(2)現状と過去の出会い②
台風・・・困る
「えっと、そう言う事で俺と二人でパーティーを組みますので、登録をお願いします」
未だ半分以上放心状態のリノを強引に受付に連れて行き、ギルドにパーティーとして登録するスロノ。
これだけ公の場で追放宣言がなされている以上、リノがロイハルエスのパーティーから抜けると言う事に対しては何も疑問に思うところがなく、受付としてもこの後のリノの扱いが悪くなる事を避けたい事からスロノの提言を受け入れる。
「んじゃ、今日は少しだけ互いを知ると言う事で軽い依頼を受けようぜ?」
下を向きがちなリノを強制的に依頼に連れ出す事で、嫌でも前を向かせると言う荒治療に出た。
ギルドの騒動から得た情報ではリノは<回復>Eを持っているらしいので、戦闘はさせる事はできないながらも薬草採取や周囲への警戒はできると踏んでいたスロノ。
この世界では若い段階でどのような人材でも最低一つは能力を得る事が出来、その能力のレベルも一般的な知識としてレベルが存在している事が知られている。
例えばリノの持つ<回復>Eとは回復に特化した能力でその後に続くEはそのレベルを指しており、残念ながらEでは能力を得たばかりの力しかなく、本当に軽い傷を自然回復よりも速い速度で治せる程度の力しかない。
能力は修練することでレベルが上がると言われているのだが今の所リノにその兆候はなく、結果的に見限られてパーティーを追放されたと言う事なのだろう。
複数の能力に目覚める者も極稀にいるのだが二つ以上の能力のレベルを上げるのは至難の業と言われており、普段の生活の中で二つ目の能力が目覚めたとしても相当有益でない限りは一つの能力のレベルを上げるのが一般的だし、それしかできないと言われている。
能力の分類としては最高峰と言われているレベルSから順にA、B、C、D、そして能力を得たばかりのEがあり、同じレベルでも熟練度によって力が異なる。
スロノはリノがいつ頃能力に目覚めたのか、普段どの程度力を使っていたのか、その一切を聞かない。
この辺りは最低レベルであるEから脱出できていない以上は聞いてしまっては地雷になる可能性が高いからであり、そもそもスロノは本来回復の能力を持つ人材が必要ではなかったこともあって何も聞くことは無い。
そうこうしている内に依頼達成に必要な分の薬草を採取する事が出来たので、未だに下を向きがちなリノを連れて町に戻りギルドに報告、その後はそう高くない報酬を得て宿に向かう。
道中強引に会話をした結果、今までロイハルエスと共に行動をしていた際の報酬については全く受け取っておらず今日の宿泊場所すらないと言う事を知ったからであり、食事をした後に当然二部屋で個別に宿泊、翌日からも初心者が受ける依頼を日々こなしている。
残念な事に時折ロイハルエスにギルドで遭遇する事もあったのだが、日に日に元気を取り戻しているリノは最近では彼の姿を見ても全く態度に変化が出なくなり、逆にスロノとの仲が深まっていった。
スロノも当初は本当に可哀そうだと言う気持ちでリノを救い上げたのだが、今となって見れば楽しく話せる相棒、そして最近では相当良い感じになっているので恋人になれるのかもしれないと言う思いもあって、孤独よりも相棒がいた方が良いと感じていた。
スロノが一人で行動しても良いと考えていたのは彼の能力の<収納>E.によるところが大きく、一般的に<収納>の能力者は商人や冒険者の荷物持ちとして重宝される存在ではあるが、決してソロで活動できるような能力ではない。
レベルもEと言う文字が見えている以上、能力を得た直後のレベルであり収納できる容量も極めて小さいのだが・・・・・・・。
と、そこはさておき、ギルドでロイハルエスと遭遇してもリノの態度が変わらない事に安堵し始めていたスロノなのだが、これはロイハルエス達がリノにちょっかいをかける様子がなかったこともある。
事実は、ロイハルエスは既にトレンと言う男にパーティーを破壊するように依頼済みであり、条件としてリノとスロノが仲良くなった後に行動を起こすようにしていたからだ。
まさかそのような事をしでかすとは思っていなかったスロノはリノが立ち直った事に喜んでおり、見た目の雰囲気から勝手に想像していた優しい人物像そのままの印象でもあって徐々に惹かれて行った。
低レベルの依頼しかこなしていない、能力のレベルからこなせない二人のパーティーが仲良く日々活動しているのはギルドでも相当有名になっており、ロイハルエスはそろそろだとトレンに指示を出した。
ゲスの報酬を前払いで受け取っているトレンは、パーティーを破壊する最中にリノもその手でと考えているので一も二もなく行動を始める。
「スロノ君!あっちに人が倒れているみたい!」
いつもの通りに薬草を採取しに行くと、先の方で倒れている人物を見つけたリノが走り寄っていく。
周囲の気配を掴むことは二の次になっているようで、優しいな!と思いながらも、これでは危険が迫っていたら助からないので、後で小言を言わなくてはならないと思いつつ慌てて追いかけるスロノ。
「大丈夫ですか!しっかりしてください!」
<回復>Eながらも必死で倒れている男性に対して能力を行使しているリノと、<収納>E.から回復薬を取り出してリノに渡すスロノ。
「うっ、あ、ありがとうございます。あなたが助けて下さったのですか?」
回復薬を摂取する前にリノの能力で意識を取り戻したのか、過去にリノを追放したロイハルエスと同じような金目金髪の美男子がリノにお礼を告げている。
「は~、良かったです。どこか痛い所はありますか?大丈夫ですか?」
これがロイハルエスの刺客であるとは気が付いていないリノとスロノは、見た目は何も怪我がなさそうながらも倒れていた以上はこのままにしておけないと、依頼を中止して共にギルドに戻ることを決めていた。