(17)スロノの過去⑧
命の危険に晒される羽目になった元凶とも言える三人の冒険者を、言われるままに教えたスロノ。
「あいつ等か。確か偉そうに自分の能力を大声でしゃべる様なバカだったな。それに装備も能力そのままの装備しかしていねーから、能力がバレバレの大馬鹿野郎。元から長生きは出来ねーと思ったが、まさか他人に迷惑をかけるとはよ!」
三人の冒険者はスロノだけではなく第三者にも自らの能力を大々的に、そして何故かレベルDなのに自慢げに公表していたらしく相当有名になっているようだ。
偽りの情報を伝えて混乱させると言う事も無くはないが、装備も相応の装備しか持っていない為に単純にバカなのだろうと言う認識をされているようで、あの素行からも明らかな通りに評判も良くない。
「うっし、わかったぜ。お前はあっちで休んどけ」
入り口から見ると受付とは真逆にある休憩所、食事や飲み物を楽しめる場所に行くように伝えてきた冒険者と共にホールに入り、直ぐに指示通りに移動するスロノ。
状況的にはスロノが死亡したと報告しているようで、大声でやり取りをしている為に話の内容はスロノ本人にも聞こえている。
「だから言っているじゃねーかよ!あの場には事前に聞いていた数じゃなくてランウルフが三体もいやがったんだよ。俺達は二体と聞いて準備していたが、突然背後から残りの一体に襲われたんだ。コレはギルドに責任があるんじゃねーのかよ?」
「そうですね。誰がどう見てもギルドの情報に齟齬があったので、当然今回の回復に必要な費用もギルドが補填するだけではなく怪我や依頼未達成に対する補償も出すべき案件ですね」
<魔術>Dの男だけは未だに回復薬を飲んでいる最中なので大人しいが、<剣術>Dと<盾術>Dの二人は受付に食ってかかっている。
「で、ですが、依頼中は周囲にどのような危険があるのかわかりませんから、冒険者の基礎として警戒を怠らないのは当然ではないですか?それに、スロノさんが何故戻っていないのですか?」
「あ?いくら言っても分からねー奴だな。俺達はお前の情報を基に行動した結果、その情報に齟齬があって大怪我を負ったんだ。当然漁り野郎の事にかまう余裕なんかねーよ。お前のせいであの漁り野郎は生きたままランウルフに食われたんだよ。今頃あの世でお前の事を相当恨んでいるんじゃねーか?お前の甘い見込み、中途半端な情報のせいで死んじまったんだからなぁ」
「本当にその通りですね。その内現場を案内しますから、せいぜい来世に幸あらんことを祈ると良いですよ」
「そんな・・・」
あの状況であれば万に一つもスロノは助かっていないと思っているので言いたい放題の冒険者と、自分の判断でスロノが死んだと言われて激しく落ち込む受付。
「おう、腰抜け。お前、ランウルフ三体程度で動揺しやがったのか?確か、俺が前に聞いた話じゃレベルBの能力を得るのは簡単だの、偉そうな事をさんざん喚いていたじゃねーか?随分と実力が伴わねーなぁ?あぁ?」
落ち込む受付を庇うかのように乱入した、見た目からも屈強な冒険者のパーティー。
攻撃的に口を開いたのはスロノを背負って森から出てくれた上最後まで話していた男であり、普段背負っている斧をしっかりと装備した状態で受付に乱入した為にその姿を見たスロノの近くにいる冒険者達が噂を始める。
「おい、あいつ・・・<斧術>B、いやAを持っているんじゃなかったか?」
「一応帯剣しているが、どう見ても斧が主戦力なのは目撃情報からも明らかだな。レベルなんてあのクラスになれば絶対に明らかにしないが、納品されている結果からみれば最低でもBなのは間違いないな」
ギルドでこの男を含むパーティーは相当な有名人のようでスロノは周囲の声を聞いてその実力に驚くのだが、確かにどう見ても相当な実力者の集まりである事は雰囲気からもわかるので納得できる内容だ。
「お、お前には関係ないだろうが。突然割り込みやがって、何を言いやがる」
「そうですね。随分と・・・高いレベルの能力を持っているようですが、失礼じゃないですか?」
<剣術>Dと<盾術>Dを持つ二人の冒険者は突然の状況に少々怯えつつも自らの行いに対して証明する手立てはなにも無いと確信しているので、仮に相手がレベルBの能力を持っているとしてもここはギルドである事も含めて絶対に安全だと思っているので引く事は無い。
「ガハハハハハ!そう来やがるかよ。んじゃ、質問。いや、確認だな。お前等はギルドから聞いていた情報と齟齬があった為に、無様にランウルフ三体程度から逃げ出した。その際に運搬依頼を受けていたスロノを助ける余裕がなく、尻尾を撒いて逃げた。間違いねーな?」
<剣術>Dを持つ男は相当コケにされていると思い“こめかみ”がピクピクしており、絶対に敵わないまでもギルドの中で手を出しそうになっているので慌てて<盾術>Dを持つ男が割って入る形で回答する。
自分達の安全を確保できている条件である原則冒険者同士の争いは禁止、特にギルド内部での戦闘は冒険者資格剥奪まで有り得る重罪だと言う事を<剣術>Dの男が自ら破りそうになっていたのを止めたのだ。
「随分と酷い物言いですね。真実は眼前の二体に全神経を集中していた所に背後から全く警戒する事が出来ない残り一体に急襲されて<魔術>を持つ仲間が重傷を負い、結果、俺達もランウルフの攻撃をいなすので必死な状況に陥りながらも何とか突破口を見つけて脱出したのですよ。そんな状況で運搬係など助けられるわけがないでしょう?」
仲間の能力を公言し、更には背後に全く注意していませんでしたと言う情けない事を自信満々に言っているのだが、コレが正当な言い訳になっていると信じて疑っていない。
「よっしゃ、理解したぜ。んじゃぁ、テメー等は資格剥奪だな。受付のねーちゃん。処理を始めてくれるか?おい、冒険者のカードを出せ!」
キョトンとしてしまう受付と、突然とんでもない事を言われてこちらも呆けてしまうレベルDの冒険者三人だ。