(207)鑑定へ③
エルロンとしては最も怪しく最も危険な存在だと認識を新たにした対象がスロノなので、その人物の能力が公知になっている二つのはずがないと確信していた。
具体的に他に何の能力を持っているのかは想像もできないのだが、今目の前に表示されている二つの能力だけのはずがない上にスロノが動揺したそぶりを見せた事から口を挟む。
「スロノ・・・テメー、何を隠していやがる?」
まさか僅かな動揺を把握されるとは思わなかったので直に返す事が出来ずにいるスロノなのだが、何かを言おうとする前にドロデスが容赦なく割って入る。
「クソエルロン!これだけ大々的に能力を公にされりゃー誰でも動揺するだろうが!!テメーが能力を偽って登録していた過去を忘れたとは言わせねーぞ?テメー自身が能力を知られたくなくて姑息な手を使ったんだろうが!クソ野郎が!」
スロノを助ける意図もあるのだが、一般的な冒険者の考えとしても正しいのでここぞとばかりに圧しているドロデス。
「この雑魚野郎・・・」
流石に人外の面々が殺気を垂れ流しているので権力は有っても力はないテヘラン侯爵やブラコッテ、ムーランの伯爵子息を含め、この場にいる貴族の面々が漏れなく全員震えている。
流石に国王サミットは陰ながら護衛している<隠密>Sを持つスクエがいるので、どの様な手法を用いたのかは不明だが殺気に当てられてはいない。
「双方収めよ。エルロン男爵とテヘラン侯爵に問おう。そもそも本来は鑑定の必要が無いにもかかわらず、時間を貰っている立場だと言う事を忘れてはおらんか?正直に言って鑑定結果がこのように大々的に公開されるのも報告を受けておらん。【黄金】側の主張は至極当然だと余は考えるが?まさかその程度も理解できんのではあるまいな?」
「チッ・・・」
国王の問いに対する態度ではないのだが、素が出始めていつつもスロノの得体の知れない脅威を感じている以上は貴族の立ち位置が必要である事もあって本心では相当怒りながらも矛を収めるエルロン。
「で・・・では、次は・・・」
殺気は収まっているが震えは未だ収まらないテヘラン侯爵が辛うじて鑑定を進めて【黄金】全員の鑑定が終了するのだが、エルロン側としては最も欲していた公知になっていない能力については一切得る事が出来ずにいたので非常に面白くない。
どう考えても<魔術>Sであれほどの脅威を感じる訳がないと正しく理解しているエルロンだが、その原因が同じくこれ以上ない程に公知となっている<収納>の能力だとは思えなかった。
「仕方がねー。当初の想定通りに行くしかねーかよ?」
解散となって王城を後にしたエルロンは能力が明らかにならなかった時には伯爵子息の二人が喚いていた通りに【黄金】が最低でもテョレ町で活動できないようにする方針でいたので、その旨をテヘラン侯爵に告げていた。
最早遜るのも面倒だと言わんばかりに素を曝け出しており、本来であれば不敬と取られて断罪できる立ち位置のテヘラン侯爵なのだが少し前にエルロンや【黄金】からの殺気を直接的に受けてしまい、万が一にも反撃された時にどうなるのかを明確に想像してしまった結果何も指摘できずにいる。
だからと言って自らが遜るのはプライドが許さないので、あくまで上の立ち位置での物言いだけは堅持している。
「わ、わかった。では他の面々と共に再度陛下に対して上申しよう。あの鑑定では一般的な能力しか出てこなかったが、逆に言えば今迄の実績と整合性が取れずに秘匿している事が多数ある・・・で良かったな?」
「そうだ。だがそれだけだとサミットは動かねーだろうな。次の手も打っておく必要があるぜ?」
最早国王でさえ呼び捨てなのだが、元より反目している立場なのでそこは気にならないテヘラン侯爵。
「それは何だ?」
「面倒クセーが、ギルドの信頼を下げるんだ。【黄金】共には俺の方から手を回して少々遠出をしてもらうからよ?その間に適当に町や冒険者共に被害が出ればギルドに対する不満が溜まるだろうよ」
闇ギルドのギルドマスターであればテョレ町に盗賊や素行の悪い面々をよこす事も容易いし、ラルドが残した道具を利用して魔獣を引き寄せる事も可能だ。
その際に【黄金】に対応されてはより一層彼等の立場が良くなる可能性が高いので、裏から手を回して遠距離の依頼を受注させると伝えているエルロン。
「わかった。しかし・・・町に被害が出る際にはこちらに被害が無いように頼むぞ?」
テョレ町にもテヘラン侯爵の邸宅が存在しているので多少の外敵に対しては自らの配下の者達の力で守る事は出来るはずなのだが、エルロンの殺気を経験してはそうも言っていられなかった。
「あぁ、一応配慮してやるぜ」
一応と言う部分が非常に不安なのだがこれ以上余計な事を言ってはただでさえ機嫌の悪いエルロンの感情を悪化させた結果、自らに被害が来る事を恐れたテヘラン侯爵。
本当はもう少し確実な言質を取りたかったのだが、何も言わずにそのまま自らの邸宅に帰って行く。
「テメー等もしっかりと働いてもらうぞ?」
この場に残っているのは未だに股間の周辺が湿っている伯爵家子息の二人であり、どうあっても否と言えずに黙って話しを聞いた結果、想像よりも遥かに簡単な内容で安堵する。
「そ、そんな事で良いのですか?」
「それならば任せてください!間違いなく実行可能ですから!」




