(171)闇ギルドとして
本来は最も知りたいはずの現状に至った理由に関する説明を、迷う事無く容赦なく断ったエルロン。
闇ギルドのギルドマスターとして目の前のエルロンの事はある程度は事前に知っていたが、復讐する時間が十分にあると納得するとそれ以上の情報を欲しなかったので、聞いていた情報以上に苛烈な性格をしていると認識したラルド。
「そうか。もう一度だけ伝えるが、お前は以前のまま。能力もそのままだ」
自らの道具による不具合なのか、あり得ない事象と断じても問題ない“生命の復活”を完全に行えるようになるのか、その辺りについて知識を欲していたラルドは、事象が明らかになったので再度事実だけを告げる。
ラルドが知り得た調査結果は、同じように復活した遺伝子レベルで同じ存在を完全に取り込む事によって制約が外れた事であり、エルロンの口からも弟であるミルロンを始末した結果煙になって自分が吸収したと伝えていたので、意図的に同じ現象を起こす事は非常に厳しいと少々落胆している。
そもそも復活の道具を創るのにも相当な時間を要しており、そこに復活対象の一部・・・今回は髪の毛であったのだが、それを有効に溶かし込むのにも相当な手間がかかる。
闇ギルドとして活動しているので、名だたる人物達の一部については今後何らかの役に立つ可能性を考慮して収集しており、今回エルロンとミルロンが大森林に侵入した情報を得た瞬間、既に作成済みの二つの道具に二人の髪の毛を溶かす作業を開始していた。
「んで、どうすんだ?正直クソ野郎からのダメージは完全に回復しているからな。いつでも再戦できるぜ?お前の事だからあいつ等の動きは掴んでいるんだろう?」
「確かに・・・と言いたいが、流石に大森林近辺に待機させていた連中ではあいつ等の動きについていく事は出来なかったからな。追跡関連の道具も起動する余力はなかった。本丸に対して奥の手を使えたのが幸いだったが」
「そうかよ。じゃあ俺が調べるか?」
一応恩人とも言えるラルドを前にしても、自分の復讐対象以外に関する情報については興味が無いので露骨に態度に出るエルロン。
「いや、組織を使った方がより早く情報を得る事が出来るだろう。恐らく数日であいつ等の情報は手に入れられる」
「んじゃあ、俺はこの道具を慣れさせるために少し運動してくるぜ。っと、今更だがコイツは俺が使っても良いんだよな?」
<錬金>Sによって作成された武具なので、これ以上ない程に戦力が上がり明確にソルベルドの上を行く事が出来た事実があり、更に使いこなせるように適当に暴れてこようと思っているエルロン。
確かに慣れるべき作業が必要だと思っているのだが、それ以外にもサルーンに容赦なく吹き飛ばされた事実が受け入れ難く、どう考えても各上である事から少しでも自分の力を上げておきたかった事もある。
そのサルーンと同等に渡り合っていたラルドに対しても、今は命を復活させてもらった事や復讐相手にしっかりと対応させると明言している事、更には別格の道具まで与えてくれている事から手合わせを申し入れる事はしていないが、やがては・・・と言う気持ちは捨てきれない。
いくら復活したとは言っても、性格も元のままなので内心そのような事を考えているが、最大の目的である復讐が未完遂の時点で場を荒らすほど馬鹿ではないので、一先ずは戦力を上げる事にしたエルロン。
「あぁ。そもそもそいつはお前の為に準備したものだからな。遠慮なく使ってくれ。だが、余り過激な事はするなよ?予備もないし、破損した場合に修復するにも相当な時間が必要になる。最悪は復讐ができなくなる可能性すらあるぞ」
明確にこの道具によって戦力が上がっているので、損傷してしまえば修復が完了するまで【黄金】やらソルベルドやらを同時に相手にするのは少々厳しいと冷静に判断しているエルロンは、肩をすくめて闇ギルドから出て行った。
「ふ~、一先ずサルーンの能力を消失できたことは僥倖だったな。だが、まだまだ復讐はこれからだ。どうせギルドか王国バルド絡みを調べれば所在は直にわかるだろう。待っていろ、サルーン!」
エルロンが一時的に去った闇ギルドでは、サルーンを始めとした今回の復讐対象の調査がギルドマスターのラルドの指示によって慌しく開始される。
一度直接対峙した直後の為に多少なりとも昂っており、その影響もあってか現在進行中の全ての依頼を中止して今回の一件に当たらせた結果、僅か数時間である程度の情報を得る事が出来ていた。
調査対象を相当絞った事も有るのだが、如何にこの闇ギルドが力を持っているのか如実に表している。
「ギルドマスターの勅命に対し、二班から速報が届きました。ギルド本部に対象の人物全員がいるとの事です」
「わかった、下がれ」
ギルドが係わっているのは想像の範疇だが、正直なところでは本部まで絡んでくるとは思っていなかったラルドは多少悩む。
仮に復讐対象が籠城すれば容赦なくギルド本部を攻撃するつもりだが、それはあくまで最終手段・・・と言うのも、流石のラルドでも各国に存在するギルドの総本山であるギルド本部を安易に攻撃しては、対処する事は可能と思っているがその後永遠に反撃し続けられ、本来の闇ギルドとしての作業にも大きな影響があると考えた。
だが、今回の動きのきっかけになったミュラーラからの依頼も実施するが、自らの復讐を果たさずに矛を収める事などあり得ない。
ギルド本部総代シュライバも苛烈な面々であれば例えギルド本部だろうが容赦なく攻撃してくるだろうと想像していた通り、ラルドは復讐対象を本部から引きはがす手段が無ければ本部も纏めて消し去るつもりで事を進めると誓う。
エルロンに至っては聞くまでも無くその考えに至るし、最悪は本部から対象を引きはがす事すら検討の余地が無いと切って捨てる可能性もある。
「期限は・・・一週間とするか?」
期限を設けなければ永遠に事が進まない可能性があるので、本部からの引きはがし期間を一週間と決めたラルドは、具体的な行動について検討を始めた。