(177)対策②
基本的に冒険者の能力に関する話しを公にしたり、許可されていないのに深く問いかけたりするような事もタブーとされている。
この場に残されている面々は、サルーン以外はスロノが<魔術>以外にも明確に<操術>を持っていると聞かされているし、ソルベルドやミューに至ってはリリエルの術を移植した事実も知っている。
ドロデス達もスロノが魔獣に触れたがっている事を知っており、犯罪者としてミルロンを移動させる時もその辺りを考慮してスロノに対処を任せていた結果、事実としてスロノは<操術>Sをミルロンから剥奪している。
そこまで配慮・推察できる面々なので、今回突然スロノが相当危険と万国共通で認識されている大森林に向かうと言った時には、その理由も推測の域は出ないながらも相当高い確率で何かしらの能力を得ようとしているのだろうと思っている。
サルーンも流石に周囲の態度やスロノの言動、そして弟子のソルベルドの様子からかなりスロノの事を理解しているのだが、特段何かを言う事はない。
一般的な視点から見れば、消失してしまった<槍術>を戻してほしいと言ってもおかしくないのだが、他人に能力を付与できるのかは明確に判断できない部分であるし、仮に可能だとしてもそこは冒険者の矜持として自ら希望するものではないと思っている。
「おい、スロノ・・・あそこは相当危険なのは知っているだろう?俺達も必要か?」
スロノがここまでの能力を持っておらずに、初心者から毛が生えた冒険者が討伐するランウルフの依頼に随行中に命を落としそうになっていた頃からの付き合いなので、ドロデスが必要であれば同行すると告げる。
明言しないのは恐怖心からではなく、スロノが秘匿している能力を行使するのであれば自分達は邪魔になると思っているからだ。
「いいえ、今回は自分だけで大丈夫です。危なくなったらすぐに逃げますし、もうあの魔法陣は消失しているでしょうから問題ありませんよ。唯一の問題点と言えば、シュライバさんに招集された三人がどれくらいで揃うのかと、エルロン達がどの程度で攻撃をしてくるか・・・ですね」
「三人はそれほど時間がかからずに来るだろうが、エルロン達については分からねーな。俺達がここにいる事はまだ知られちゃいねーと思うがよ?あいつ等ならそう時間がかからずに突き止めるだろうし、Sランカー三人の招集を知られた時点で関連性に気が付くだろうからよ」
「そうですよね。そうなると・・・一日か二日が精々ですね」
「だろうな」
「じゃあ、時間がもったいないですから俺は今から行ってきますね。もちろん気配は消して出入りしますから安心してください」
あまりにも突然の流れだが、それだけ緊急事態なのでスロノは単独行動させる事にし、他の面々は少しでも戦力を上げておくべく本部の修練場に向かう。
特にエルロンと同じ能力である<闘術>を持つオウビの気合は相当で、まるで手も足も出ずに吹き飛ばされた事実が相当悔しかったようだ。
だからと言って一般的な鍛錬で劇的に能力が上がる訳も無く、厳しい現実を変える事は出来ていない。
その頃のスロノは、今の所周囲には闇ギルドの存在や追跡者の気配を感じないながらも慎重に行動し、能力を付与した状態で高速移動して大森林に向かっている。
万が一戦闘の気配を掴まれて調査対象にされるのを避けるために、道中の戦闘も極力避ける方向で移動している。
レベルSの能力なのでそう時間を必要とせずに再び大森林に到着し、万が一にもエルロンやラルドがいれば即撤退と移動中以上に慎重に<操術>も行使して警戒するのだが、見つけたのは人工的に作られた瓶の破片が少々だけだったので安堵している。
「ふ~、一応第一関門はクリアっと。じゃあ、行きますかね?」
少々すくんでしまった足を手で叩くと、若干先行させている調査特化の魔獣を大森林に侵入させたうえで周囲を警戒し、安全と把握した場所に一気に侵入する。
サルーンからの情報では、出口が見える場所でも留まっていれば魔獣が湧いて出て来るとの事だったので、魔力の関係で一旦<操術>による作業を停止していつでも俊敏に動ける体制を整える。
――ガサガサ――
特段能力を使わず共激しい音が聞こえ始めたので、サルーンと同様に背後の木の上に移動して下を見下ろすスロノ。
もちろん木の上とは言っても周囲や上空の警戒は怠っていない。
「うわっ・・・相当だな。どれだけの能力があるのか」
眼下には際限なく湧き出て来る虫の様に魔獣が集まってきており、<鑑定>Aを使って距離の離れている木の上からどのような能力を持っているのか情報を得ようとする。
「成程・・・予想以上だな。こんな場所でエルロンは長く生存していたなんて、相当な強さと精神力、胆力を持っていたんだな」
スロノが眼下に広がる魔獣達の鑑定を実施したのだが、実は土中にも蠢く魔獣が隠れていたようで、鑑定によって地中に潜んでいる存在の能力までが見えている。
この周辺に存在している魔獣はレベルA以下の能力であったようで、漏れなく能力が見えているスロノ。
「でも、不要な能力もあるな。<暴食>なんて、手に入れても使い道が無い様な・・・」
魔獣独特の能力なのか、自らが手に入れても活用の場面がなさそうな能力も見えている。
「選択する余裕はなさそうだな。気持ちが萎えない内に一気に行くか?」
討伐する必要はないが、地中の魔獣に気を付けながら魔獣に触れて能力を収納する必要があるので、大森林から感じる不穏な気配と眼下の不気味な雰囲気を出している魔獣の群れによって気持ちが完全に滅入る前に先ずは行動しようと、自分に活を入れるスロノ。




