(175)強さの本質に迫る③
「確かにスロノの言う通り、武器一つだけでこれだけ実力が変わるのかと驚いた事があるぜ。ジャレードとオウビもそうだろう?」
寡黙故にコクコク頷くだけだが、二人共にドロデスの指摘通りに自らが明確に補強された事を感じていた。
「そうね。私もこのブレスレットのおかげで戦力は上昇したから、その線は濃いかもしれないわね。正直エルロンが使っていた武器なんて識別できなかったけれど、スロノ君が断言する以上は、私はその線が濃いと思うわ」
「ちょ、ミランダさん。俺は断言しているわけではないですよ?それに、比較対象が以前エルロンの使っていた武器ではないので、道具が原因なのか断定するのは難しいですよ!」
何故か想定の域を出ない話が結論になりそうだったので、慌てるスロノ。
「スロノはん。エルロンの武器を正確に見た事が無いと比較が出来ないのは当然やが、基本的にSランカー認定時点で武器はギルドから支給されるんは知っとるやろ?」
「そうですね」
ソルベルドの問いに、自らの腕に装着されている、ミランダと同じブレスレットに視線を落とすスロノ。
「ホンで、エルロンのグローブについては能力を偽っていた以上詳細までは知らんが、元より使っていたのはワイの槍と同等のレベルやで」
何処からともなく漆黒の槍を取り出してスロノに手渡すソルベルドと、その槍の詳細を知る為に<鑑定>Aの能力を使ったスロノ。
やはり今持ち得ている<鑑定>Aで鑑定できる代物であり、幾ら戦闘の場面で切羽詰まっていたとしてもしっかりと能力が発動した記憶があるので、この槍よりも格上の品なのは間違いないと確信する。
「ありがとうございます、ソルベルドさん。これも相当ですが、正直エルロンのグローブはその上を行っていますね」
総代シュライバやサルーンは、スロノが武器に対して興味を持って調べたと言っていたのでその知識に基づいていると思っているのだが、それ以外の面々、【黄金】やソルベルド夫妻に関してはあり得ない程の能力の行使を目撃していた事も有って、スロノが何らかの能力・・・想像できるのは<鑑定>だが、その能力を使って判断したと思っている。
だからと言って余計な事を口にする事はないのだが、確度が高い情報だと判断したことに変わりはない。
「スロノが言うんなら信用できるぜ?あのクソ野郎は道具によって強化された。確かに大森林の影響はあるのかもしれねーが、ひょっとしたらその強化された道具を試す為に大森林に籠ったのかもしれねーからな」
グローブが何時エルロンの手に渡ったのか知る由も無いので、ドロデスの推測は多少飛躍してしまう。
「そうだねぇ。そう言われるとエルロンには動きにぎこちなさが見えたからねぇ。格上の武器を始めて使った時の様な違和感があったよ」
あの状況でエルロンの動きまで完全に把握できていたサルーンの実力に驚かされつつも、能力消失の呪いが発動しているので今後について心配になるこの場の面々。
実際の戦闘能力は低い総代シュライバだが、冒険者組織の頂点として気持ちを切り替える意味でも明確に告げる。
「わかった。一先ず敵の戦力について整理しよう。絶対ではないが、推測の上だと理解した上で行動すれば良いだろう。エルロンのあり得ない戦闘力の上昇は武具、グローブによる可能性が高い。そして俺の推測が含まれるが、サルーンの情報を加味すればそのグローブは<錬金>を持つラルドが作った可能性が高い」
「それが一番しっくりくるねぇ。過去の戦闘時も、ラルドは道具に頼るような動きをしていたからねぇ。そして現状こっちの戦力は落ちた。そんな事は向こうも百も承知だろうから、もう一度仕掛けてくるのは紛れもない事実だねぇ」
改めて非常に厳しい現実を突きつけられたので一瞬静寂が訪れるのだが、だからと言って座して死を待つような面々ではない。
「はっ、上等だぜ。前回は多少守勢に入っちまったがよ?こうなりゃ玉砕覚悟で対応してやるぜ!」
確かに前回の大森林での戦闘時には役に立てなかったのだが、逃走できる余力を残していた事実もあるのでドロデスが気勢を上げる一方、ソルベルドは現実的な方向での戦力上昇について検討していた。
「シュライバはん。ワイが魔石を提供すれば、もっと武具の性能を上げる事は出来るんやろか?」
「正直に言うと、相当厳しい。今お前達が持っている武具は全てギルドで出来得る最高の品だからな。いくら素材を提供されてもそれ以上の強化は出来ない」
秘匿事項ではあるが、ギルドに所属している<錬金>Bを持つ能力所持者が作業をしており、あり得ない程の上等な魔石の力もあって武器のレベルとしてはAの下級と言った域で仕上がっている。
つまり、これ以上の魔石があっても加工能力が無いので、強化は不可能だ。
残念ながらスロノもこの武器を作れるほどのレベルの能力を持ち合わせていないので、この場で何かできる事を考えるのだが、できる事と言えば・・・武器の強化が不可能であればそれぞれの能力の強化しか思い浮かばない。
手持ちの能力をざっと調べるのだが、レベルがA以上の能力は<収納>Exと自らの能力と公言している<魔術>Sを除くと、<闘術>A、<回復>A、<鑑定>A、<操作>Sになり、レベルSの能力者にレベルB以下の能力を付与しても逆に足を引っ張る可能性がある。
仮に<魔術>Aのミランダに<闘術>Aを付与したとした場合・・・スロノは<収納>Exの恩恵なのか適応能力が高いのだが、一般的にはこれほどの高レベルの能力を突然付与されても使いこなすには相当な期間が必要になる可能性が高い。
やはり安易な補強は不可能だと思い、今できる事はないと判断する。




