(157)ギルド本部へ③
呪いの発動媒体を見つけたまでは良かったが、結局何をするにも情報不足で対策が全く打てない状況に陥っている。
魔方陣らしき模様のある紙を移動してもダメ、燃やしてもダメ・・・となると、現実的にできる対策としては、生命力を与えない様にその場に張り付いて近接してくる魔獣や獣を常に排除する外ない。
「敵も相当考えているな。だからリスクを冒してまで大森林に設置したのだろう」
思わず称賛するかのような言葉がシュライバから出てしまう程であり、大森林で常に監視するなど自殺行為以外の何物でもないので実行する事は不可能だ。
スロノはスロノで自らが収納している能力の中に<浄化>があるのかを確認しているのだが、今の所レベルBの能力があるのでこれで十分なのか不安になりつつ、最悪はこの能力に賭けるしかないと思っている。
今からでも<浄化>の能力を収納すべく動く事もアリなのだが、割と周囲には推測の域で把握されつつも能力について明確に公にしているわけではない上に、狙った能力を集めるのにも相当時間が必要になる事からすぐに動く事はなかった。
「シュライバ。Sランカー認定時には無条件で適切な武具を提供しているよな?そんで、一般向けにも必要な素材を納品できれば武具の強化を随時受け付けている。そこから、不穏な連中が装備を補強した情報を得られねーのか?」
Sランカーだけは登録時に適切な武具、例えばリューリュであれば魔力を補助するブレスレットや、ソルベルドであれば漆黒の槍が無償で提供されるのだが、それは一度だけで追加の武具が必要であれば素材と共にギルドに作成依頼を行う必要がある。
一般の冒険者もこの行為は公に認められているので、過去ソルベルドが【黄金】に謝罪の意味で提供した高純度の魔石の様な品を提出の上で補強を依頼した人物がいれば相当戦力の底上げになるので、そこから怪しい人物を特定ないか聞いているドロデス。
「実は既にその線での調査は終えているが、特段異常な依頼は見られなかった。敢えて言えば【黄金】三人の補強に使った魔石が異常に純度が高かったくらいだな」
「う・・・アレはソルベルドがくれたんだよ。なぁ?俺達は無実だぜ?」
「その通りや。【黄金】は無実やで?」
シュライバも【黄金】を疑っているわけではなく、事実を伝えているだけなので特段これ以上何かを言う事も無い。
「ちょっと、話が変な方向に言っているわよ。今は模様?魔方陣の可能性が高いと思うけれど、その対処をどうするかでしょう?」
ミランダがこれほど緊迫した場面でも話がズレ始めるので修正しつつも、ドロデスやソルベルドが鈍感なのか肝が据わっているのか分からなくなっている。
一応ミランダの掛け声で再びこの件に対する対策、原因調査についての話題に戻るのだが、いくら別格の存在が揃っていようが知識も情報も不足しているので妙案が出てくることはなかった。
「ホナ、ワイは今迄通りにミューはんを守るで。ええな?」
「そうですね。俺達【黄金】は正直何をすればよいのか思い浮かびませんので、シュライバさんやサルーンさんの指示に従います」
「それは助かるねぇ。でも、アタシと共に行動する場合には敵の目を引き付ける役割もあるから、常に狙われる事を覚悟しなくちゃならないよ。逆に言えば、アタシが注目されている間は自由に動ける可能性が高いねぇ」
「成程。じゃあここはサルーンには申し訳ないがある意味囮になってもらい、以降の情報収集は【黄金】に頼もう。大丈夫か?」
「大丈夫です・・・よね?」
間違いなく大森林に侵入しなくてはならないので少し腰が引けてしまっているミランダと、同じく渋い顔をしながらもそれしか方法が無いのであればと同意しているスロノを含む【黄金】の男性陣四人。
その後は敢えて大森林の前でサルーンが姿を現して監視要員をひきつけ、追跡者多数と共にその場から去って行く。
残されている【黄金】は、ギルド本部に身を隠しているミューと護衛であり夫であるソルベルドの為にも恐怖を克服しなくてはならないと気合を入れるのだが・・・
「そういやぁ~よ?スロノ!お前、こっから中を確認できるよな?サルーンの情報を遠隔で仕入れていたくらいだからよ?楽勝だろ?」
森に入りたくない一心で必死に・・・かつてない程に頭を働かせたドロデスが、少し前に<操作>の能力を使用して遠隔地の情報を得ていたスロノの力を思い出す。
敢えてその内容について具体的に聞くわけではなく、多少距離が離れたこの位置から内部の情報を掴めれば一先ず任務は達成なので、実行可能か否かだけを聞いている・・・と言うより、できる前提で話している。
「そうですね。できますね。俺も自分で忘れていましたよ!すぐに準備しますから、何か書く物をお願いします!」
彼等の具体的な任務としては、森の中の魔方陣周辺に存在している存在の確認と魔方陣の正確な模様の確認なので、更に森から距離を取りつつ<操作>Sの支配下にあるサルーンを追跡しているのと同じ魔獣を森に侵入させる。
非常に小型故に戦闘力はないながらも防御力、移動速度、情報収集能力に長けており、<槍術>SSを持つサルーンにもその存在を気取られない程の実力を持っている。
「周囲の魔獣は特段あの魔方陣を意識していない様ですね。浅い位置にあるからか、ある程度の大きさの魔獣は存在自体が稀で、前回はサルーンさんが侵入したので集まってしまったようです。これならば、生命力を集めるのに相当な時間が必要になるのかもしれませんね」
希望的観測ではあるのだが、そんな事を伝えながらスラスラと魔方陣を描写しているスロノ。
もちろん怪しい魔方陣なので書き写したモノが万が一にも起動しない様に、元より紙には大きなバツ印が複数書かれており、魔方陣としてはその上に正確に描写したとしても成立しないので起動もしない。




