(173)強さの本質に迫る①
絡まれたくない面々と話を聞いてもらいたいソルベルドと言う謎の攻防があったのだが、全員が落ち着いて食事をした後に本題に入る。
幾ら気の抜けた話をしていようがこの場にいるのは総代とミューを除けば全員がレベルA以上の能力を持っている超人達なので、追跡者はないと知りつつも何時ラルドやエルロンが攻め込んで来るかもしれないと危機感を抱いているし、迎撃するにも一筋縄ではいかない事は証明されている。
「漸く落ち着けたな。本題に入りたいと思うが、良いか?」
余計な一言が付いているが、総代シュライバが秘書官のミミと話す時とは打って変わって真剣な態度になる。
言われず共に何の話なのかは理解できるので、全員が円卓の席に座って真剣な表情で頷いている。
流石にソルベルドとミューも、この場で幸せオーラを撒き散らすような事はしていない。
「良し。早速だが昨日伝えた通りに三人のSランカーに対しての依頼を出したので、彼等が今受けている依頼の関係もあるが数日以内にこの場に到着する事になるだろう。その間の防衛と合流後の防衛について話したい」
「ちょっと待ちな、シュライバ。アンタはそれでも総代かい?抜けているねぇ。もう少し対処しなくちゃならない部分が抜けているよ?正直手遅れかもしれないがねぇ」
サルーンの指摘を受けてしまったシュライバだが、実はソルベルド夫妻や【黄金】もシュライバの言葉の中に何が抜けているのか理解できていない。
「あの・・・サルーンさん?正直俺もシュライバさんの対応以外に必要な事柄が分からないので、教えて頂けますか?」
周囲の表情を把握する事に長けているスロノが、いち早くサルーンに問いかける。
「シュライバは本当に分からないのかい?」
ギルド総代と言う立ち位置の為、念を押されてしまったシュライバは恥ずかしそうにサルーンの言葉を肯定する。
「お恥ずかしながら・・・」
「そうかい。アンタの話しじゃぁ無条件に現役Sランカー三人がこの場に来る事になっているねぇ。ラルドはどうだか知らないが、エルロンはアタシが知る限りでは少なくともリリエルに攻撃していた事実があるはずだねぇ。そこはどう考えるんだい?」
確かにエルロンは王国バルドで聖母リリエルに対して苛烈な攻撃を仕掛けており、そこに介入したのが生まれ変わったソルベルドだ。
「・・・確かにその通りだ。あの三人はSランカーなので道中の危険はないと勝手に思ってしまった。では、そこも含めてどうするのか・・・」
言われている事はこれ以上ない程に的確であり、慌てて本部に招集をかけたSランカーに対する対策も検討項目に付け加えようとしたのだが、あっさりとサルーンによって手遅れだと否定される。
「今更無理なんじゃないかねぇ。既に移動中の者もいるだろう?アタシはてっきり身を隠してくるのかと思っていたけどねぇ。普通の招集依頼であれば、移動中のSランカーに連絡を付けるのは無理だろうねぇ」
<操術>Sを持つスロノであれば、その存在を見つけ出して高速移動中や秘密裏に移動中の存在にもコンタクトを取る事が出来るので、ここまで来てしまえば能力を秘匿したい云々の次元じゃないと覚悟を決める。
「あの、俺であ・・・」
「ババァの言う通りやな。そやけど、そこは各自の能力に期待せんとあかんな。エルロンに負けたワイが言うのもなんやが、あの三人も腐ってもSランカーやから総代の呼び出しであれば非常事態と分かるやろ。当然移動中の警戒も怠たっとらんと思うで?」
スロノの能力を使ってサルーンの行動を教えてもらった過去を持つ【黄金】とソルベルドなので、同じように再び能力を使ってもらえれば話は早いと思いつつも、ココには秘密を明かしていない存在がいるので敢えてソルベルドが止めにかかった。
「大丈夫や、スロノはん。シュライバはん?そう言う事やから、他の事に頭を使おうやないか。どや?」
流星ビョーラはさておき、魔道リューリュや聖母リリエルとは結構仲良くなったと思っているスロノは、身の危険があるのであれば助力をしておきたい気持ちが捨てきれないのだが、複数の魔獣を支配下に置く以上は相当な疲労を感じてしまうのは事実であり、その際にエルロンやラルドが仕掛けてくれば全く対応する事が出来ないばかりか正直お荷物になりかねない。
そもそも移動中の三人が攻撃対象になる可能性については不明確な部分もあるので、ソルベルドの言う通りに三人の現役Sランカーの力を信じる事にした。
「そうか。サルーンもそれで良いな?」
「まぁ、それ以外にないだろうねぇ」
ソルベルドの行動によってスロノが何かしら対処する術を持っている事は理解したのだが、そこには触れずに大人しくなるサルーン。
少し前に自分の行動が筒抜けだった事も有り、スロノが何らかの調査能力を持っているのだろうとは推測できるが、秘匿している素振りがある以上は余計な事は聞かない。
「改めて話す。今の所全員が本部にいるとエルロン達には明らかになっていないと考えている。だからと言って楽観視するわけには行かない。相手には闇ギルドのトップであるラルドもいるからな」
「正直に言うぜ?今回ソルベルドの援助もあってギルドで作ってもらったコイツだがよ?この戦力上昇分があっても今のエルロンには手も足も出ねーよ」
自らの戦力を過大評価すると全ての作戦が瓦解するので、正直に告げているドロデス。
「それを言うなら、悔しいがワイの全力でもエルロンには届かんかったで。あれほど急激に力が上昇するなんぞ、大森林での過酷な経験か、ワイ等の知らん不思議な力を得る秘密を握ったのか・・・何れにしても現状では厳しいで?」