(20)レベルDの能力を得る
今スロノが持っている最高の攻撃系統能力と言えば<剣術>Dだけであり、三人の冒険者が持っていた<盾術>Dや<魔術>Dは正直喉から手が出るほど欲しい能力になっている為、自らの<収納>E.の能力把握も含めて要望を伝える事にしたスロノ。
「あの・・・もしご迷惑でなければですが、今後の経験の為に自分も森の奥まで同行させて頂けないでしょうか?」
【黄金】の面々を始め、ギルドマスターも強さ的にも立ち位置的にも相当格上だと分かっているので下からお願いする形ながらもしっかりと要望を伝えたスロノ。
真実については話せるわけも無く、あくまで今後の経験と言う位置付けだ。
「そうか。スロノも冒険者としての意識があるのは安心したが・・・どうだろうか。頼めるか?依頼としてはこの三人を連れて行く事。当然道中の逃亡を防止する事も含まれるが、そこにスロノの安全を追加する事になるが?」
「ガハハハハ、良いじゃねーの。若い内には到達する事の出来ねー場所を見る事が出来る貴重な経験だろう?任せておけ!」
抜け殻の様になっている牢の中にいる三人の冒険者そっちのけで、スロノに対して気概があると褒めている【黄金】のリーダー。
最終的にスロノの要望は聞き入れられて、翌日朝早くからギルドマスターからの依頼と言う形で三人の冒険者を森の奥に連れて行く為にギルドを出る。
早朝なのは少しでも余計な人目に付かずに行動させるためである事と、森の深くに向かうには相当時間がかかるので早く行動したかったためだ。
三人の冒険者は後ろ手の状態で縄によって縛られており、当然のように武器や防具など装備させていないまま森に入って行く。
スロノは森の浅い内に周囲に興味があるふりをして少々動き回るついでに三人の冒険者に触れ、その一瞬で各自から難なく能力だけを収納する事に成功していた。
こうなると本来の目的は達成してしまっているので態々危険を冒して森の奥にまで行く必要はないのだが、屈強な【黄金】の面々が安全を確約してくれている事もあって興味からこのまま同行する事にしていた。
ひょっとしたら獣や魔獣同士の戦いによって死亡した高レベルの能力を持つ亡骸があるのかもしれないと言う淡い期待もあったのは否定できない。
「スロノ。そろそろ危ねーかもしれねーから、ウロチョロすんなよ?」
「わかりました」
日が昇るか昇らないかの時から森に侵入してかなりの速度で移動している中で、昼食を食べる少し前からこのような注意を受けていたスロノ。
ここまでは【黄金】のメンバーの強さに怯えているのか獣や魔獣に襲われて危険な状態に陥る事は一切無く移動できていたが、ここからはそうもいかないらしく指示通りに大人しくしているスロノ。
本来【黄金】の実力で行けばスロノだけを守るのであればこの辺りでも行動に制限する必要はないのだが、その力の大部分を囚人三人の保護に使う必要があったのでより慎重に行動している。
ギルドマスターからは森の奥と言われてはいるのだが流石の【黄金】でもこの森の本当の奥と呼ぶべき場所に到達できるわけも無く、行けるだけの奥と言う意味で伝えていた。
実際に【黄金】は過去野営を挟んで相当な深度まで侵入した実績があるのだが、それでも最奥だと確信できないままに危険を感じて迷いなく撤退していた経験がある。
彼等の経験によれば日帰りで行けるギリギリの場所でも武器無しの三人の囚人は例え武器を持ち万全の状態でも間違いなく生存できないと確信しているので、スロノが同行している事もありそろそろ帰りの事も考えると潮時だと判断する。
「そろそろ帰るぜ?そいつらは・・・そうだな。依頼通りにここまで無事に連れてきてやったから、多少縄を緩くしてその辺りに括り付けておけば良いだろう。あの性格であれば変に早く自由に行動されると、俺達の後をついてこねーとも限らねーからな」
これからの事を考えたからか今までの疲労からかは不明だが、何も言わずに大人しくしている囚人三人は引かれるままに大きな木の近くに移動されて自分を縛っている縄の一端を木に固定される。
実はこの時、三人とも全く同じ事を考えていた。
<このまま行けば直ぐに【黄金】一行とスロノはこの場から去って行く。一刻も早く<魔術>を使って縄を焼けば想定以上に早く自由になれるはずで、あいつらが危惧していた通りに後をつけてやれば晴れて無罪放免だ!>
と。
三人共に余計な事を言ったり行動に移したりすれば、内心で思っている事も察知されて対策されるかもしれないと考えて黙っている。
当然自らの能力を確認するような事も一切せずに唯々【黄金】とスロノ達が去って行くのを黙って見ているだけで、その視線から全てが見えなくなると即座に行動に移す。
「おい、直ぐに縄を焼け!あいつ等少し緩めてはいたが、刃物がない以上この状態で縄から抜けるには相当な時間がかかる」
「わかっているぜ・・・え?」
自分と同じ事を考えていたのだと思いつつ<魔術>Dを持っていた男が術を発動しようとするのだが、当然スロノによって能力は回収されているので術が発動できるわけがない。
「どうしたのですか?早くしないとあいつ等に追いつけなくなりますよ?」
様子がおかしい<魔術>Dの男を見て不安になっている<盾術>Dの男はまさか能力が完全に無くなっているとは想像できず、極限の状況に置かれた為に一時的に術が使えなくなってしまったのだろうと判断する。
「これは・・・自力で抜けるしかないようですね。早くしなければ助かる道が閉ざされてしまいますよ!」
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