(183)大森林①
「サルーン達はまだギルド本部から出ていないようだ。これならば相当余裕をもって対策を施す事が出来るだろう」
大森林の前に到着しているラルドとエルロンは、闇ギルド所属の面々より得られた情報から目的の人物達が未だにギルド本部に留まっている事を知る。
「他のランカーはどうよ?もう本部に到着したのか?それと、間違いなくあいつ等はここに来るんだろうな?労力かけて準備して、全く別の場所に逃げちまったら目も当てられねーぞ?」
「Sランカーはまだ到着していないようだ。流石に永遠に本部に籠城する事は出来ないだろうが、仮に臆してそのような態度であればこちらから本部も含めて破壊してやるだけだ。だが、あいつ等の甘い考えであれば間違いなくここに来る。恐らくランカー到着後に移動を始めるのだろう」
サルーン達が大森林前に来る大前提についてはこれ以上論じても仕方がないので、各自が勝手に迎撃の準備を整え始める。
エルロンとしては【黄金】やソルベルドに復讐できれば良く、彼等を大森林内部に引き込む事で万が一の際に安全を担保しただけであり、最悪はラルドの言う通りにギルド本部ごと消し飛ばせれば満足だ。
ラルドは絶対で唯一の手段である各種魔道具を必要な場所に設置し、エルロンはラルドから渡されている方向を把握できる道具の起点となる品を大森林の入り口付近に埋める。
目立つ状態では大森林内部に引き込む際に攻防の余波で破壊されかねない懸念があったからで、事前に地中に埋めても性能に変化が無い事はラルドから説明を受けた上で実証済みだ。
「こっちは終わったぜ?一応大森林内部でも反応するのか試してくるからよ?」
一つの道具を埋めるだけなのでそう時間がかかる訳も無く、遠くで何やら作業をしているラルドに一声かけて大森林に侵入するエルロン。
「ちっ、相変らずうざってーな」
侵入して間もなく・・・前回とは異なって比較的早い段階で魔獣が襲い掛かってきており、過去には経験した事のない木の上からの攻撃もある。
今のエルロンの実力であれば浅い位置に出現する魔獣の対処程度で苦労する事はなく、かなり余裕を持って対処しつつ道具の状況を確認している。
言うまでも無いが、木の上からの攻撃を含めて早い段階から魔獣が出現して攻撃を受ける状況になっているのは、サルーンとスロノが侵入したせいだ。
自らが死亡する原因となった魔獣の群れに思う所があるのか、容赦なく叩き物して直進しているエルロン。
ネックレスに繋げた羅針盤を時折確認しながら進み、今尚反応している事を確認して出口の方向に振り向くと・・・既に視認できない状態になっていた。
「ここまでくりゃー、問題ね~だろ。一応上からも見てみるかよ?」
地上からは出口が見えず共木の上からは見える可能性があるので、【黄金】やソルベルドが帰還してしまう可能性を考慮して確認するエルロン。
何でもない独り言のように呟きながら行動しているが、周囲からは苛烈な攻撃を受けてその全てを難なくはじき返し、容赦のない反撃を加えている。
「お~、良いじゃねーかよ!完璧だぜ。だが、この場所をマーキングする事は出来ねーからな。今の移動速度から感覚で判断するほかね~な」
ここまで【黄金】とソルベルドを引き連れてくれば間違いなく出口には戻れないと確信しているエルロンなのだが、いざ戦闘時にこの場所まで引き連れる事に成功したか否かは目印では判断できない。
傷をつけても修復され、何かを置いても吸収されてしまうので目印を設置する事は不可能だと経験から理解しており、ここまでの移動の感覚で判断する事にして引き返している。
「反応に変化はなかったからな。ラルド曰く、限界が近づきゃー針が大きく振れ始めるらしいから、まだまだ余裕がありそうで何よりだぜ」
ブレる事なく一つの方向を指し示している羅針盤を見て満足しつつ、周囲の邪魔な魔獣を蹴散らして出口に到着したエルロン。
「どうやらあっちも終ったようだな」
視界が開けた先には大森林から少し離れた場所で目を瞑り座っているラルドが見えており、恐らく脳内で仮想の戦闘を行い準備不足の部分が無いのか確認しているのだろうと判断した。
正にエルロンが思っていた通りの事を実行しているラルドは、大前提となる余計な存在を相手にする必要が無い状況で色々なパターン・・・とある道具が何らかの原因で作動しなかった場合も含めて考えている。
「そっちは終わったか?」
気配を抑える素振りすらないエルロンが近接すれば幾ら脳内のシミュレーションに没頭していようが意識が覚醒するので、座ったままの姿勢で目を開けて確認する。
「あぁ。コイツは助かるぜ。方向音痴の俺でもしっかりと戻って来られるからな」
「それは何よりだ。こっちも準備は整ったが、再度確認しておく。【黄金】とソルベルドはお前が対応する・・・で良いな?」
「当然だな。寧ろ俺の獲物を横取りするなと釘を刺しておくぜ?俺はあいつ等に骨の髄まで恐ろしさを刻み込んでおく必要があるんだよ。お前の相手になる萎びたババァには興味はねーからな。余計な手出しもしねーよ」
例え敗戦が明確になったとしても助けないと言っているのだが、互いの目標と闘う事だけを目的に共闘関係にあるし、自らが敗北するなど全く思っていないので特段不快に思う事はない。
「良いだろう。後は待つだけだ。多少の時間経過で道具が劣化・損傷する事はないので安心してもらおうか」




