(186)大森林④
気配を消しながら【黄金】達を追随しつつ、密集しない様に各自の間もある程度の距離を話して移動していたのだが、三人が今いる場所それぞれに視線を明確に移したエルロンを見て、諦めて姿を現す魔道リューリュ、聖母リリエル、流星ビョーラ。
実力が相当上がっていると改めて伝えられていたのだが、そこを踏まえて尚平然と自分達の存在を認識し、更には明らかに気配察知範囲が桁違いな事も身をもって知ったばかりなので、あり得ない程の力を手に入れていると感じている三人。
その源も手に装備しているグローブである可能性が極めて高いと教えられているので、少しでも確度の高い情報を得ておくべきだと行動する。
「あら?随分と偉そうな態度は変わらないのね。正直大森林の中でくたばったと思ったのに、害獣並みのしぶとさね」
「リューリュさんに深く同意します。私も台所に蠢いている害獣は大嫌いですが、しぶといですよね?良く考えれば似ていますね?」
「そうだな。俺もそう思う」
寡黙な部類に入る流星ビョーラも必死でリューリュとリリエルの会話に加わりドロデスに続いて煽ってみるのだが、獰猛な笑みを浮かべたまま動く様子を見せないエルロンなので、次のステップに移行する。
「そうそう、何だか多少強くなったので良い気になっているみたいだけど、多少良い武器を得ただけで自分の基礎能力を上げたわけじゃないらしいじゃない?自信満々の表情をしているけど、こっぱずかしいわね!」
「リリエルさん。本当のことを言っちゃ恥ずかしくなってカサカサと逃げてしまうかもしれませんよ?」
「いや、害獣は二種類いる。逃げる奴とひっくり返る奴だ」
散々バカにされている中で、ラルドから譲渡されたグローブによって力が劇的に上昇している事、能力そのものが上昇しているわけではない事は事実なので相当頭に来ているエルロンなのだが、未だに堪えている。
流石に三人のSランカーとソルベルドはエルロンの態度が通常通りではないと確信しており、その予想通りに何としても対戦相手全員・・・ミューはさておき、サルーン以外を大森林内部に引き込む必要があるので、どの様にすれば良いのかを今更ながら考えていた。
仮にこの場で戦闘になっても構わないと言う気持ちが一部はあるのだが、この周辺はラルドが何かを仕込んでおり、これだけのグローブを譲渡できる実力者である以上は下手に暴れて何らかの道具を起動させて被害を受けては、折角の第二の人生を終わらせかねないと言う懸念もある。
そもそもの約束がサルーン以外を引き受けると明言していたので、切れそうになるのを何とか堪えている。
「おい・・・雑魚共が何を言っても俺には響かねーよ。文句があるなら実力で来いや。当然俺の武具に文句があるなら、テメー等もギルド至急の武具は一切使うな」
この言葉で情報通りにグローブが強さの源である事を確信し、それ故にラルドが相当高い<錬金>の能力を持ち同等またはそれ以上の武具を身に纏い、更にはこの周辺に設置している可能性が高いと知る【黄金】達。
少し前に態度を指摘されたドロデスを含めて全員態度には出さないが、想像していた以上に厄介な相手だと感じている。
「どうした?雑魚共。っと、そうだな。テメー等はこの場で変に動く事を嫌っているんだよな?良いぜ。おあつらえ向きに良い戦場があるじゃねーか?ついて来いよ」
ここまでくればラルドがこの周辺に何らかの道具を仕込んでいる事も知られているだろうと思ったエルロンは、そこをネタに【黄金】達を大森林に誘導する。
「そこのババァ《サルーン》はここに残れ。分かっているんだろう?テメーの相手はアイツだぜ?」
最早サルーンは余力が無いのでラルドだけに意識を集中しておりエルロンの言葉を聞いておらず、ラルドもサルーンの能力を消失して尚あり得ない程の強者の気配を出しているので、意識をサルーンに固定している。
「おい・・・行くぜ?分かっているな」
ドロデスがズンズン背を向けているエルロンに追随し始めると、何やら背中に手を回して少しだけ動かしている。
「そうね。皆・・・行くわよ?」
その動きを明確に確認したのか、ミランダが何やらソルベルドに目配せをして全員に声をかけると歩き出す。
最も後方に位置しているのは未だにミューを抱えているソルベルドであり、歩む速度が異常に遅いので、前を歩く集団の最も後方にいる聖母リリエルとの距離が開く。
エルロンであれば後方の存在の立ち位置程度は把握できるのだが、敵前逃亡は無いとの前提から遅れているソルベルドを気にも留めずに進んでいる。
やがてリリエルが森に入り込んだ後・・・あと一歩で森に侵入できる位置に到着したソルベルドは、優しくミューを降ろす。
「ホナ、ワイも行くで?」
「ソルベルド様。ご無事を祈っております」
事前に打ち合わせていたのかミューは大森林ギリギリの場所で待機し、ソルベルドはミューに優しく口づけをすると、大森林とは逆の方向・・・つまり、サルーンとラルドが睨み合っている場所に移動する。
ソルベルドは師匠であるサルーンの能力が消失した以上、今のままでは絶対にラルドには勝てないと理解しており、こっそりと他のメンバーと相談した結果・・・状況によるがサルーンの助力に向かう事を決めていた。
状況を判断して合図を出したのはドロデスだが、正直ソルベルド一人の有無で勝敗が大きく動くような相手ではないと再認識してしまい、それならば師匠の為に動く方が良いだろうと消極的な判断によってこの場に残っている。