(184)大森林②
ソルベルドが大森林に移動中、甘い考えで自分達の方が先に大森林に到着する可能性が高いと言っていたのだが、その言葉を戒めた師匠であるサルーンの予想通りに既にラルドとエルロンは準備万端になっている。
寧ろ相手の到着が遅いので、本当に大森林に来るのか心配になっているほどだ。
「ラルド・・・本当にあいつ等はここに来るんだろうな?」
多少待つのは構わないが、【黄金】やソルベルドに対して復讐が出来なくなる事だけは許容できないエルロン。
「慌てるな。まだ本部に籠城しているとの連絡が来ているからな。もう少し待って動きが無ければ、こちらから本部に出向いて全てを破壊すれば良いだけの話しだ。違うか?」
ラルド自身も本部に籠城しているのを見逃す期限を一週間と区切っているので、明後日まで動きが無ければ乗り込む腹積もりでいる為、目の前で肩をすくめているエルロンに追加で説明しておく。
「流石に永遠にこの場で待つわけには行かないからな。迎撃から攻撃に行動を変えるのは明後日を期限とする」
「・・・わかったぜ。んじゃー、俺は暇だから大森林に行ってくるからよ?」
ここのところ暇さえあれば大森林内部に侵入しているエルロンだが、破壊欲求を満たすために侵入しているのではなく、羅針盤が機能し、且つ同行してくるはずの【黄金】やソルベルドが出口を見失う位置を体で覚えようとしている。
どのような印をつけようが完全に元に戻ってしまうので、襲い来る魔獣を相手にしながら移動し、感覚で目的地近辺だと体に覚え込ませるように相当な頻度で侵入する。
「あまり無理はするなよ?その道具にも限界は存在するからな」
ラルドの忠告に対して背中を向けたままヒラヒラと手を振って、大森林に消えて行くエルロン。
先だって伝えられていた通りにグローブが破損しては元も子もないので、グローブによる強化された身体能力を活かして蹴りを中心に活動しているのだが、大森林に侵入していいないラルドでは状況を把握する事は出来ないし、するつもりも無い。
サルーン以外を大森林内部で相手取り、自らの邪魔をさせないと言う唯一の目的が達成できれば何をしようが文句はないからだ。
「うっし、随分と感覚が研ぎ澄まされた気がするぜ?」
前回と同じ場所かどうかは不明だが羅針盤の指す方向が同じである事、そして木の上から見る景色は森しか見えない事から、感覚では比較的同じ場所に来る事が出来たと思っているエルロン。
仮に多少ズレていたとしても、目的である出口が見えない場所には問題なく到達している。
「後はクソ雑魚共がこの場に来るのを待つだけか。準備が整っちまうと、思いのほか待つのは苦痛だな」
何度目になるのか分からない侵入なので、初回の方に感じていた足元からも感じる不気味な気配も全く意に介さなくなっており、過去同様に襲い来る魔獣を簡単に処理しながら出口に向かっている。
「当たり前だが、出てくる場所も同じ・・・完璧だぜ」
羅針盤が示す方向に向かっている以上は出口がズレる可能性はないのだが、戻りに必要な時間も毎度同じ感覚でいられる事から、準備は完全に整ったと思っている。
大森林から出ると、こちらもいつもの様に座って仮想の戦闘を行っていたラルドが立ち上がり、今までとは違う言葉を投げかける。
「エルロン、戻ったか。喜べ、朗報だ」
朗報と聞けば内容は一つしかないので、目的の人物達が大森林に向かった事を確信して殺気が漏れる。
「エルロン。気持ちは分かるが落ち着け。お前が散々大森林を荒らしているので、そこに本気の殺気が加わると何が起きるのか分からない。せっかくここまで準備をしたのが台無しになるぞ?」
「・・・違いね~な」
ラルドの口から具体的な説明が無いままだが、両者共にそれ以降は口を開かずに瞑想している。
「宜しいでしょうか?」
そこにラルドの配下が到着するが、ラルドやエルロンとは異なって多少強い程度の存在なので、大森林の影響を受けて怯えている。
「話せ」
「はっ、はい。【黄金】とソルベルド夫妻、サルーンは大森林方面に継続して移動中ですが、未だ本部に到着した後のSランカー三人の動きはつかめておりません」
「わかった。位置はどの程度だ?」
「本部からの移動速度を考慮すると、あと二時間程度で到着するでしょう」
一刻も早くこの場方立ち去りたいのか、相当早口になってしまう配下の男。
「わかった。以降は動きに変化があった時だけ報告にこい」
「承知しました」
“待ってました!”と言わんばかりに全力で消えて行く配下の男と、その姿をつまらなそうに視界に入れたエルロンは徐に口を開く。
「分かっていると思うがよ?あの程度の実力じゃービョーラやリューリュ、リリエルの気配も掴めねーぞ?態々招集されたんだ。気配を消してこっちに向かっている以外には考えられねーからな。だが安心しろ。あの三人も纏めて請け負ってやるぜ?」