(203)正式に後継者として名乗りを上げる
王国シャハのテョレ町と言う【黄金】の御膝元と言って良い場所は、ギルドも含めて一見平和に見えている。
【黄金】一行としては、まさかの超問題児元Sランカーである暴風エルロンが同じ国家に属する貴族だったとは夢にも思っていなかった。
そもそも家からは制御不能として勘当されていたので分かる訳もないし、ブラン男爵としても貴族として家の汚点を秘匿したい為に全力で事に当たり、一方のエルロン・ミルロンも貴族の地位に微塵も魅力を感じていなかったので、勝手気ままに行動していたので素行が極めて悪く誰も貴族だとは思えなかった。
他のSランカーが調査をすればその辺りは明らかになったのだろうが、その必要性も感じずに、そもそも行動が悪すぎるので貴族であるはずがないと言う先入観もあった。
そのエルロンだが、今は正式に貴族の嫡男としてパーティーに出席している。
「は~、面倒クセーな。コレが嫌でミルロンと家を出たのが、このザマかよ。【黄金】のクソ共・・・」
今は人気のないバルコニーで豪華な服を着崩して酒を煽っているエルロンは、能力の高さから嫌でも見えるパーティー会場に目を落としている。
眼下には多数の貴族が屯しており、家の品格を守る為、また力を上げるために政略結婚の相手を探している者、他の貴族が益を出している事業の秘密をさりげなく探ろうとしている者、つまり益を手に入れんと蠢いている人物ばかりが集うパーティーであり、その辺りには興味のないエルロンは正直辟易している。
どう考えても場違いなのだが、エルロンがこのような魑魅魍魎が跋扈するパーティーに参加しているのには当然理由があり、【黄金】一行のスロノ以外の能力が開示されなかった場合の対策を行う為だ。
「・・・あいつか。けっ、外見上も無様な連中だ」
目的の人物を確認済みなのだが、その見た目があまりにも無様で権力だけに取りつかれている様な容姿だったので嫌悪感が消しきれずに、流石に直に話しかける事が出来ないエルロン。
戦闘力は極めて高く苛烈な性格をしているが、この様な場に対応できる能力は低かった。
エルロンの本来の目的は、【黄金】の面々の能力が開示されなければ・・・貴族からの命令に従わないその一点を理由に反旗を翻す可能性が高いとの意識を貴族達に持たせる事であり、正直エルロンは【黄金】一行は自らが想定している謎の能力の開示は行わないだろうと確信している。
正直【黄金】にはスロノ以外隠している能力などないのだが、スロノも仮に<鑑定>を持つ能力者に調べられても各種能力を収納しておけば全く問題ない。
想像すらできない<収納>Exの能力を持つスロノなので、例え経験豊富で情報もかなり持っている元Sランカーのエルロンでさえ、その能力の本質を理解できることはない。
【黄金】が危険な存在だとある程度の貴族に認識させる事が出来れば、強制的に鑑定を実施して能力を丸裸にすればどうにでも対策を取れると考えている。
「ついでにシャールとか言うクソ野郎がいるこの町のギルドも、潰しちまえば後腐れがねーしな」
ギルドの支部があるだけで冒険者が保護されているので、そこに属している【黄金】を始末するにはギルドを潰すのが最善だと考えているエルロン。
現実的には【黄金】が拠点を移せばそれでお終いなのだが、目の上の瘤が視界から消える上に隠された能力まで明らかになるので、貴族としての力を使ってジワジワと追い詰める算段でいる。
「んじゃー、行くかよ?」
言葉に出して行動しなければ話しかける事も憚られる程に醜い外観・・・バランスが取れていない宝飾品を大きさと希少さだけを基準に無駄にちりばめている服を着ている人物を目指し、歩いているエルロン。
「テヘラン侯!」
目的の人物であるテヘラン侯爵の前に行き、心底嫌だが復讐の為に話しかけるエルロン。
「おぉ、この度はブラン男爵家当主になったそうではないか、エルロン殿。私のほうからもお祝いの言葉をかけようと探しておったのだ」
貴族としての立ち位置は圧倒的に目の前の少々髪が薄くブクブク太り無駄に煌びやかな服を着ているテヘラン侯爵の方が高いので、本当の実力で言えば軽く吹き飛ばして息の根を止める事が出来るエルロンにしてみればこの物言いも非常に気に入らないのだが、グッと堪えている。
「何分未熟故、今後ご指導頂ければと思います」
「ふむ・・・そうであろうな。ブラン殿がまさか急逝なされるとは夢にも思わなかったが、貴殿がいれば男爵家も安泰であろう。助力は惜しまぬ故、遠慮なく頼るが良い」
テヘラン侯爵は善意からこのように伝えているのではなく、元とは言ってもSランカーとしての実力を持つエルロンに恩を売って益を得る為に伝えている。
この会話の中で不穏な内容・・・男爵家前当主が急逝したとあるのだが公には原因不明となっており、この場にいる貴族達は自らの益だけに目が向きブラン男爵死亡の真実には興味がない面々なので問いかけられるような事はないが、現実は目的達成の為にエルロンがあろう事かその手にかけている。
貴族として活動するために必要な印章やらのありかを把握するのに少々時間が必要だったが、強大ではないが権力を手に入れる事が出来た時点で父すらも不要と切って捨てて見せたエルロン。
「有難きお言葉。ところで、テヘラン侯は我が父と同様にギルドに対して良い思いはないと伺っております。今回テョレ町で活動している【黄金】も正直目障りでしょう?」
「・・・確かにその通りだ。場所を移そうか?」
流石に内容が内容なので移動を促したテヘラン侯爵と、やはり食いついてきたと内心安堵しているエルロンは個室に入り話を続けていた。
かなり間が空いて申し訳ありません。
完結まで行きます