(158)何事にも限界はある
スロノの希望としては保護対象や味方全てに魔獣を付けておきたいのだが、やはり常に魔力を消費する以上は自分の安全のためにも余力を残しておく必要がある。
いくらギルド支給のリューリュ達が装備している品と同じブレスレットをしていようが、使う術が別格のレベルである為に限界はある。
「できました!」
そんな事を思いつつ作業を進めていたのだが、思った以上に正確に描写する事が出来たので自分には絵の才能があるのかもしれないと余計な事を思いつつ、作業完了を宣言する。
「随分と・・・禍々しいじゃねーかよ?事前に魔方陣が無効になる印を書いておいて良かったな?ひょっとしたら、いきなり俺達が吸われちまったかもしれねーぞ?」
描写後の魔方陣は元より記入されているバツ印によって成立しない状態ではあるが、それでも禍々しい雰囲気を醸し出しているので、あながちドロデスが言っている事は間違いではないだろう。
正直相当疲労を感じているスロノはこの時点でこの場の魔獣を開放しており、それによって若干疲労感が和らいだことを把握する。
「やっぱり、今の俺じゃぁ少し厳しいか」
この作戦の肝はサルーンなので、継続して魔獣を張り付かせており・・・たった二体を支配下に置いて作業しただけで疲労が明確に出てしまい、現時点での上限を思い知る。
実はこの魔獣は戦闘力以外では別格なのは言うまでも無く、恐らくミルロンの全盛期でも一体だけを支配下に置くのが限界だっただろうが、基準など知る訳も無いので少しだけ残念な気持ちになっているスロノ。
ついでに、あのままギルド本部から遠隔で作業をしては恐らく魔力の消費が大きくなり、途中であまりの疲労から支配下にし続ける事が出来ずに中途半端な情報収集になっていたと思い、結果的にはこの場に来られて良かったと感じていた。
「そんじゃぁ、急いで戻ってシュライバに見せようぜ?」
ドロデスは大森林の入り口からは距離はあるとは言ってもこの場にはいたくない気持ちが露骨に出ており、他の面々も同じ考えなのかすぐさまギルド本部にとんぼ返りになる。
スロノの疲労を把握しているので帰りはさり気なく若干移動速度を落としており、どの道サルーンと再び合流する約束は一週間後だったので、丁度良く到着できるように調整しつつ移動している。
得られた情報・・・魔方陣のあまりの禍々しさから安全の為に宿に泊まる事などできず、全て野営になってしまったのだが、見張りを含めて雑務をスロノ以外で担当し、恐縮しているスロノをかなり強引に休ませていた。
自分が安定供給できる以上の魔力を行使した故の疲労だったのだが、原因となる魔獣の支配を解除しているので今は完全に疲労感も無くなり問題なく移動しているスロノ。
「本当にすみませんでした。思った以上に・・・俺は魔力が効率良く使えないのか、内包している総量が小さいのか、このブレスレットがあっても結構限界値が低いみたいです」
とんだ勘違いではあるのだが、聞かされている方としては何が何だか分からないので不思議そうな顔をしつつ、ありきたりな慰めの言葉を告げるだけ。
「大丈夫よ。どう考えても私よりも強い魔術を平然と使えるのだから、レベルSの実力は間違いないわよ!」
そうこうしている内に再び約束の日に間に合うようにギルド本部に到着すると、そこにはシュライバと共にサルーンが待ち構えていた。
少し前に経験した疲労感をあまり味わいたくないと思っていたスロノなので、サルーンを追跡していた魔獣の支配は継続しているが情報収集は最低限にしており、ギルド本部に移動を始めたと把握した後に情報を遮断していたので、これほど早く到着しているとは思っていなかった。
「待たせたか?こいつが今回正確に描写した魔方陣だ。もちろん無効にするためにこのバツ印は事前に記入している。そこを除いて何なのかを検討してくれ」
ドロデスはスロノが描写した紙を広げると、シュライバとサルーンも魔方陣から得体のしれない雰囲気を感じ取ったのか眉をひそめている。
「コレは相当だな。調査してくるのでここで待っていてくれ」
シュライバが嫌そうに紙を持ち出して退室したので、ミランダが代表してサルーンの安否を尋ねる。
「サルーンさん。そちらは大丈夫でしたか?」
「まだまだ若いのには負けるつもりはないねぇ。だけど、引き付ける必要があるから一気に全てを始末できないのはストレスだねぇ」
余計な心配だったようで、見た目通りにピンピンしており無傷である事が確認できた為に、ドロデスが追跡者について念を押す。
「だがよ?ここに来る前に追跡を振り切るか、始末するのかしたんだろう?」
「それはそうだろうよ。アタシがここに来る事が知られては、ギルド本部も標的にされかねないからねぇ」
こちらもあっさりとしたもので、全く苦労せずに対処できたことが理解できるので、これがSランカーの師匠なのかと誰しもが感じていた。
「待たせたな」
そこから一般的な話に移行して暫くすると、シュライバが相当緊張した面持ちで再度部屋に入って来た。
「シュライバ・・・相当ヤベーんだな?」
「そうだな。俺も正直戸惑っている。鑑定だけではレベルが不足しているので正確な情報を掴めなかった為、過去の膨大な資料で補完した結果になるが、コイツは生命力を溜めた後に発動する呪いで間違いない。その呪いは、生命力を餌に能力を消滅させるヤバいシロモンだ」
普通得られた能力を失うような事象はあり得ないので、全員が驚愕している。




