(210)改善?
「こいつは・・・ちょっと荷が重いんじゃねーの?」
原因不明で改善の糸口すら掴めていないので、流石のドロデスも何をどうして良いのか分からなくなっている。
ミランダも悩んでいる表情なのを見て、ここは自分しかいないとスロノが口を開く。
「えっと、ここは逆転の発想で行ってみてはどうですか?」
「「逆転??」」
スロノの言わんとしている事が理解できないので、ミランダとドロデスの言葉が被る。
「そうです。原因は分かりませんけど、この場の全員のやる気が失われているのは明らかですよね?」
「そこを否定できる様な強者は居ねーな」
ドロデスの言葉にウンウン頷いているジャレードとオウビ。
「ですよね。こんな時に強制的に尻を叩いても効率は悪くなりますし、何より危険です。ですから、ここは思い切って休息の期間としましょうよ!」
「あの、スロノ様?非常に斬新なアイデアですが、その間にもギルドの依頼は溜まるばかりですし冒険者は日々の生活もありますから・・・ちょっと難しいと思います」
聞いた事の無い対策なのだが、事実依頼は溜まっているし冒険者にも生活がある。
「俺はスロノの案に賛成だぜ?どの道真面に依頼なんてできる状況じゃねーだろ?そこを無理に押し通しても捌ける依頼なんざ何一つありゃしねーよ」
「それはそうですが、周囲の信頼も有りますので難しい所です」
「はっ。何一つ難しくねーだろ?強引に依頼を押し付けても真面に達成できね~からな。冒険者の懐は潤わねーし依頼も捌けねーんだろ?だから今の状況を脱却できね~んだよ!だったら思い切った対策として受け入れる方が有益だろ?」
立場が圧倒的に上になっている【黄金】一行の発言であっても受け入れに難色を示していたのだが、ドロデスのこの言葉を一切否定できずに受け入れざるを得なくなる。
「んで、どの程度の依頼が溜まっているんだ?俺達がちょちょいと終わらせてやるからよ?期限があるヤツを纏めて持って来てくれねーか?」
「!?・・・皆様が対応して頂けるのですか?」
心配事の一つである依頼の停滞が解決できると知り喜んでいるのだが、本来は冒険者達の生活と言う大きな問題が残っている。
【黄金】一行はそこを忘れるほど間抜けではないので、ドロデスがチラッと仲間全員に視線を移して意思を確認した後にこう告げる。
「そこで得られる報酬だがよ?適当にそっちで所属の面々に配ってくれ。俺達はいらねーからな。シャールを叩けば報酬は得られるし、有難てー事にそもそも俺達は金に困っちゃいねーからな」
感激しているギルドマスターをよそにドロデスは受付に向かって依頼について同じような内容を告げ、結構な厚みのある依頼書を持ち帰っている。
「うっし、早速分担しようぜ?俺にはこう言った作業は出来ねーからよ?適材適所で頼むぜ?ミランダ!」
偶然一番上にあった依頼書には迷い猫を探す依頼が出ており、自分の力では解決する事は出来ないと明言している。
「わかったわ!任せて!」
こう言った広範囲の探索に関してはスロノが間違いなく適任だと思っているが、具体的な能力については一切口にしないまま分担が決まって行く。
束になっている依頼書を速読して各担当の前に振り分けており、結果的には依頼書の枚数的にはほぼ均等に振り分ける事が出来ている。
「ジャレードさんとオウビさんは採取系の依頼ばかりにしたわよ?ドロデスさんは魔獣駆除、スロノ君は探索系、私は料理とか掃除とかのお手伝いね!頑張りましょ?」
ミランダがこれだけ告げると各自が目の前にある依頼書を手に取り内容を確認し、元より依頼の内容を把握しているミランダはさっさとギルドを後にする。
どのように動くのが効率的かを各自が考えて決定した順にギルドを後にしており、誰一人としてギルドマスターに声すらかけずに消えて行った。
「これで・・・応急的な措置は出来たか?でもその後が課題だ」
酔いつぶれている冒険者達を過去の状態に戻す手立てが何も思い浮かばないので、【黄金】がテョレ町に戻ってしまった時の事を考えると完全には喜べない。
たまりにたまった依頼なので【黄金】でも一日二日で完了する事は出来ずにいるが、通常の人々が対応するよりもはるかに速い速度で依頼が捌けている。
「本当に報酬は宜しいのですか?」
依頼達成報告時に受付が各自に対して同じような事を確認するのだが、誰もが笑顔で受け取りを拒否している。
【黄金】としても難易度がまちまちの依頼を一気に受けているので中には初心に立ち返れるような依頼もあり、新鮮な気持ちで活動をしていた。
数日後・・・
「俺としちゃー、何だか気分がすっきりしたわけよ。正直身の危険があるような依頼はねーし、安心して活動出来た所もあるけどよ?普段だったら絶対に俺達に回ってこねー依頼もあっただろ?あっちに戻った際には、許可が出ればになるが時折今回みてーな依頼を受けても良いかもしれねーな?」
新人が受けるような依頼もあった為にテョレ町で受けてしまうと新人の食い扶持が無くなるので、許可は必要だが時には自分を見つめ直す良い機会になると思っているドロデス。