(188)大森林⑥
リューリュを始末する為には相当な物体を投げつける他ないのだが、周囲に群がっている魔獣や木をへし折っても消炭になり、本体に届く事はないだろうと感じているエルロン。
「どうすっかよ?」
悩みながらも自らに襲い掛かる強化された魔獣を蹴散らせるのは、経験と適応能力が高いからだ。
「仕方がねーな。作戦変更だ!」
攻撃目標を変更し、流星ビョーラが戦闘している方向に向かったエルロン。
流星ビョーラは基本的に遠距離攻撃能力である<弓術>を持っており、今も魔獣に近接されない様に高速で移動しながら弓を使って二つ名の通りに流星の様に数多の矢を無駄なくきっちりと獲物の急所に到達させている。
その後に魔力で出来ている矢に何かを付与したのか、魔術が発動して爆発するもの、凍るもの、燃え上がるものと様々な様子を見せている。
「初めて直接ビョーラの戦闘を見たが、まぁまぁやるじゃねーかよ?強化前の俺なら厳しかったか?」
相性的には距離を取られてしまえば以前のエルロンでは的にされるだけだったのだが、今は強化されて力が大幅に増強しているのでビョーラに対しても問題なく勝利できると思っている。
高速移動中のビョーラの背後に難なく到達すると、リリエルの時とは違い攻撃するのではなく交渉とも言えない交渉を始める。
「おい・・・どの道テメーがこの場でくたばるのは変えようのね~事実だがよ?テメーがいなくなった後の孤児院が心配だよなぁ?」
「・・・エルロン!」
会話を邪魔されるのは困るので、ビョーラの攻撃が自分に向かない事に気を付けながらも近接する魔獣に対してはしっかりと対処しているエルロン。
「一つ条件を出してやる。あっちの方向に向けて全力の攻撃をしてみろ。距離は500m程度先の一帯にいる魔獣を殲滅する勢いだ。それが出来れば、テメーがくたばった後でも孤児院には手を出さね~でやるぜ?」
ビョーラが死亡する未来は確定として話をしており、約束した相手が死亡しているのにエルロンが言葉を守るのか確証が持てる訳も無いし、そもそもエルロンを始末する為にこの場に来ているビョーラがその申し出を受ける訳がない。
エルロンとしては、魔術を付与している矢の力によってリューリュの攻防一帯の炎の球を打ち破れると考えたのだが、あっさりと断られる。
「断る!孤児院の面々には避難するように言ってあるからな。同じ手は二度と使えない!」
一度明確にビョーラの大切な者・・・つまりは孤児院の人々を脅しの材料に使われているので、ギルド総代シュライバから招集がかかった段階で金銭を渡して自らが戻るまでは身を顰めるように言いくるめていた。
今の距離では圧倒的にエルロン有利の状況なので何とか距離を稼ごうと高速移動するのだが、全力を振り絞っても距離が開く事は無く遊ばれているのか、徐々に打撃によってダメージを受ける。
継続して後方に吹き飛ばされ、その勢いで距離が開いたかと思えばあっという間に近接され・・・を繰り返しているのだが、突然エルロンが何かを思いついたようだ。
「お、良い事を思いついたぜ?」
エルロンのふざけた言葉の後に、今までとは異なって後方ではなく少し斜めの方向に飛ばされるビョーラ。
何やら目的があるように思えるのだが、ココまで近接されては攻撃が成立しないので一先ず飛ばされながらも打撃を受ける際に受け流す方に意識を向けているビョーラ。
「こいつでどうよ?」
エルロンが今迄とは少し違う威力でビョーラに対して攻撃を加え、流石のビョーラも威力が突然増した蹴りを完全に往なせずに吹き飛ぶと、その先には・・・リューリュの攻防一帯の炎が立ち上っていた。
「はっはっはぁ!テメーが燃え尽きても、リューリュが魔術を消してもどちらでも良いぜ?楽しく踊ろうや!」
球体の中にいても近接している物体の気配は掴んでいなければおかしいので、味方であるはずのビョーラが吹き飛ばされるのを把握した瞬間に魔術を消すと思っているエルロン。
その隙を見て厄介なリリエルに次いでリューリュを始末し、今の戦闘で相手にならないと認識したビョーラも始末すれば良いと足に力を入れる。
残る【黄金】は雑魚の集まりなので、ゆっくりと恐怖を与えて料理すれば良いと考える。
好み時価時間で環境に慣れたのか復讐対象の一人であるSランカー“影のソルベルド”がこの場にいない事を把握しており、あの実力者が道中の魔獣程度に敗北する訳も無いのでサルーンの所に残っているのは確実ながらもラルドであれば対処できると思っているし、ラルドが負けたのであればこの場の作業を終えた後でサルーンと揃って相手にしてやれば良いと考えた。
「どの道ラルドからの借りは、こいつらを相手にした事で返しているからな」
新たな生命を得た借りに対して【黄金】やSランカーを相手にする事で帳消しだと思っているエルロンは、寧ろサルーンとラルドが相打ちになっていれば自分がソルベルドだけに集中できるとさえ思っているが、視線は吹き飛ばされているビョーラを追う。
「そう来るよな?甘ちゃんだからよぉ!」
空中で姿勢を立て直せない状況のビョーラが魔術の炎に触れそうになる直前に、その部分だけ魔術が解除されてビョーラが内部に飲み込まれそうになる。
そのわずかな隙を見逃さず、あり得ない程の力で一気に加速して再び炎の壁が出来る前にビョーラと纏めてリューリュを蹴り飛ばすエルロン。
 




