(219)猶予はない
「そんな事が・・・あるのだろうな。制御できない膿を危険を顧みずに潰さざるを得ない所まで来たか。スクエよ、本部のシュライバとテョレ町の【黄金】、ギルドマスターのシャールにも同じ情報を流してくれ。当然他のSランカーにも招集をかける事を忘れるな?」
「承知しました」
今のエルロンは自ら全力で対処しても勝利する事は絶対にできないと冷静な判断まで付け加えて報告しているスクエであり、ここまで断言される程の力であればなりふり構わずに潰すほかないと直に行動に移すように指示を出す国王サミット。
サミットは瞬時に目の前から消えるスクエを見ながら、これ程の力がありながらも間違いなく負けると言い切らせるに至ったエルロンの弱点を考えている。
一方のスロノ含む【黄金】は、スロノからエルロンが圧倒的な力を手に入れたと聞いている。
スロノはあれ程の存在が大人しくしてくるわけがないと確信している事から、例のパーティーで遭遇した直後から<操術>を使用して監視を継続していた結果スクエよりも早く事実に到達している。
「間違いなく制御不可能になる程の力を手に入れ、その後修練を積む事でその力自体を我が物にしました。想像では、ミランダさんが過去に持っていた<補強>の力をそのまま使えるようになったと考えると良いかもしれません」
「はぁ?マジかよ、スロノ!確か・・・俺はその目で見た事はねーがよ?制御が全くできない程に一気に力が強化されるんだろ?それを使いこなせる状況ってことは、相当ヤベーんじゃねーのかよ?」
「確かにドロデスさんの指摘のとおりね。私もあの力を使いこなせていればと思う事が度々あったのは事実だけど・・・こんな事なら貴族だからって遠慮せずに早い段階で潰しておけばよかったわね」
最早スロノが情報収集に関する能力を持っている前提になっているので、何処からその情報を得たのかについての質問は一切出てこない。
「あの・・・ギルドマスターがお呼びです」
そこにギルド職員から声がかかり、どう考えてもたった今スロノが齎した情報に関する対策の件だろうと直に言われた通りにシャールの元に向かう。
「邪魔するぜ?シャール。エルロンの件だろう?あのクソ野郎が貴族としてイチャモンを中途半端に付けたかと思ったら急に大人しくなった挙句、テヘランと共に行方不明。そのまま消えちまえば良いのに、今度は有り得ねー程の力をつけやがったそうだな」
「・・・その通りだが、流石に情報が速いな。正直俺も今更ながら騒動を起こそうとするエルロンに辟易しているが、冷静になって考えると貴族を動かして視線をそちらに向けている間に自らの戦力増強を行っていたのではないか?」
全くの誤解ではあるが、事情を知らなければ落ち着いて力を付けるために他の部分に意識を集中させていた所に関しては真実味がある。
「シャールさん?そうかもしれませんがそうでないかもしれません。経過はどうあれ、今後脅威度が圧倒的に増したエルロンの対策を考える方が先ではないですか?」
「すまないミランダ。その通りだな」
過去を掘り起こしても何もできないので目先の対応を優先すべきだと告げたミランダと、反論する余地が無いので素直に応じるギルドマスターのシャール。
スロノとしてはテヘラン侯爵の邸宅にエルロンが侵入して何やら画策している部分までは理解していたが、意思疎通が本当に大雑把にしかできない存在により監視していたので具体的に何が起きたのかは分からない。
故に詳細に関しては何も説明する事は出来ないのだが、自分では導き出せない対策が出るかもしれないと分かる部分だけ説明する。
「あの・・・今更かもしれませんし確度が低く恐らくとしか言えないのですけれど、テヘラン侯爵?の部屋で新たな能力を手に入れた可能性が高いです。どの様な能力かは不明ですけど、その力を我が物にするための修練期間だと思います」
「そうか。情報感謝する、スロノ。確かにテヘラン侯はエルロンと共に同時期に失踪した事実がある。そして今回情報を得られたのはエルロンのみ。つまり、確定ではないながらも貴族側からの攻撃については必要以上に考慮しなくても良いと思う」
「んじゃーよ?どの道潰し潰されの間だから、悩む時間すら勿体ねーだろ?それならば考える時間を与えねー様に、こっちから一気に潰しに行こうぜ?」
そう時間を空けずにエルロンが攻撃してくる可能性は高いと確信しているので、その程度の時間では自らの戦力を増強する事は不可能である事を理解して導き出した最適解・・・少しでも油断している間に先制攻撃を行い、倒せないまでも大きな負傷を与えておけば他のSランカーが始末してくれると考えていた。
「ワイもその意見に賛成や。ゾンビみたいに復活しよる雑魚・・・明確に目の前で始末せん限り、ミューはんとの心休まる一時がやってこんと気づいたで」
「ソルベルド!随分とはえーな。これほどの事態だから声がかかっているとは思っちゃいたが、シャールが事前に連絡したのか?」
「いや、俺は少し前にスクエから情報を聞いただけだが・・・スクエが急いでくれたので情報が回っていたのかもしれないな」
「ぶっぶー。どっちも違うで!ワイはワイなりにあのクソ雑魚の情報を集めとったんや。当然やろ?幸せを築くための最大の障害・・・不穏分子の動きをある程度把握しておくことは必要や。当然他のメンバーもそうしとると思うで?」
突如現れたソルベルドの予想通りに事実スロノは情報収集を継続していたおかげでスクエの連絡よりも早く状況を把握していたし、他のSランカーもエルロンが何度目になるかわからないが暴れる可能性が高いと把握しているのでギルド総代シュライバからの連絡を受ける前にテョレ町に向かっていた。
「ワイはドロデスはんの案に賛同するで!待機できるのは一日。それ以上であればあのゴミが動き始める可能性が高いと思うで?つまり、他のメンバーを待てるのは移動時間も考えると今日までや」
変わらず軽い感じのソルベルドだが、エルロン相手であれば常に命の取り合いになっていた事から今回も相当な危険がある事だけはしっかりと理解している。




