(18)スロノの過去⑨
「あの、どう言った理由で資格を剥奪するのでしょうか?剥奪となれば二度と資格を得る事はできませんから、ギルドとしても相当慎重にならざるを得ないのですが」
突然詳細の説明なしに、初のレベルDの依頼を失敗した挙句に運搬係が死亡していると言ってのけた冒険者三人の資格を剥奪すると言い切った冒険者に対し、受付は当然の質問を投げかける。
「っと、そうか。先ずはねーちゃんの心配事を一つ消しておいてやろう。あっちを見ると良いぜ?」
冒険者が指し示した先はスロノがちびちび飲み物を飲んでいる場所であり、スロノを生贄にして逃亡した冒険者達もそちらに視線を向けると驚愕に包まれる。
「ば、バカな!」
「何故あの状況で生きているのですか?」
未だ<魔術>Dの男だけはダメージが抜けきっていないので何も言えないが、目はこれ以上ない程に大きく見開いている。
受付は両手を口に当てて嬉しさからか涙を流しているのだが、その全てを見ているスロノは所在なさげにぎこちない笑顔で軽く手を振っていた。
「でな?俺が聞いたところによるとよ?この雑魚共はスロノを生贄にしてトンズラしたんだがなぁ。コレはどう甘い処分をしても資格剥奪じゃねーか?俺達があいつを助けた時、スロノの証言が真実味の有る状況だった事は俺のパーティー全員が証言するぜ?」
「ふ、ふざけんな!そんな事はいくらでも偽証できるだろうが!偉そうにしておきながら、俺達に近い内にレベルを超えられるのが恐ろしいのか?才能ある俺達を妬んで実力が抜かれない内に芽を摘む魂胆なのは見え見えだぞ!恥を知れ!」
「本当にその通りですよ。確かにあの状況から漁りが生還したのは驚きですが、今の時点で多少俺達よりも強い貴方達が救出したのであれば頷けます。ですが、いくら証拠と言っても所詮は口だけ。妬みは見苦しいですよ?」
最早収拾がつかずにどの道冒険者資格剥奪と言う重い処分が下るのであれば受付では対応できない事からギルドマスターが急遽呼ばれ、流石にこれだけ大事であれば食事をして騒いでいた者達も固唾をのんで状況を見守っている。
「お前等、状況はある程度聞いたが・・・っと、なんだ。証言しているのは【黄金】パーティーか。じゃあ、はっきり言って疑う要素は無いな。何か言い訳はあるか?」
相当な実力と成果を出し続けている存在なので、斧を背負ってダミーとして帯剣している屈強な男をリーダーとしたパーティー【黄金】の信頼度は群を抜いており、その姿を確認しただけでギルドマスターは完全に疑いの目をレベルDの三人の冒険者に向ける。
一気に旗色が悪くなったので物証に的を絞って反論するほかないと、特に口の立つ<盾術>Dの男が弁明する。
「随分と一方的な判断ですね、ギルドマスター。とてもこの町の冒険者を束ねる組織の長とは思えない程の浅はかですよ?俺達があの漁りを生贄にして逃げた証拠はどこにあるのですか?冒険者としての資格剥奪。つまり、悪事を働いていない善良な冒険者、才能に溢れた冒険者三人の今後を大きく変える様な重要な決定を、一方的な証言だけで決めても良いのですか?」
「そうは言ってもな?囮なんて言う糞みたいな行動が出来る冒険者ってのは、複数の目撃情報と生存者の証言があれば罰する事が出来るのは知っているだろう?確かな証拠があれば証言も余計な情報も不要だが、確実に裏がとれる状況なんて略無いからな」
「そこは知っていますよ。生存者の証言・・・は可能でしょうが、何時まで経っても漁りしかできないあの男であれば、俺達の才能を妬んで簡単に偽証するでしょう。そこでギルドマスターに問題です。複数の目撃情報についてはどうやって確保するのですか?」
いちいちイライラする言い回しなのだが、偽証の所は言いがかり以外の何物でもないが言っている内容は理にかなっている。
資格剥奪と言う処置は非常に重いので相当慎重に決断しなくてはならいからであり、そこを突いた口撃をしてきたのだ。
確かに囮にした状況を目撃していない【黄金】のメンバーと、当然目撃したと言う報告を受付から聞いていないギルドマスターなので答える事が出来ない。
「どうやら冤罪のまま裁こうとしていたようですね。【黄金】の皆さんも俺達の才能に妬むのは避けられない事実なので構いませんが、あまりにも露骨すぎると程度が知れますよ?」
ここぞとばかりに追撃して見せる<盾術>Dの男だが、言われている【黄金】のリーダーの表情は変わらない。
「こいつは想像以上のクズ野郎だな。いや、こいつ等と言った方が正しいか?おいよぉ~、俺達が何も物証無しでここまで言い切ると思っていやがるのか?随分と舐められたもんだなぁ、おい!」
余りの剣幕に、かなり離れた場所に居る被害者のスロノでさえビクッとして姿勢が正しくなってしまった。
「そ、そこまで言うのならば物証を出していただきましょうか!」
引くに引けないながらも絶対に物証などある訳がないと思っている<盾術>Dの男は、しっかりと反撃して見せた。
「良いぜ。おい!悪いが、ちょっと来てくれねーか?」
突然呼ばれたスロノだが、断れるわけも無くノコノコと荒れ狂う震源地に近づいて行く。
「はっ、本人の証言は物証にならないと理解できないのですかね?」
証言をとる以外には証拠などある訳がないので更に強気になった<盾術>Dの男なのだが、その後の流れで三人共に一気に真っ青になってしまう。
「バカが!証言なんざぁ物証じゃねーだろ。よく見ろ。こうなるだろうと思って敢えて回復させなかったんだよ!目ん球見開いて良く見やがれ!」
そう言って指し示したのは、スロノを麻痺させるために<剣術>Dを持つ男が背後から軽く差した刺し傷だった。