣と言われている粘性のスライム討伐をメインに活動を始め、やはり能力がないために相当ぎこちないながらも必死で槍を扱って行動しているミランダと、ミランダが始末した素材を回収しているスロノ。
この時点でスロノは自分が持つ一つ目の能力はレベルは開示せずに<収納>と伝え、二つ目の能力もあるがそれは今の時点では明かせないと告げていた。
ミランダも二つ目の能力についての詳細はスロノに教えていないので、特に自分から聞くような無粋な真似はせずに必死で槍の扱いを覚えている。
しっかりとした師がいる訳でもなく、スロノも<槍術>を収納してはいるがここで使ってはもう一つの能力と敢えて隠している能力が決定してしまう事もあって、何もできずにいるまま日々過ごす。
「えっと、スロノ君?どう考えても私達の収入に対して生活が合っていないと思いませんか?」
相変わらず一部屋で生活をしているのだが、ある日突然ベッドの上で正座をしているミランダが真剣な表情と口調でスロノに問いかける。
「え?そうでしたか?気が付かなかったなー。勘違いじゃないでしょうか?」
スライムしか倒していないのではっきり言って収入は下の下、一日銀貨1枚(1万円)もらえれば御の字であり、この宿だけで追加の布団も併せて一日鉄貨9枚(9千円)かかっているのだ。
そこに食費やらなんやらがかかるので、どう考えても毎日持ち出しが出ている事に漸く気が付いたミランダ。
「スロノ君!毎日私に報酬をくれていますけど、今更ながらどう考えてもおかしい事に気が付きましたよ?本当に無理をさせてごめんなさい」
最後は泣き始めてしまったので、何とか誤魔化す為に作り話をする。
「お、落ち着いて!ミランダさん。実は・・・確かに持ち出しですけど、俺って収納の力を使って結構商人から頂いていたんですよ。コレが証拠です。それに、俺はミランダさんと一緒に活動できる事で安らぎを頂いていますから!」
敢えて証拠を示すかのように、【黄金】パーティーと共に行動をしていた際に貯めていた貨幣の一部を見せる。
収納から出したのは金貨10枚(100万円)であり、実はもっとあるのだが、あまりにありすぎても色々詮索の対象になると思い適度な量を出したつもりだ。
そう言えばコレを貰う際に遠慮したけど、無口な【黄金】の二人に強制的に押し付けられたなー・・・と、何となく頬が緩んでしまう過去の出来事を思い出していたスロノ。
「す、凄いわね、スロノ君。やっぱり思った以上に凄い人なのね。いつも迷惑ばかりかけてごめんね。ありがとう」
流石に現物を見させられては納得するほかなく、迷惑をかけている事は事実として受け止めながらも、これ以上自分を卑下してはスロノにも申し訳ないと思い気持ちを切り替えたミランダだ。