(161)二の手三の手
当時の事を鮮明に思い出し、攻撃が全く見えずに装備していた錬金術で作成した道具を全て駆使してやっとの事で逃走できた現実を鑑み、相当入念な準備が必要だと改めて思っているラルド。
「サルーンが相手になるのであれば、この魔方陣だけでは足りないだろうな。となれば、折角大森林に触手を伸ばしたんだ。確かあの場所で・・・エルロンとミルロンが犠牲になったのではなかったか?」
戦闘系ではないながらも別格の力になっている<錬金>Sなので、その能力によって生み出された道具を使えば相当な事象を起こせる。
サルーンが老いているとは言っても別格の存在を相手にする以上は、保険に保険をかける必要があるのは今迄の闇ギルド運営の中で得た経験からも必須であると考えているので、通常では使わないような道具も迷う事無く使う事を決意する。
「誰かいるか?」
「はっ!」
ラルドの声に反応した一人がこの部屋に入ると、徐に二つの瓶を渡される。
「コレは?」
「短い時間だが。直近でくたばった連中をくたばる直前の状態に復活させるシロモンだ。そいつらが動けるのは一日程度だが、しっかりと命令には従うようになっている。今回のミュラーラからの依頼、コイツを使わなくては完璧に達成する事は難しいだろう」
聞いた事も無い様な効果があると教えられて驚いてはいるのだが、依頼遂行の為に敵の戦力であるサルーンに対処するべく複数の部隊が向かい、今の所全滅していると知っているこの場の男は納得する。
「承知しました。やはり敵にしっかりと対応するには、こちらもそれなりの力が必要と言う事ですね?」
「その通りだ。で、忌々しいサルーンに対応するには相当の力を持っている連中が必要だ。直近でくたばった高ランカーと言えば、エルロンとミルロン。知っているだろう?一人は元Sランカーの暴風エルロンだ」
「はい。確か大森林に侵入して戻れなかったと聞いていますが・・・自分は彼等がどの位置で死亡したのかまでは把握していないのですが、大丈夫でしょうか?」
「何も死亡した場所でその道具を使わなくてはならない制約はない。ないが・・・正確な発動を行うにはなるべく死亡した場所に近い方が良いのは自明の理。故に、大森林近辺で発動すれば良いだろう」
呼ばれた男は自らが大森林近傍に向かう羽目になったのを悟ったのだが、ここで少しでも拒否すれば命が無い事を知っている為に、大森林に侵入とは言われていない所に光明を見出して素直に命令に従う。
だが、一つだけ疑問が残るので、仮にこの道具を使用して目的の人物が復活しなかった場合、自らが責任を問われかねないと思い問いかける。
「一つ宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「これを大森林近辺で発動したとします。復活する存在を指定しない限り、有象無象がこの道具の影響を受けて復活する事は有りませんか?」
「あぁ、それならば問題ない。その液体の中にはエルロンとミルロンの髪の毛を溶かし込んでおいた。どこで発動しようがその二人を呼び寄せるようにはできている。だが、重ねて言うが術の発動を正確なものにする為、なるべく大森林の近くで使う事を忘れるな」
「承知しました。では、復活期間は一日程度との事で、私は大森林近辺で待機しておきます。必要な時が来ましたらご連絡ください」
中継は必要になるが、<錬金>Sの力を余す事無く使用して遠距離でも通信できる道具を作成済みなので、その一つを手に取り渡された瓶二つを大切に抱えて部屋から出て行く配下の男。
「これで保険は一つ。もう一つ程度は準備する必要があるだろうな。どうするか・・・」
自らが製作した道具の山をガサゴソと漁っているラルドは、高い能力を駆使しながらも意図せず偶然一つだけ出来た巻物を手にしてニヤリと笑う。
「能力を消滅させるのも一興だが、場合によってはコイツも使えるな」
実はこの巻物、とある能力を強制的に付与する品であり・・・ラルド自身に鑑定の能力はないながらも偶然ではあるが自らの能力で作成した代物なので詳細は把握できており、とある能力を強制的に付与するあり得ない代物。
能力の付与など敵に塩を送ると言える行為だが、その能力が極めて制御が難しい・・・正直制御できない代物である為に当人が望まない状態、自爆とも言える能力行使となってしまうのであれば話は別だ。
その能力の名は、<補強>E。
かつてミランダが所持しており、その能力のおかげで本来の<魔術>の威力は激増したが、全く制御できずにいたおかげで能力自体が使えなくなっていた。
「コイツがどのような結果をもたらすのか、直接検証できる良い機会でもあるな。この巻物を再現できないのが悔しい所だが、サルーンに付与すれば・・・元の能力の威力を考慮すれば面白い事になるだろう」
そもそもの能力レベルが異常に高いサルーンなので、補強された上に暴走されては相当安全対策をしないと広範囲に被害が及び自らも巻き込まれかねないと思い至ったので、再び道具の山を漁りだして防御系統の品を探している。
遠隔地でサルーンが被害を受けるのを待つ方法もあるのだが、その恨み・・・頬の傷の恨みもあるのか直接自分の目で確認したい思いが強く、多少の怪我は許容して現地に赴くつもりのラルド。
想定している威力の暴走を完全に防ぐことができる道具を持ち合わせていないので、複数の防御に使用できる道具を選択すると、懐にしまい込んだ。
「待っていろ・・・無様な様を見てやる。今度はお前が逃げる番だ、サルーン!」