(199)闇ギルドの新たなマスター
「あいつ等・・・ふざけやがって。オイ、このギルドは俺が引き継ぐように言われた。これはラルドからの遺言だ。わかったな?」
遺言など伝える間もなく死亡していたのだが、拠点として使えるのは弟のミルロンが死亡している今ではここしかないので、勝手に話をでっちあげて闇ギルドのギルドマスターになっているエルロン。
あれほどの攻撃を無傷で回避する事は出来ずに片腕を失っているのだが、それでも戦闘力と闘志は組織のメンバーでは断トツなので誰も逆らえずにいる。
「こうなったら・・・こいつか?」
ギルドマスターの私室の資料を勝手に漁り、使えそうな品々や資料を手当たり次第に手にしているエルロン。
その手には紙が握られており・・・流石に闇ギルドらしく、エルロンですら知り得る事のない情報が多数記載されており、今回明確に敵になった【黄金】を含めた冒険者ギルドに対して良い思いを抱いていない国家重鎮が羅列されている。
前マスターであるラルドもギルドに対して勝手な思いで恨みを募らせていた為に、やがて来るギルドとの戦闘に備えて情報収集し、場合によっては直接当人と交渉して戦力を増強させていた。
その中にはスロノがリノと出会った町のトップも含まれており、そこのギルドでは他種族に対して非常に排他的な上にスロノの冤罪を信じ込んで露骨に態度に出すような受付が存在していた。
「まさか、この俺様が家に頼る事になるとはよ!落ちたもんだぜ」
非常に不本意だと言う表情を隠す事も無い・・・そもそもこの場には今の所エルロンしかいないので隠す必要も無いのだが、明確に不機嫌な表情のまま私室から出て行く。
除名されたとは言ってもSランカーであった為に移動速度も尋常ではなく、そう時間が経過せずに闇ギルドマスターの私室からとある屋敷に到着したエルロンは、周囲の驚くような視線を一切気にせずにズカズカと侵入し、とある部屋の扉を無遠慮に開けて開口一番大声を出す。
「親父!!」
「息子の二人は勘当したはずだがな。今更何をしに来た、エルロン」
どう考えても貴族と言わんばかりの男性が、執務中だったのか多数の書類に向けていた視線が声の元であるエルロンに向けられる。
「はっ、相変らずだな。俺の用件は二つ・・・いや、一つは教えてやるだけだがな」
「・・・お前の話に興味はないし、何がどうなろうが知った事ではないぞ?」
どう考えても親子なのだが、のっけから勘当と言われている通りに仲は修復しようがない程に拗れている。
「そう言わずに、まぁ聞けよ。一つ目はお前にも良い話だろうからな」
良い話と聞かされて未だに動かしていた手を止めて、エルロンの話に集中する貴族の男性・・・エルロンの父親である男爵のブランと、その姿を見て少々呆れているエルロン。
「相変わらずだな・・・親父にとって良い報告を先にしてやるぜ?ミルロンの件だが、あいつはくたばった。もうこの世にはいねーよ。どうだ?安心しただろう?」
本来息子が死亡したと聞かされて喜ぶ父親などいないのだが、エルロンとミルロンの二人に長期間悩まされた挙句にエルロンに関しては権力や戦闘力が認められるSランカーに至ってしまったので直接的な対応が取れず、最終的には勘当する事で家を守らざるを得なかった為、悩みの種が一つ減少したとしか思えなかった。
どのように死亡したのか、なぜ死亡したのかを聞く事もせずに、素直に胸の内を曝け出している。
「そうだな、安心した。で、お前は何時くたばる予定だ?」
「ははは、残念だったな。俺も一度くたばったんだが死の淵から帰って来たぜ?嬉しいだろう?」
エルロンは正直に伝えているのだが、こんな話を真面に受け取る訳も無く・・・単純に嫌がらせなのだろうと話を流して聞いており、明確な反応はしない。
「もう一つの話しはなんだ?」
「せっかちな野郎だな。実はちっとこの家・・・男爵の立場を使って調整してー事があるんだよ。もう聞いていると思うが、俺はSランカーじゃねーからな。公的な立場は高くねーんだよ」
「そんな話を聞いて、はいそうですかと名前を貸せると思うのか?今迄の行動、Sランカーを除名になると言う前代未聞の行動も含めて考えてみろ?」
「うるせーな。四の五の文句を垂れるんじゃねーよ!別に俺は今ここで暴れても良いんだぜ?どうせ勘当された立場だからよ。この屋敷が、家がどうなろうが知ったこっちゃねーんだよ」
「そう言う所が勘当の原因になったのだがな。どうせ私が断ろうが勝手に行動するだろうが。何故態々ここに来た。その理由を言え!」
長期間エルロンと接し矯正しようと試みた過去を持つのでその性格はしっかりと把握されており、ブラン男爵の言う通りにエルロンであれば勝手に名前を使って行動しているはずなのだが、敢えてこの場に了解を取る様な事を告げている。
「俺が知っている情報だと、この国家に存在しているギルドに対して思う所がある連中が結構いる訳だ。親父もその内の一人だろう?俺も今のギルドには思う所があるからな。互いに手を組めば、目的を達成し易いんじゃねーのか?」
エルロンが闇ギルドマスターであったラルドの部屋の資料で把握した情報では、王国シャハに存在している各町のギルドに対して思う所がある存在が列記されており、その上位に自らの父であるブラン男爵の名前があった。
今回の敵はギルド全体、更にはギルド所属のSランカーや【黄金】なので、直接的な戦闘力だけでは勝利は厳しい事は嫌でも理解できてしまった為に搦手を使う事にしていた。




