(208)新たな依頼
「【黄金】はちょっと来てくれ。珍しい指名依頼が来ているぞ」
数日間は特にこれと言った問題がないまま過ごしていた【黄金】一行だが、とある日にギルドに出向くとシャールから声をかけられる。
表情や態度からエルロン絡みの危険な話ではないと理解したので、軽い気持ちで話しを聞いている。
「プロト連合国のギルドからの依頼だが、どうやらそこの冒険者達のレベルが低いらしくてな。【黄金】の面々に指導してもらいたいと依頼があった」
プロト連合国とは、エルロンの弟であるミルロンが拠点にしていた場所。
「特に珍しくはねーだろ?似たような依頼は結構受けたぜ?」
「それはそうだが、Sランカーを含む上位ランカーのパーティーに他国のギルドが指名を行う事が珍しいんだ。そもそもSランカー自体が珍しいからな」
言われてみればスロノが加入してから初めての指導依頼だったな・・・と思ったドロデスは、具体的な中身について話し始める。
「期間はどうなっているんだ?俺としちゃー、今は平穏だが嵐の前の静けさだと思っているからよ?長期間テョレ町を留守にしたくねー気持ちがあるんだよ」
本能からかこれまでの経験のなせる業か何となくではあるが不穏な気配を感じ取っているドロデスなので、余りにも長期間離脱する可能性があるのであれば依頼の受注方法を検討しようと思っていた。
全員で実行するのではなく何人か選定の上で出立するか、最悪は依頼自体を受注しない事も選択肢になっている。
「一応本部を通して事前に聞いた限りでは能力を過信しているのか能力に合致した訓練をしていないのか、達成度は下がっているし負傷する者が多いらしいので数か月程度か?」
「はっ、それはギルドでしっかりと初心者講習でもやらせりゃー良いじゃねーかよ!そんな連中に俺達が何を言おうが、変化が見えるのは短い時間だけだぜ?」
これも過去の経験があって言える事で圧倒的な強者が存在している内は表面上アドバイスを聞き入れるのだが、その存在が消えてしまえば元に戻ると伝えている。
一部例外を経験した事はあるが略全ての事象がそうであった事から事実をシャールに告げ、それでも依頼を受けてもらいたい姿勢が変わらなければ仕方がないと思っている。
「それは理解している。正直本部、そして俺も同じ事をプロト連合国側のギルドに問い合わせたのだが、Sランカーと高ランカーのパーティーであれば流石にその指導を受け入れるだろうと言われたんだ。過去の実績がない以上、こう言われてしまうと・・・な」
「チッ、そうかよ。同じ道を辿らねー事を祈っているぜ」
シャールの言葉はドロデスが想定していた一部のメンバーだけをプロト連合国に向かわせる事は不可能と同義であり、これ以上聞く必要はないがギルドとして所属冒険者の質を上げなければ命の危険がある状態が続きかねないと危惧している事も理解できてしまう。
結果的に仲間意識が強いドロデス達なので、同じ冒険者が自己責任ではありながらも無謀な依頼を受けて命を落とすのを知りつつ見逃すのは・・・との思いがあり、最終的には依頼を受ける事に決定する。
ここまでの流れは闇ギルドを使って情報を集めて吟味し、甘ちゃんであるドロデス以下【黄金】であれば断れない様な依頼の出し方を実行させていたエルロンの思惑通りだ。
プロト連合国の冒険者の質が極端に悪いわけではないが、今回の依頼を発行させる為に身分を隠したうえで闇ギルドまで動員してあらゆる手段を使い荒らしていたエルロン。
ドロデス達の考えとは異なり、自分以外はどうなっても構わないと言う意識から敢えてギルドの戦力を下げる状況を作り出していた。
「シャール、今回の依頼は受けようと思う。だが一応期限は決めさせてもらうぜ?改善の見込みがねー奴の為に永遠に時間を取られるわけには行かねーからな」
「それは当然だな。ただ状況は向こうに行かなければわからないだろう?実際その目で確認して、その後に期日についてギルドを通して連絡してくれ」
まさか裏でエルロンが暗躍しているとは思っていないので、【黄金】はテョレ町を後にしてプロト連合国に移動を始める。
「行ったようだな。確実性を増す為に、向こうに到着したと確認できてから動くべきだ」
一人エルロンは呟きながらも最も邪魔で脅威となる可能性が高い【黄金】が不在になった事が確定した時点で、テョレ町で行動を起こそうと準備している。
「お前等・・・散々練習しただろうから失敗するんじゃねーぞ?」
目の前には伯爵子息が過去に自らが使用した能力が使えなくなる魔道具を手にして震えており、当初は魔道具を使用するだけの楽な任務だと思って安請け合いした事を後悔している。
「あの・・・依頼実行中に能力が突然使えなくなったら死んでしまうのではないですか?」
人の生死に直接的に関与する事態に腰が引けているのだが、エルロンがそのような事を配慮するわけもない。
「あぁ?テメー・・・今死ぬか、俺の命令に従うのか選ばせてやるぜ?」
獰猛な牙を隠す必要が無くなったのか危険極まりない元Sランカー暴風のエルロンが復活しており、伯爵と地位は高くとも戦力的にお話しにもならない存在が抗えるわけもない。
今手にしている道具を使えばひょっとして・・・と一瞬思ったりもしたのだが、能力が無くともエルロンに勝てるイメージが全く湧かないので言われるままに行動を始める準備をしている。
「これでこの町のギルドの評判は底辺にまで落ちる訳だ。ここを皮切りに、ギルド自体の存続に疑いの視線を向ければ完璧か?」
一人になったエルロンはこう呟いているが内心ではこのテョレ町自体も大きく破壊する腹積もりなので、自らが頂点を務めている闇ギルドを総動員して本体は味方であるはずのテヘラン侯爵邸も含めて破壊しようと考えていた。
 




