(166)ラルドの困惑②
エルロンの説明によれば、同時に復活させたミルロンを始末した後にその存在を吸収したと言っている。
道具を生み出したラルドですら知り得ない事象ではあるのだが、この期に及んでエルロンが嘘をつく意味も無ければ必要も無いので、そこは事実として受け入れる。
同時に復活の際に加えられる制限の命令権を失っていると言う事は、同じく制限になっている生存時間に関しても失っている、つまり完全に復活している可能性が高い事に思い至る。
とは言え今この場で調べる術も無ければ時間も無いので、一先ず今迄得ている情報から敵対せずに共闘する方向に誘導する事にしたラルド。
「お前の事情はある程度把握している。陰のソルベルド、【黄金】、その辺りに復讐をするのだろう?」
「あぁ。俺に残された時間が少ねーなら、その望みを叶えてーんだがな」
ラルド配下の男が苦し紛れに呟いていた寿命を延ばす術がある話しを信じていないので、短い生と受け入れつつもその間に復讐対象に攻撃したいと告げている。
「成程。可能であればそうするべきだろうが、間もなくこの場にソルベルドの師匠であった同じ<槍術>を持つサルーンと言う女が到着する。そいつを痛めつけてソルベルドに渡してやるのも一興ではないか?」
「はははは、良いぜ?お前は中々話が分かるじゃねーかよ?あのクソ雑魚の師匠・・・笑わせるぜ。だが、幾ら命が短いと言ってもある意味完全な丸腰だ。何か良い武器は持ってねーのか?」
もちろんエルロンが<棒術>を持っているわけではないと理解しているので、本来の作戦ではエルロンと共にミルロンに対しても有用な道具を準備していた以上、要望に応える事が出来るラルド。
魔道具の一つである収納箱からグローブを取り出すと、エルロンに投げる。
「こいつは・・・お前、相当な立場にいるのか技術があるのか、ただモンじゃねーな?」
もとより確実に死亡したはずの自分を復活させているのだから普通の人物ではないと理解できるのだが、渡されたグローブを手にした瞬間現役Sランカー時代に準備していた道具等足元にも及ばない品だと理解してしまう。
「使いこなせるかはお前次第だぞ、エルロン」
「はっ、言ってろ!!」
獰猛な笑みを浮かべてグローブを装着するエルロンを見て、一先ず自らの戦力にする事は成功したと内心安堵しているラルド。
その頃・・・ラルドに把握されている通りに大森林に移動しているサルーンだが、安全の為にサルーンを含め問題の有りそうな場所に関する情報収集をしていたスロノによってエルロンとミルロンが復活した際のあり得ない魔道具の魔力、その後のエルロンの殺気によってある程度情報を把握した為に【黄金】全員、更には何故かソルベルドとミューも合流していた。
残念ながら、スロノの調査も常に万全を期しているわけでは無い為に魔王陣の監視に向かう大森林で異常が起き始めている程度の認識なので、まさかその先に死亡しているはずの暴風エルロンとサルーンを恨んでいる鬼族のラルドが待ち構えているとは夢にも思っていない。
逆にラルド側としてもサルーンの追跡者は全滅しているので、今の正確な状況を理解できないまま敵が来るのを待ち構えている。
大森林を背にするような形で待機しているラルドとエルロンは、背後に嫌な雰囲気を感じてしまうのでラルドの配下に監視させている。
本来サルーンの対応の為に連れてきた面々だが、自らの道具でエルロンが強化されている以上は大して戦力になり得ない存在を対策に向けるのではなく、有効に活用するべく考えた結果だ。
「間もなく到着する様だが・・・随分と大所帯で来るようだな。ひょっとしたら、お前の復讐対象である【黄金】も来ているのかもしれないぞ?」
エルロンでさえ気配を掴んでいない距離の情報を難なく伝えたラルドだが、この場所に至るまでに随所に情報収集用の魔道具を設置していた為に、異常とも言える力を見せつける事が出来ていた。
「・・・そうかよ」
元ではあるがSランカーとしてのプライドが刺激されてしまい素直に提言を受け入れる事が出来なかったエルロンだが、敵の中に【黄金】が含まれているのであれば、一度死亡してしまった原因と思っている相手だけに容赦なく視界に入り次第攻撃しようと獰猛な笑みを浮かべる。
「間違いなく槍を持っている女がいる。そいつは元Sランカーのサルーンだ。お前が聞いた事があるのかは知らないが、そいつは俺の獲物だから手を出すな。代わりに他は譲ってやる」
「良いぜ。お前の言う通りにここにきているのが【黄金】であれば願ったり叶ったりだしな。骨の髄までこの俺、暴風エルロンの恐怖を刻み込んでやるぜ!」
道具頼りではなく実力でレベルSに至っている猛者なので、流石のラルドも内心では少々冷や汗をかきつつも高速で移動している多数の気配に視線を固定する。
「この気配・・・どうやらお前の情報は正しいようだな。間違いなく【黄金】、ついでにソルベルドも居やがるようだぜ?」
戦力的にはかなり不利になるのは間違いないが、どの道自らの命は長くないと思っているエルロンの闘志が衰える事はない。
もちろんこの時を待ち望んでいたラルドも同じであり、有象無象はエルロンに任せてサルーンの対応に集中し、劣勢になれば奥の手である能力剥奪や強制的に<補強>Eを付与する策も使えるので余裕がある。
「おいおい、何であのクソ野郎が生きているんだよ!だとすると、ミルロンも生きていやがるのか?」
最初に口を開いたのは、エルロンを視認した【黄金】のドロデスだ。




