(231)呪縛から逃れられない
闇ギルドはギルドマスターが代替わりした事によって恐怖政治が実行されており、言わずと知れた暴風エルロンがその二つ名の通りに容赦なく所属の面々を追い詰めていた。
時折所在不明になる事があったのだが、完全に死亡したと思っていてもいつの間にか復活しているので今回も同じだろうと誰しもが思っている。
国家の体裁を取り繕う事・・・取り繕う部分だけ聞けば非常に情けないながらも非常に重要ではあるのだが、その分闇ギルドのメンバーすらエルロンは単純に過去同様不在にしていると思っているので被害が出ている。
今回ソルベルドをコントロールする為にミューを拉致しようとしていた存在だがサルーンの乱入であっけなく失敗し、実行犯一人を除く二人は撤収していた。
サルーンがいなくともミューの気配はしっかりと把握しているので、仮に席から強引に移動させようとした場合には瞬時にソルベルドが守りに行っただろう。
例え用を足していた最中で真面に処理が出来なかったとしても、何よりミューの安全が至上命題なのだから・・・
そして逃走していた二人だが任務失敗はエルロンが戻ってきた際に許されない事象だとして罰を受ける可能性が極めて高いと知っているので、こうなってしまっては思い切って行動するべきだと再び踵を返している。
ソルベルドだけではなくサルーンもいるので間違いなく玉砕する事になると知っているのだが、最早後には戻れないのでエルロンにより罰せられるよりも思い切って任務を遂行した方が良いと判断した。
「畜生・・・こんな事ならもう少しあの店で飲んでおくんだった」
決意してもやはり後悔は残るので愚痴を吐きながら移動しており、この部分だけを聞けば理由はさておき任務を遂行するために死地に赴く気丈な人物と見えない事も無い。
実際には闇ギルドとしてこれまで散々悪さをしていたので、突然駆られる側の立場になって弱気が出ているだけなので因果応報だろう。
「どうする?周囲も纏めて・・・か?」
ある程度距離を開けておかなければソルベルドやサルーンに察知されて攻撃されかねないと思っているので、望遠鏡の様に遠くを見通せる道具を使用して距離をしっかりと開けた状態で監視している。
「クソが・・・楽しそうに飯なんて食いやがって!」
完全な言いがかり、理不尽な文句ではあるのだが、視界の先には本当に楽しそうなサルーンとミュー、そして何故か不満げな表情のソルベルドが見えていた。
「アイツはどうする?」
現場に取り残されている闇ギルドの仲間の事を形上聞いているが、どうするもこうするも無く助ける事は不可能だし余計な事に配慮する余裕がない事も知っている。
「何もできないだろう?今更どうしようもない。俺達二人で突っ込んで自爆だ」
Sランカーを相手にする以上は相当な危険を伴うので各種道具を装備しており、その中には当然爆発を起こす道具も含まれている。
「・・・なぁ。コイツを投げ込む事で任務達成にならないか?敢えて俺達も巻き添えを食う必要が何処にある?」
やはり命は惜しいので一人が道具だけを投げ込むように告げており、こうなると本来の目標であるソルベルド以外・・・同僚の捕縛されている一人と店の中の一般人は作戦が上手くいけば巻き添えになる。
「それもそうだな。だけどあの二人は避難してしまう可能性も有るのではないか?」
ソルベルドとサルーンを良く知っているのでこの一言を否定する情報は何一つなく、二人は結論が出ずに行動する事が出来ない。
「お、俺は闇ギルドを抜ける。エルロンも俺の様な雑魚一人を探し出して始末するような事はしないだろうし、極力遠くに行って第三者として生活すれば安全だろう」
「お前はエルロンの本当の怖さを知らないから簡単に言うが・・・いや、それしか方法がないのかもしれないな」
何をするにも今店で気絶している同僚は見捨てる事になるのだが、逃亡であれば店や関係の無い第三者に対する無駄な被害はなくなる事になる。
二人は互いを見て真剣に話しをしており、何方かが仮に裏切って闇ギルドに連絡してしまえば一巻の終わりだと思っているのでしっかりと視線を合わせて互いの表情の変化を見逃さないようにしている。
今のところ両者共に裏切る様な気配を感じていないので腹を割って話しをする事が出来ており、流れは完全に組織を抜けて逃亡する方に傾いている。
「俺達の任務は難易度が高すぎた。他の連中の様に貴族に脅しをかける方がよっぽど楽な仕事だからな」
「その通りだ。土台無理な任務だったのだから、現場の判断で臨機応変に対応する方が組織としての無駄な被害も少なくて良いだろう」
勝手な理論で自己正当化できる部分を必死になって探しており、何を言おうが組織を抜けて逃亡する事だけは決定している。
「なんや・・・こいつは見殺しか?言っている事もようわからんし、そもそもお前等はミューはんを狙った以上は許される事は無いで?」
そこに突然聞き覚えのある声がしたので恐る恐る振り向くと、何故かそこにはソルベルドが厳しい表情で立っていた。
「な?バカな!」
少し前まではサルーンとミューが楽しそうに話しているのを少し不満そうな表情で見ていたはずなのだが、視線を外した僅かな時間に何故?と言う気持ちしか湧いてこない二人。
ソルベルドは仮に仲間を救うのであれば周囲に逃亡した二人は潜んでいるだろうと思って周囲を何時も以上に観察していた為、即座に存在を感知していた。




