(233)国王サミットの実力
ギルドマスターのシャールからメンティスの家族の救出と共に、闇ギルドから狙われている可能性の高い貴族の保護の依頼を受けた【黄金】。
「何で突然こんな事になるんだよ!これならあのクソの件を公にした方が良かったんじゃねーか?」
ドロデスがブツブツ言いながら移動のために走っているが、エルロンの件は機密指定されているので具体的には口にできない。
「仕方がないわよ、ドロデスさん。国は国の考えがあるのだから、私達にはわからない苦労があるのではないかしら?」
「そこは分かるがよ?そのおかげでこれだけ騒動になってりゃ世話ねーと思わねーか?ミランダ」
「そこを言われると辛いわね。って、ここから解散で良いかしら?スロノ君は王都で救出作業。私達はこの町に侵入してしまった魔獣の始末。終わり次第すぐに王都に移動。良いわね?」
最近ではミランダが【黄金】の方針を決定して全員がその指示に従った方が効率は良いと経験上理解しているので、直に全員がバラバラになって行動する。
広範囲に魔獣が侵攻してしまっている事を把握したので纏まって対応するのは効率が悪く、Aランカーの実力があるので個別に対応しても全く問題ないのでこのような作戦にしていた。
スロノだけは距離のある王都に至急向かっており、メンティス侯爵の妻と娘を救出する為に既に<操作>を自らに排出した上で先行して情報収集をしている。
メンティス侯爵の家族を救出する事に異存はないのだが、一度も会った事が無いので髪の色やら瞳の色を聞いているだけで現実的には当人を目の前にしても本人かは分からない。
そこで思い切ってギルド総代のシュライバか国王サミットに直接会って事情を説明し、メンティスの家族を良く知る人物に同行してもらおうとしている。
「冷静に考えればそうだよな。俺が貴族の家族と会うなんて滅多にないし・・・」
貴族として真面に顔を知っている人物はエルロンを除くとユリード子爵しかいないので、勢いで依頼を受けて飛び出した自分を恥じているスロノ。
そうこうしている内に王都に到着するのだが、逐次情報を得ていたので内部に侵入していた魔獣や闇ギルドの面々については相当捕縛されるか始末されている事を知っているので少しだけ余裕がある。
だからと言って救出対象が無事である保証がないので、色々と現場で忙しそうにしているギルド総代シュライバよりも国王の方が話しは早いだろうと迷う事無く王城に向かう。
この辺りに関しては少々常識がズレてきているが、エルロンの騒動を収めた事を知られている一部の上層部からは国家の救世主と思われているので大きな問題にはならない。
「それにしても随分と・・・派手に暴れたのかな?」
外部から魔獣を侵入させるために壁は破壊されており、その周辺は国側の対処が一歩遅れたのか大きな被害が出ているように見える。
「エルロン・・・いなくなって尚ここまで被害を出すなんて、やっぱり暴風だな」
一人ブツブツ言いながら王城に急ぎ向かっているのだが、そこに意識の外から突然声を掛けられる。
油断と言えば油断だが、今この場所では危険はあまりないだろうと思い周囲の警戒を若干疎かにしていた部分は否定できないのだが、それでも簡単に近接される様な実力ではない。
「スロノ殿!」
「うわっ!び、びっくりした。驚かせないで下さいよ、スクエさん!」
そこに現れたのはサミット国王の影として活動しているスクエであり、スロノも久しぶりに会えたことから嬉しくなっている。
「コレは失礼しました。スロノ殿は今回の騒動の対処でこちらまで来られたと言う事で宜しいですか?」
「あ、はい。そうですが王都に関しては問題なさそうですけどもう一つ大切な依頼がありまして、メンティス侯爵の御家族が闇ギルドのメンバーに拉致されている様なのです。それに、同じ状況になっている貴族の面々がいる可能性が高いと聞いています」
現時点でスロノが集めた情報では隠し部屋のような場所に避難しているように見える人物は多数いるのだが、監視されている様な状況は何一つ見つける事が出来ずにいる。
ひょっとして間に合わなかったのかも?と思ってしまうのは仕方がないのだが、その言葉を聞いたスクエは笑顔になっている
「やはりスロノ殿・・・【黄金】の面々も変わっていないですね。嬉しいです」
突然褒められて正直悪い気はしないがそれどころではないと思い、急ぎサミットとの面会を申し出る。
「あの・・・ありがとうございます。正直あまり時間がないと思うので、依頼を遂行する為に陛下に助力を求める必要があるのです。申し訳ありませんがスクエさんの力で早めに謁見させて頂けると助かるのですが」
「ふふふ。スロノ殿?ここは王都。民を守るべき力を持つ陛下がいらっしゃる場所ですよ?予期せぬ急襲によって一部被害は出ておりますが、そのまま座して見ている事は絶対にない場所です」
それはそうだろうし、現実騒動は収まっているように見えるので異論はないのだが・・・やはりメンティス一家が気になるので少し焦り始めるスロノ。
「遠回しな表現でしたね。スロノ様が危惧されていたエルロンと繋がりがある面々に関しても、陛下は継続して調査されていました。防壁や周辺の建屋に物理的な被害は出てしまいましたが、大きな人的被害はありません。そういう事ですよ?」
メンティス一家は救出されていると伝えているので、漸く肩の力が抜けたスロノだ。




