(25)新たな人物との出会い②
周囲の者達がミランダの能力のうちの一つ、メインの能力が<魔術>Bだと知っているのは、そもそも能力が暴走する前に<魔術>しか使っていなかった事、当時のパーティーの状態からもどう考えてもミランダは<魔術>持ちである事から推測、確定されていた。
その後のレベルについては、コレは暴走分も含めての威力から推測しただけであり、確かにレベルBで合致していたが<補強>によるブースト分を考慮すると、全く制御は出来ていないが魔術の威力はもう少し上、敢えて言うならばレベルB上位の力を持っている。
「あの・・・私の事、色々聞いたと思うけど。ごめんなさい!言われている事は事実です。でも、決して君を巻き込む様な術を発動するつもりはなくって、この槍で仕事が出来れば良いかなって思ったんです」
基本的に長距離攻撃の手段としてパーティーに迎え入れられるのが<魔術>持ちであるため、他の攻撃手段としてはなるべく敵から距離を取れる弓か槍になるのだろうと思っているスロノ。
事実ミランダは第一選択肢として弓を練習していた中で、壊滅的に矢が的に向かわないので消去法で槍を選択していたのだが、そこについては問い詰めるような事もせずに黙って聞いていた。
「あの・・・。大丈夫ですよ?俺は本当に何とも思っていませんから。頭を上げてください、お姉さん」
怒られるか軽蔑されるかと思っていたミランダは、予想以上に優しいスロノの態度と表情に安堵したのか肩の力がようやく抜けたようだ。
その後二人は共に食事を進め、町の様子、主な依頼、周囲に生息している獣や魔獣の情報を楽しく話す事が出来た二人。
「今日は本当に有難う、スロノ君。私もいつか<魔術>の能力をもっと上げれば、もう一つの能力の支配を跳ね返せる時が来ると思うんだ。そこを目指して頑張るの!」
一連の会話の中で、この能力が発現した為に本来の能力をコントロールできなくなっているもう一つの能力がある事まではスロノに教えていたミランダ。
流石に能力の名前やレベルまで伝える事はしないが、その上で叶わないかもしれない願いを口にしていた。
「あの、この世界って能力を無くす方法ってないんですか?」
異世界の記憶もある事から思わずこのような言い回しをしてしまって少々焦るスロノだが、特段違和感はなかったらしくミランダは少し悲し気な笑顔で呟く。
「私もその方法を真っ先に探したの。以前の様に普通に能力を使いたいから。でも、能力を失う方法なんてなかったわ。できるとすれば、死ぬ時か・・・もしできても両方の能力を失うのでしょうね。不都合な能力だけを無くせるなんて、都合の良い事は起きないわ」
スロノは俺なら簡単にできてしまうし見た事も無い<補強>の能力は正直欲しいと思っているのだが、そのような事は口にできない。
スロノはもう一つ口にできない事実を掴んでおり、実はこの<補強>は他の能力を言葉通りに補強する能力なのだが、他の能力のレベルよりも低いと今回の様に暴走に繋がる事を鑑定で把握しており、ミランダの願望である<魔術>の能力を上げてしまえばしまう程余計に暴走する結果になる。
苦肉の策で、このような事を聞いてみる。
「えっと・・・もう一つ聞いても良いですか?その能力についての情報って、ギルドで聞けば何か分からないのですか?」
「ウフフ、ありがとうね、スロノ君。それも聞いているわ。でも、この能力は凄く希少らしくて、何も情報がなかったの。親切な受付の人が王都のギルドにまで問い合わせてくれたから、これ以上の情報は無いわ」
簡単に悩みを解決する事は出来るし自分もとても珍しい能力を手に入れる事が出来るWIN-WINの関係ではあるのだが、<収納>E.の力を開示するわけにはいかないのでこの場では能力に関しては何もできないスロノ。
一方の生活面では補助が出来ると思い、どう考えても能力を持っていない槍を使って単独で依頼を達成できているようには見えず、残念ながらこの町では薬草採取等の依頼は一切ないようで生活に困窮しているのは空腹状態にあった事から明らかであり、話し相手も欲しかったスロノは行動を共にする事にした。
「あの、さっきのパーティーの話し、よろしくお願いしますね?」
「・・・え?私の能力の話し、聞いたでしょ?能力を使えばスロノ君が危ないし、使わなければ依頼は達成できないわよ?」
空腹や今後の生活への不安もあって勢いで自分からパーティーを組むようにお願いしておきながら、腹が満たされて余裕が出てきたおかげか今更ではあるが実際に共に行動した場合にはスロノに大きな迷惑をかけてしまうと思い至ったミランダ。
「え?今更ですか?でも、大丈夫ですよ。こう見えて俺って優秀ですから。大船に乗った気でいてくださいよ」
周囲の冒険者達もこの状況は把握しているのだが、重ねての話しになるが冒険者の行動は自己責任である事、そして事情は全て忠告済みである為に特に反応される事は無い。
「あ、ありがとう。本当に有難う、スロノ君。私、頑張るから・・・」
遠目でこの様子を見ていたのは過去にミランダとパーティーを組んでいた冒険者達であり、一時期ミランダの為に必死で行動していたが、結局彼女が自責の念に駆られて自主的に脱退してしまった後は新たな遠距離攻撃の能力を持つ者と共に行動し成果を出していたので、ミランダに対する情はいつの間にかなくなっていた。
今の状況を見てもわかる通り、空腹にあえいでいるミランダに助けの手を差し伸べるでもなく、スロノとパーティーを組んだと聞いてもせいぜい頑張れ程度にしか思っていなかったのだ。
そのミランダが<魔術>Bと言う破格の力を正しく使えるようになったとすればどうなるかは容易に想像できるし、またスロノの力が有れば<収納>E.の能力を明かさずにいつの間にか・・・と言う事も可能なので、杞憂とも言えるこの考えは近い将来実現してしまう事になる。
残念な事にスロノが冒険者として活動する際に良い人と巡り会えたのは、ミランダを最後に中々訪れる事は無かった。




