(164)復活の時②
冷静になるように伝えてはいたのだが、素直に指示に従うとは思っていなかったので思わず問いかけるような反応をしてしまったラルドの配下の男だが、エルロンとミルロンも不思議そうな表情に変化したまま何が何だか分からない様子に見える。
「お前・・・俺達に何をしやがった?特別な力を持っているようには見えねーが、何で俺様がお前ごときの命令に従っちまったのか、納得できる説明をしてもらおうか?」
ラルドが伝えていた通りに命令に従う状態になっているのだが、そうは行っても恐怖の対象でもあるエルロンからこう言われては素直に知っている事実・・・つまり、特殊な手法で短時間ながらも復活し、自分達の指示に反する事が出来ない状態だと告げる。
「あぁ?だったら俺達はテメーらの命令を聞くためだけに復活させられたのかよ?ふざけるなよ?」
「ま、待ってください。恐らくギルドマスターは延命の手法を知っていると思います。お二人の能力を使って依頼を達成できれば、そのまま以前と変わらぬ生活を送れる可能性があります!」
命令を聞かせる事が出来る立場なのだが、強烈な圧に負けて確証の無い事まで伝えてしまう。
「兄貴、コイツの言う事も一理あるんじゃねーか?ここでジタバタしようがこいつを始末しようが、良い結果にはつながらねーよ」
「そうだな。コイツの親玉が来るのを待つのが正解なのは分かるがよ?」
何とか一難去ったので、再び同じ状況陥りたくないと思った男はエルロンとミルロンから少し距離を置く事にした。
「で、では、自分は彼方でギルドマスターが来るまで待機していますので、あまり遠くに行かないでくださいね」
少しでも早くこの場から離れたい気持ちがあるので、待ち人がギルドマスターと伝えた挙句に返事を聞く前にさっさと歩き出してしまう。
残された二人は再びやる事が無くなったので、延命できることを大前提として復讐に対する話が始まる。
対象は【黄金】になっているのだが、エルロンが大森林に侵入するきっかけになった誤情報についてスクエから聞いた話をミルロンが説明したので、復讐対象に王国シャハの王族が加えられる。
「ふざけやがって!俺様をコケにするなんざ許される事じゃねーぞ?おい、お前も共に来い!」
エルロンは何の気なしに流れで弟のミルロンに対して共に復讐をするように話したのだが、全く予想だにしない答えが返ってくる。
「いや、俺は暫く様子を見るぜ?」
「おいおい・・・お前、どうした?折角復活したんだぜ?暴れる機会を得た以上はしっかりと復讐を行うのは当然の流れじゃねーのか?」
性格も瓜二つであり、暴れる事に嫌悪感を一切抱かずに容赦なく叩き潰す事が出来る存在だと認識していたのだが、突然怖気づいたように見えなくも無いので少々怪訝になる。
例え兄弟と言え互いに殺気を飛ばす状況が過去にもあった事から、今回もエルロンとしては本気でないながらもある程度の殺気が漏れてしまう。
過去であれば互いにレベルSの能力を持っているので影響はないのだが、今のミルロンは多少体を鍛えているだけのただの人である為に、エルロンの殺気を受けて震えが来てしまう。
この現象が自らはなった殺気が原因である事位は直に理解できてしまうエルロンなので、何故このような状況になっているのか不思議になっている。
「お前・・・何があった?」
エルロンが殺気を抑えて弟のミルロンに事情を問いかけると、表面上は平静を装っているのだが冷静になり切れていないミルロンは後先考えずに真実を継げてしまう。
「実はよ?あの森に入って兄貴を探す前に【黄金】のクソ野郎に埋められかけたんだが、そこから逃亡する為に敢えて森に入ったんだ。その時の極限の状態に置かれた影響か大森林による影響かは分からねーが、能力が使えなくなったんだ。あんとき支配した蜘蛛は、特殊な道具を使って一時的に支配下に置いただけにすぎねー」
―バキィ―
攻撃の音が突然鳴り響き、エルロンによって吹き飛ばされたミルロンがラルド配下の男の傍まで“きりもみ状態”で吹き飛ぶ。
「テメー、あの時に蜘蛛を始末したのもそのせいかよ?能力を使えなくなっているとその場で言ってりゃー未来は違っていたんだよ!ふざけるんじゃねーぞ?」
異なる未来とは、勿論エルロンがミルロンを見捨ててさっさと森から抜ける事を指しているのだが、激高しているエルロンの言葉はミルロンには届かない。
怒りの感情のままある程度の力で攻撃してしまったからであり、多少の強さはありつつも普通の人にその攻撃を受けきれるわけがないので、残念ながらその一撃だけでミルロンは二度目の人生を僅かな時間で終えていた。
と同時に・・・復活の魔道具を作成したラルドですら想定しなかった事象が起こり、同じ遺伝子を持つ存在をその手で殺めた影響か、あろう事かミルロンの姿が再び煙になるとエルロンに吸収される。
「ははははは、良いぜ?何が起きたかは知らねーが、不思議と少し前まで感じていた支配される感覚が消えやがった!テメーも俺に命令なんぞしやがって、覚悟はできているだろうな?」
「ま、待ってください。落ち着いて!」
聞かされていない事象・・・そもそもラルドすら知らないので教える事は出来ないのだが、まさかエルロンが支配から抜けて完全に復活したとは理解できない男は必死で冷静になるように命令するのだが、元より苛烈な性格のエルロンが支配から抜け出た以上はそのような懇願とも言える命令に従う訳も無く、ラルドがこの場に来た頃には配下の男の亡骸が無残にも転がっているだけだった。