(174)強さの本質に迫る②
大森林に関する情報など具体的に持ち得ていないが、相当過酷な環境に置かれる事だけは分かるし、近接して・・・サルーンに至っては内部に侵入も果たしたが、身を持って危険度を理解している。
ソルベルドも各国を移動中に大森林近くに立ち寄った事も有り、その不穏な気配については嫌でも記憶に残っている。
自分達でも恐怖を覚える環境であれば、そこである程度の期間過ごせば嫌でも戦力は激増するのではないかと言う確度が高そうに聞こえる仮説と、内部が分からない為に勝手な想像で戦力が上がる何かしらの秘密があると言う仮説が繰り出された。
「あの二人・・・正直ラルドは良く分からないが、エルロンに関して言えばギルドへの登録能力も偽っていたくらいなので、本当の力を隠していた可能性もあるのではないか?」
本来の議題は本部襲撃に関する防衛なのだが、少々話がズレ始めている。
しかし、防衛するにも相手の戦力をしっかりと把握する事は重要なので、明らかにエルロンが過去のエルロンではない以上はその辺りの話はするべきだと敢えて自らも乗っているシュライバ。
「正直絶対とは言いきれんのやが、王国バルドでの戦闘時にも本気を出していたと思うで?そう考えると、あの強さを得た原因は大森林が絡んどると思うんや。ババァはそこの所、どう思う?この中で大森林に入った経験があるのはババァだけや」
「そうだねぇ。アタシは浅い位置にしか行かなかったし戦闘を行ったわけではないけど、それでも嫌な汗はかいたねぇ。深くに行けば何かしらアタシ達の常識では知り得ない戦力増強のアイテムがあるのかもしれないねぇ。でも、今ある情報からではあの環境で長期間生き抜いた為に、必要に迫られてついた力と考えるのが良いんじゃないかねぇ」
サルーンの結論が真実であれば、あのエルロンに対抗するには自分達も大森林で長期間過ごす必要があり、ソルベルドはミューを守る為であれば迷う事無く侵入する気概なのだが、生き残れる自信があるのかと言われると少々揺らいでいる。
ソルベルドよりも実力的に下の【黄金】であれば更に身の危険を感じているので、可能であれば他の手段で力をつけておきたいと思っているのだが、今この場で良い案が出てくるわけも無い。
「っと、そうやった。ババァ!例の呪いの件・・・ワイが無様に抱えられとる時に不穏な気配を感じたで!まさかとは思うが・・・」
「はぁ、アンタにだけは知られたくなかったねぇ。そこの坊主が気を利かせて周囲には聞かれない様に配慮してくれたのに、全員の前で大声で・・・全く、プライバシーも何もあったモンじゃないよ、バカ弟子!」
スロノも<槍術>Sの“S”の文字がブレていたから心配して個別に声をかけただけで、まさか<槍術>SSから一つ能力が奪われているとは思っていない。
具体的にどのように呪いが発動してしまったのか話しているわけではないが、サルーンのこの言葉は自らに呪いが発動してしまったと明確に認めている。
「ババァ・・・」
確かに今のサルーンには以前の様に得体のしれない雰囲気を感じなくなっており、良くて自分と同レベルだとしか思えないソルベルド。
それでも経験豊かである為にソルベルドに負ける事はないだろうが、強化されているエルロンや元から復讐の為に各種道具を用意周到に準備しているラルドが相手では最早手も足も出ないだろう。
つまり、今のソルベルドでもエルロンやラルドに対して勝利する事は出来ない。
「あの、ちょっと良いですか?」
大森林での戦闘時、自ら何らかの能力を使って攻撃をする事が出来なかったので、何とか少しでも情報を得ようとしていたスロノが疑問を口にする。
「良いぞ。言ってみろ、スロノ。現状を打破する為だから、どんな意見でも思いついたら口にしてくれ」
「ありがとうございます、シュライバさん。えっと、あのエルロンは<棒術>と偽って登録していて、現実は<闘術>だったのですよね?」
これは誰しもが知っている事なので、特に誰かを指名して問いかけたわけではないのだが全員が頷く。
「俺、このブレスレットを頂いてから武器を含めた装備に関しても少し興味があったので、色々と調べていました。で、ソルベルドさんの漆黒の槍も相当な業物だとは素人ながら理解できますが、正直・・・エルロンが使っていたグローブ、オウビさんの品と比べようがない位の代物に見えましたよ?」
【黄金】の一員の<闘術>Aを持っているオウビも、ソルベルドから譲渡された非常に高価な魔石をギルドに提出して自らが使用するグローブを大幅に強化したのだが、そのグローブでさえも大幅に劣ると明言しているスロノ。
あの戦闘時に何故そこまでしっかりと見えたのかと言う疑問があるのだが、武器の性能が上がった事で自らの力が大幅な上昇を直近で経験した【黄金】の面々はスロノの発言に納得顔だ。
スロノは例の戦いの際、少しでも情報を得るために一時的ではあるが自らに<鑑定>Aを付与しており、残念ながら<錬金>Sで作成されたグローブの情報は一切分からなかったのだが、それ故に簡単に鑑定できてしまう【黄金】が所持している武器とは大幅に性能が異なると確信した。
「確かに坊主の言っている事が事実であれば、大幅に戦力は上がるねぇ。冷静に考えればラルドの持っている能力は<錬金>の可能性が高かったからねぇ」
普段ならば第三者の能力を仮定であっても口にする事はないのだが、今は対処すべき敵であり、例え過去に行動を共にした仲間であろうが推測の域は出ないが情報を開示するサルーン。
彼女ほどの能力があれば、過去行動を共にしていた際のラルドの動きから戦闘系の能力を持っておらずに明らかに特殊な道具に頼っている事は直にわかり、その上その道具が日々更新されていれば持っている能力に当たりを付けるのは容易だ。
サルーンは冒険者としての常識から過去にその推測を披露する事はなかったので、ラルドも自らの能力を知られているとは思っていない。