(191)大森林⑩
ソルベルドは大森林にエルロンと侵入して戻ってこない面々は死亡したと思っているのだが、事実を伝える必要も義務も無いので訂正する事なく攻撃を受ける事に全神経を集中させているエルロン。
「ホナ、去ね。エルロン!」
ソルベルドの声を最後にその姿がエルロンにも視認できず、かろうじて何かが自らに向かって突進してくる気配を感じるのだが、そのスピードが速すぎて何も対処できずに逆に恐怖の時間を長く感じてしまう。
「そこだ!」
指先一つ動かせない程の恐怖を初めて味わったエルロンだが、突如として横からラルドの声が聞こえたかと思うととんでもない暴風が吹き荒れて吹き飛ばされる。
直接的な攻撃の余波ではなかったようで何とか受け身を取る事に成功しており、ラルドが何かをしたかは不明だが、その結果が気になる。
「ラルド・・・どうなったんだ!」
比較的近くにラルドが倒れているのだが、身を守る魔道具は少し前の戦いでほぼ使い切っており、今の攻撃も完全には相殺できなかったようで負傷して倒れている。
「せ、成功だ」
何とか懐から回復薬を取り出して摂取したラルドは、不思議そうな表情をしているソルベルドを見ている。
「成功なのは良いがよ?このままあのクソ野郎が動き始めたら次はねーぞ?」
「いや、大丈夫だ。動きたくとも動けないからな」
そうは言っても事情が分からないので、この隙に逃走して体制を整える方が良いと考えたエルロン。
「その隙に、拠点に戻った方が良いんじゃねーか?こっちも相当疲弊しているからよ。次の機会は直にでも調整できるだろう?」
「それもそうだな。俺の戦力も激減した。どの道残るは能力をまともに使えなくなったソルベルドだけ。いつでも料理できるからな」
二人が残る力を振り絞って逃走しようとしているのはソルベルドもわかるのだが、自らに<補強>Eを付与された事までは具体的にわからない状況ながらも、今ここで能力を使っては取り返しがつかない事を何となく理解していた。
エルロンは何故ソルベルドが動けないのか、動かないのか全く分からないながらも、あれ程のグローブを渡せるラルドの何らかの能力だろうと勝手に納得して、ラルドと共に大森林に背を向ける形で移動しようとする。
―――ドドドドドン―――
突然逃走先の経路に無数の矢が降り注ぎ、そこから大爆発を起こして爆風で押し戻される。
「こ、これは・・・なんでテメーが生きていやがるんだ、ビョーラ!」
吹き飛ばされて振り向けば、そこには絶対に森から出られるはずのない【黄金】一行とSランカー三人が無傷で存在していた。
「ははははは。おい、クソ野郎。随分と貧弱になったじゃねーかよ?必死で逃げ回りやがって、森の中に置き去りにすれば俺達が死ぬと思ったか?」
「ドロデスちゃんの言う通りよね。あれだけ偉そうででかい態度なのに、急に逃げるなんて小心者以外の何者でもないでしょ!」
無傷の上に余裕を持って話しているドロデスとリューリュを見て、最悪の状況に陥ったと思っているラルド。
「おい、エルロン。何故あいつ等が生きているんだ!お前が自信満々に対応すると言っていただろうが!」
「う、うるせーよ。あいつ等は大森林から出て来られるわけがね~んだよ。そもそもクソ雑魚共には致命傷を与えたはずだ。テメー等!何をしやがった!!」
エルロンが動揺するのも当然で、本来あれ程の場所にまで大森林の中を進んでしまえば戻る事は不可能だし、そもそもSランカー達には致命傷を与えていた。
「なんでテメーに丁寧に説明してやらなきゃならねーんだ?あぁ?俺達はお人良しじゃねーんだよ!行くぜ、おらぁ!」
ドロデスの勇ましい掛け声なのだが、エルロンとラルドに最も早く攻撃が届くのはリューリュ、ビョーラ、次点でリリエルなので、残念ながらドロデスは攻撃姿勢から実際に攻撃に移行できなかった。
絶え間ない爆風や轟音が鳴り響いている一方、リリエルは攻撃に一切興味を示さずにサルーンに近接し、優しく癒していた。
その後・・・相当鬱憤が溜まっていたのか、ビョーラとリリエルの過剰とも言える攻撃が終了した時には大きく地形が変動し、辛うじて人だっただろう物体が一体だけ見つかった。
「ありゃ?ビョーラちゃん。コレって、ひょっとしてやらかしちゃったかな?」
「正直、そうかもしれない」
攻撃だけに夢中になるあまり、ラルドかエルロンのどちらかは不明ながらも逃げられた可能性が高い事に眉をしかめる二人。
現実は・・・総攻撃が始まった瞬間にエルロンは避ける事も往なす事も不可能だと悟り、敢えて不思議な能力を持っているラルドに近接して盾にしていた。
確かにラルドが身に着けている防御の魔道具は<補強>Eによる能力暴走を考慮して選定した道具なのだが、既に損傷しているので直ぐに完全に破壊されたのだが、そのわずかな時間にエルロンは傷を負いながらも逃走して見せた。
一方的に恨みを募らせながら・・・




