(168)戦闘と逃走②
宣言通りに、次の対戦相手になる【黄金】の近くに今の戦闘相手であるソルベルドを吹き飛ばして見せたエルロン。
現実的に相当な実力差が無ければここまではできないので、ソルベルドも何故エルロンがこれほどの力を突然得たのか・・・宣言通りに弟であるミルロンの力まで飲み込んだ可能性も現実的にあり得ると考えつつ、どの様に対処すべきか考える。
「ソルベルド様!!」
戦闘中の動きが見える訳ではないが、吹き飛ばされて停止したソルベルドの姿は見えるので、動きはミランダに制止されつつも心配で声をかけてしまうミュー。
「良い事を思いついたぜ、ソルベルド。ムカつくテメーに絶望を与えるにはどうすりゃー良いのか考えたがよ?テメーの前でその女をボコボコにすりゃー俺の気が晴れるんじゃねーか?」
「エルロン。お前は絶対に言ってはいけない一言を口にした」
これ以上ない程にブチ切れた時だけ出て来る話し方に変わったソルベルドは、吹き飛ばされた状態から一気に姿が消えると、周囲の【黄金】やミューには激しい戦闘音と声だけが聞こえる。
互いの武器が衝突する乾いた音と共に・・・
「おいおい、ちょっとはやるじゃねーかよソルベルド。だが、そんなんじゃ俺に一撃入れるのは無理だぜ?多少は楽しめる程度だ」
余裕の態度が想像できるエルロンの言葉が聞こえてくるが、現実的には限界を超えて攻撃をしているソルベルドの激しい連撃を捌くので手一杯であり、少しでも対処を誤れば行動が阻害される程の怪我を負う事は間違いない。
かと言って完全に守りに入るかと言うとそのような事は無く、元より苛烈な性格をしている上に寿命は短いと誤解しているので、多少の負傷は許容する覚悟で反撃を始める。
この覚悟によってソルベルドの苛烈な攻撃を受けて尚反撃に転じ、轟音と共に互いが吹き飛ぶ。
「はぁ、はぁ・・・」
相当な無理をして攻撃をしていたソルベルドも息を切らしており、正直体中が悲鳴を上げているので立っているのも厳しい状態だ。
エルロンも想像以上の力を出してきたソルベルドの攻撃に対処しつつ多少被弾するのを覚悟のうえで反撃したので、同じく吹き飛ばされて負傷しているが、負傷の度合いはソルベルドよりも軽い。
「それで終いか?んじゃぁテメーの目の前で大切なモンを奪ってやるぜ!ハハハハハ」
見た目上はまだ反撃できる姿勢を維持しているソルベルドだが、攻撃時の手応えや今迄の経験から反撃の余力が無い事をエルロンは理解しているので、完全にソルベルドを無視する形でミューに近接する。
現実的に素の戦闘能力はソルベルドの方が勝っているのだが、使っている武器を製作したのがギルドお抱えの能力者かレベルSのラルドかの違いであり、そこに大きな開きが生じてしまっていた。
一時とは言え、レベルSの能力を持ちレベルSの能力者が作った武器を使っているエルロンに優勢になったソルベルドの実力が非常に高い事は、疑う余地はない。
ただ・・・残念ながら限界に達してしまっているソルベルドは、声も出ない状態のまま必死でミューを守る為に移動しようとするのだが、どう頑張っても足がうまく動かずに中々動けない。
もちろんこの戦闘を監視している【黄金】やミューの護衛になっているミランダも、ソルベルドが限界を超えてしまい戦闘不能になったのは嫌でも理解したので、我が身を顧みずに全力で各自が攻撃する。当然の様に連携が取れた攻撃になっている。
ミランダによる遠距離の<魔術>によって攻撃をしつつ視界を奪い、ドロデス、ジャレード、オウビの三人がレベルアップしている武器を使用して遠距離攻撃を行うとともに地面をえぐり、気配を掴めないようにしつつ更に視界を奪えるようにしながら徐々に近接している。
当然スロノも状況が良くないと分かっているのだが、こちらはこちらで各種能力を自らに付与した状態でもサルーンの動きを完全にとらえる事は出来ず、またその動きに対処しているのか時折姿が見えるラルドも負傷していない事からソルベルド側への加勢が出来ずにいる。
高レベルの能力を並行して使用するだけの力量や経験、そして魔力が無いスロノは、この状況を打破するためにどうするのが最善なのか必死で考えている中で、ラルドの声が聞こえる。
「サルーン、臆したか!」
その直後、ミューを守るために攻撃していた【黄金】四人が吹き飛んだかと思うとミューの前にサルーンが現れ、エルロンを容赦なく吹き飛ばす。
認識されてはいないが<槍術>SSを持つサルーンなので、年老いたと言ってもエルロン程度を吹き飛ばすのは容易だったのだが、残念ながら武器によって補強されている相手に致命傷を負わせるには至っていない。
「アンタ達、撤退だよ!」
あれだけの戦闘をしながら冷静に全ての状況を把握していたサルーンは、このままでは弟子は死亡するし【黄金】やミューも助からないと判断して撤退を即決した。
自らの対戦相手であるラルドが想像以上の強さを見せた事も、この冷静な判断を強力に後押ししている。
最早動けないソルベルドを強引に抱えたサルーンと、一撃を食らったと言っても差し当たり逃亡するのには影響のない【黄金】、そしてミューを即座に抱えたスロノが撤退を始める。
撤退の為に遠距離の刺突を繰り広げて大地を抉って見せたのは流石だが、ラルドも黙っているわけではなく・・・準備していた呪いの魔方陣を起動してサルーンに向けて発動する。
視界を奪ったつもりのサルーンだが、逆に自らの視界も奪われている事になる。