(222)エルロンの笑み
経験豊富なSランカーであれば最大の不穏分子の情報は程度の差は有れ掴んでおり、誰しもがソルベルド同様に数日以内に動き始めると考えていたのだが・・・その予想よりも早く既に攻撃を始めているエルロン。
丁度他のSランカーがテョレ町に到着する頃には町の外周近辺に到達しており、流石のスロノも新たな情報収集を行う為に対応レベルを上げようと対処し始めた所だった為に全く情報を掴めていない隙をつかれている。
力が相当底上げされているエルロンであれば<操術>の影響下にある存在を把握するのは容易であり、一旦全ての存在が消えたと把握した時が動きどころだと決めていた為に実行が想像よりも早くなっていた。
奇しくもスロノの対応がエルロンの行動を速めていたのだが、幸か不幸か迎え撃つスロノ側も情報をある程度把握した上で最低限の準備は完了している為に直に対応できている。
だからと言って万事上手くいくかと言えばそのような事は無く、各自が単独でテョレ町に向かっていたSランカー三人・・・流星ビョーラ、聖母リリエル、魔道リューリュは既に相当な重傷を負っている。
辛うじて止めを刺されていないのは順次到着したSランカーの追撃によるものだが、最早風前の灯火に近い状態でエルロンに対峙していた。
「このクソ雑魚が!お前の存在自体が害であり毒や!新たな力を得て調子にのっとる様やが、この愛のソルベルド様がきっちり引導わたしたるで?」
敢えて挑発する様に人差し指をクイクイまげてかかってこいと言わんばかりの態度のソルベルドだが、自ら突進しないのはエルロンの右手にリリエルが意識の無い状態で掴まれているからだ。
「はっ・・・雑魚程群れやがる。んで?お山の大将のサルベルド?テメー程度が俺様に何をするって?」
そう言いながらリリエルをソルベルドの方に投げると同時に自らも突進する。
残念ながら自らを補強するグローブはラルドが作成した品よりも劣化品しか持ち合わせていないのだが、どの道相当地力が上がった今であればそのような品は不要だと切って捨てているので素手のまま突進しており、甘ちゃんのソルベルドであればリリエルを受け止める際に隙が出来ると確信している。
有り得ないが万が一にも反撃に有っては次は無いと理解しているので、ここに至るまでにSランカー三人を相手に優位に事を進める事が出来た実績がありながらも油断せずに行動している。
一方のソルベルドとしては重傷を負っている流星ビョーラや魔道リューリュが投げられたリリエルの対処が出来るほどの状態ではないと正確に把握しており、スロノは別にしても【黄金】の他の面々も対応しきれないと確信していた。
「任せてください!」
当然唯一の不確定要素であるスロノがこう告げてリリエルをソルベルトに着弾する前に風の魔術で受け止めて見せており、仮にスロノが素のまま受け止めたのであれば一気に始末してやろうとした目論見は瓦解する。
だからと言って攻撃を止める様な男ではないので、勢いを殺さずにそのままソルベルドに拳を叩きこむ。
正直相当負傷しているリューリュやビョーラにとって傷がない状態でもその攻撃を完全に認識する事が出来ない程の速さと威力なのだが、難なく往なして見せたソルベルド。
今はスロノから渡された槍ではなく、過去同様にギルドから支給されている槍を使っている。
新しい槍では力の加減がわからずにリリエルにも何らかの余波が向かってしまう可能性があると考え、使い慣れている槍を出したに過ぎない。
一方で油断もしていないし力も抜いていないがあっさりと攻撃を往なされたエルロンは、一瞬で間合いを取る。
往なされた直後はどう考えても槍を使うソルベルドの間合いであり、近接すれば自分有利と分かっているがそこに至る前に何らかの反撃をされてしまうと本能で理解していた。
「雑魚エルロン。相変わらず逃げ足だけは早いんやな?最も得意な分野を鍛えぬいたんは流石やで・・・クソ雑魚!」
一瞬交わっただけで相手の力量がわかるのも強さであり、ソルベルドが相当な域に達している事は理解しながらもこれだけ短時間で強くなる事は有り得ないと思い、自分と同じ方法で力を得たと判断して思わずこう告げてしまったエルロン。
「テメー・・・何処で<補強>を手に入れた?」
「・・・やっぱり<補強>やったんか。あれだけ制御が難しい能力を使いこなすところだけは流石やが、まぁそれだけやな。何も考えられへん無能雑魚に力を与えてしまった、極めて悪い方の典型や!」
エルロンの肌感覚では今のソルベルドは互角の力を持っており、そこに無傷のSランカーであるスロノも敵にいるので当初の想定では楽に蹂躙できると思っていたのだが一切の油断はできない。
リリエルの意識が戻ってしまえば重症のSランカーも息を吹き返す可能性が高いのでそこだけに注視しており・・・Aランカーの【黄金】メンバーは脅威となり得ないので意識の外に置いている。
まさかスロノ自身も<回復>を持っているとは思わないので、ぱっと見手持ちに回復薬を常備していなさそうな事から過剰に意識を向ける事は出来なかった。
事前予想に反して同格となっているソルベルドがいるからだが、エルロンの思考によれば同格同士で暴れまわれば余波によって周囲の有象無象は塵になると極論に達するのも直ぐだ。
すかさず獰猛な笑みを浮かべ、有無をも言わさずにソルベルドに突進して正に暴風を巻き起こしながら苛烈な攻撃を行う。
ソルベルドはまさかSランカーが重症・・・リリエルに至っては意識が無くなるほどのダメージを負わされているとは思わなかったので現状のままでは被害が拡大すると思い、過去同様に戦場を移す方向で調整する。
この段階でも新たな槍は使えないので、自由に動けるエルロンと比較すると若干不利だ。