(22)スロノと【黄金】パーティー
「スロノ。今回はある意味良い経験になったんじゃねーか?まぁ、正直あれほどのクズはなかなかいねー・・・と期待したいが、結果的に無事だったからな。全てを飲み込んで前を向くと良いぜ?」
ギルドに戻り全てを報告した後、誘われるがまま【黄金】のリーダーと共に食事をしているスロノ。
発言の中には少々残念な・・・冒険者の中には同等のクズが他にもいると暗に告げているのだが、そこは理解しているつもりなのでスロノは軽く流している。
【黄金】の他のメンバーは相当寡黙のようで共に食事をしても楽しくないだろうと言う配慮からこの場には来ておらず、どうやら今日の移動だけの依頼は消化不良だった事もあって各自が勝手に討伐依頼を受けて夜にも拘らず早速町を出ている。
「ありがとうございます、ドロデスさん」
互いについて多少は話をしていたので【黄金】のリーダーである男はドロデスと言う名前である事、他の二人は非常に寡黙でドロデスですら滅多に声を聞く事は無く、結局他人との交渉は全て一手に引き受ける羽目になり、その立場から嫌々リーダーをしている事などを聞かされていたスロノ。
その後の話は第三者的にみれば相当スロノの事を気遣い、何とか今後の活動に支障がないようにさりげなくアドバイスをしている形になっていた。
「でな?俺も若けー頃は色々と自惚れていた所もある訳よ。そんな俺を叩きのめしてくれたのが仲間の二人だったわけだ」
酒が入っているからか相当良い感じになったドロデスは余計な話も嬉しそうに話しており、凄惨な経験をしつつもとても良い人に巡り合えた事だけは幸運だったと思っているスロノは嬉しそうにドロデスの話を聞いている。
どうやら相当強いドロデスだが過去はやんちゃだったようで、そこを窘めてくれたのが残りの【黄金】の二人らしい。
楽しげに話すドロデスの話は結構長く続き、最後にこう告げてきた。
「だからよ?精神的な面、肉体的な面、色々あるだろうからよ、暫くは俺達と共に行動すると良いぜ?あぁ、安心しろ。生活に必要な報酬等については、冒険者の不始末って事でギルドから色々補償が出るからよ?俺達にもそれなりに出るから、遠慮はいらねーぞ?」
願っても無い申し出であり、何時もの受付、納品場の担当、ギルドマスター、そしてドロデスを始めとした【黄金】パーティーとの出会いに感謝している。
「その申し出は嬉しいですけど、俺って噂になっているし戦闘系じゃないから言っちゃいますが<収納>Eですよ?いくら補償が出るとは言っても【黄金】の皆さんの大きな負担になりませんか?」
「はっ、そんな事かよ。全く負担じゃねーよ。言っただろ?俺も過去には色々やらかしているし、俺を諭してくれた仲間の二人も実は相当だったんだよ。そんな俺達が公に若手の力になれるんだから、これほど嬉しい仕事はねーよ」
豪快な笑顔を見てこれ以上断っては申し訳ないと言う気持ちになったスロノは申し出を受け、不思議な力を認識してから初めて暫くパーティーとして行動する事になった。
「今後スロノも仲間とパーティーを組む事があるだろうからな。俺達の状況が直接全て参考になるかは分からねーが、良い経験にはなるだろうよ」
その後スロノの安全を考えて通常とは異なり相当レベルを落とした依頼を受けている【黄金】と共に行動し、本来彼等は高価な魔道具で素材を収納していたのだが、その仕事をスロノが自ら率先して引き受けて行動していた。
この行動には少しでも【黄金】パーティーの役に立ちたいと言う気持ち半分、収納する前に直接素材となっている魔獣や獣に触れて能力だけを自分の能力で収納できる喜び半分と言った所なのだが、この経験のおかげで相当高いレベルの能力をかなりの数量集める事が出来ていた。
行動を共にするようになってからある程度の期間が経過したのだが期限については当初から何も言われていなかったので、どの程度この状態が続くのかと思っていたスロノ。
もう流れ作業の様にドロデスから渡されている収納の魔道具に納められている数々の素材を納品し、受付に戻って報酬を得てドロデスに渡してその一部を貰って生活していたのだが、その日は突然訪れる。
「【黄金】はちょっと来てくれ」
受付で報酬を受け取っている時にギルドマスターから声をかけられ、後に続いている【黄金】とスロノ。
呼ばれたのは【黄金】だけなのだが今は共に行動をしているので、半ば強引にドロデスがスロノの腕を引っ張って同行させたのだ。
「ま、座ってくれ」
個室に入って椅子を勧めるギルドマスターは、この場にスロノがいても表情一つ変えずにいる。
「その表情だと・・・相当厳しい依頼のようじゃねーか?」
「わかるか?流石は長い付き合いだな、ドロデス」
スロノは何かを話せる立場ではないし【黄金】の残りの二人は本当に寡黙なので何も言わないので、この場で会話をしているのはギルドマスターとドロデスだけになる。
ある程度の時間この部屋に留まって二人の会話を聞いていたスロノだが、今日が【黄金】と行動が出来る最後の日だと認識し深い感謝の気持ちが溢れている。
実はギルドマスターから【黄金】に対して指名依頼があり、少々遠くの町の状態が良くないので相当力が有って信頼できるパーティーに対処をお願いしていた。
状態の悪化とは、その町を治めているギルドマスターによれば冒険者の質の有り得ない程の低下、モラルの無さ、更にはそのおかげで魔獣や獣の間引きが上手く行かずに凶暴化しており、日々の生活すらままならなくなっていると言う事らしい。
ドロデスとしても、どの様な敵がいてどのような状況になっているのかも分からない危険な依頼にスロノを同行させるつもりはなく、かなり元気を取り戻したように見えるので寂しいながらもこの辺りが潮時だと思っていた。
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