(156)ギルド本部へ②
ギルド本部に到着し、記憶に留めておいた模様を書き記してギルド本部総代シュライバに内容を説明していたサルーンだが、その後再び調査に向かおうとした所で止められていた。
何でもこれから【黄金】やソルベルド達が来るのでそれまで待機しろとの事だったのだが、サルーンは何故今自分が本部にいる事を知られているのか多少不思議に思いつつも、得体のしれない何等かが蠢いている以上は自分の口から改めて危険性を説く必要があるだろうとその指示に従った。
待つ事数時間、【黄金】と共に弟子でもある現役Sランカーの陰のソルベルドが入室すると突然大森林に侵入した事を咎められ、この本部にいる事もそうだが、直前の行動すら把握されている事に対して流石に反応してしまう。
「バカ弟子。お前はストーカーかい?なんでアタシの一挙手一投足を知っているんだい?まさか・・・アンタ、アタシも狙っているんじゃないだろうねぇ。若くて可愛い妻だけじゃ満足できないのかい?」
「こ・・・このババァ!人の心配を何だと思っとるんや!ふざけるのも大概にせぇよ?萎びたババァを付け狙うメリットが無いわ!」
ソルベルドが本当に変わった事が嬉しくどうしても少しふざけたやり取りになってしまうのだが、今の短い会話だけで何故自分の挙動を把握しているのかについては絶対に口を開かないだろうと理解していたサルーン。
余計な事はここまでにして、最早隠す必要も無いと今の自分が知り得ている状況を余す事無く説明する事にした。
「丁度良いねぇ。もう隠す必要も無いからしっかりと説明しようかねぇ」
謎の存在がパーミット筆頭公爵、ミューも含めて狙っており、対処を始めたサルーンに攻撃が集中している事。そして大森林にその集団の一部が侵入し、推測ではあるが相当高い確率で模様に飲まれた事を説明する。
「アンタはあまり驚かないねぇ。誰かから事情を聞いていたのかい?」
「はい。サミット陛下から事情をある程度お聞きしていました。私の、私達の為に危険な橋を渡って頂いている事、申し訳なく思っています」
王宮にて事情を聞いていたミューなので、サルーンから厳しい現実を突きつけられてもあまり態度に変化はなかった。
「そうかい。慌てふためくでもなくそれだけ落ち着けるのだから、何かあった時には生存率が上がるねぇ。最悪はバカ弟子を盾にすれば良いから、気楽に行くと良いねぇ」
「・・・ババァ。ワイは言われず共ミューはんの槍であり盾や!」
ソルベルド夫妻とサルーンが騒ぎ出したのだが、当事者である為にこれから話す情報をしっかりと共有する必要があるとシュライバが敢えて手を叩いて場を〆る。
「ちょっと良いか?ミミちゃんに模様を調べてもらった所、コレは呪いの発動に必要な品だと判明した」
「呪い・・・何の呪いなんや?相手は何や?仮に発動したら、リリエルはんに頼めば対処できるんか?」
今までの経緯からパーミット筆頭公爵およびミューが対象である可能性が極めて高いので、ソルベルドが即座に反応してしまう。
「落ち着け、ソルベルド。今のところ発動条件を満たしていないようだが、残念ながら呪いはリリエルの<回復>では防げない。除去するには別途<浄化>の能力者が必要になる。お前も知っているだろう?」
Sランカーであれば知っていて当然の知識故に、ソルベルドが相当慌てているのが分かる。
「発動条件は、十分な生命力かねぇ?」
サルーンは命を吸い取っていた現場を直接目撃しているので、簡単に条件を推測する事が出来る。
「サルーンの言う通りだ。発動に必要な量、今どれだけ溜まっているのか、呪いの具体的な内容、それらについてはこの模様だけでは把握する事は出来ないらしい」
ギルド本部で得られる情報としては、サルーンが模様の一部を教えただけではここまでが限界だ。
「ホ、ホナ・・・その模様の紙、燃やしてもうたらええんちゃうん?リューリュはんにお願いすれば直やろ?リューリュはんなら森に入らず共可能やと思うで?」
「ソルベルドの気持ちは痛いほどわかるが、それはやめておいた方が良いだろう。呪いの種類によっては発動媒体を損傷させる事で強制的に条件を満たしてしまう場合があるからな。そうなると、発動が特殊故に解除できる可能性も極端に減少する」
流石は知識豊富なギルド本部の総代だけあって、ソルベルドの希望は儚く打ち砕かれてしまう。
「じゃあよ?<浄化>を持つ者を探すしかねーのか?シュライバは当てがあるのかよ?」
落ち込むソルベルドに代わり、ドロデスが続く。
「呪いのレベルによるが、大森林に設置するような集団が簡単に解除できる呪いを使うとは思えない。そう考えると、相当なレベルを持つ人物が必要になる。残念ながらSランカーとは違って一般的に能力は開示されないからな。本部でも把握は出来ない」
暫く沈黙が続いてしまうのだが、スロノが何かを思いついたようだ。
「えっと、皆さんは呪いが発動する前提で話をしていますよね?呪いの発動には生命力が必要と言う事であの大森林に設置されていた事を考えると、生命力を与えない環境にすれば良いのではないですか?」
奇しくもサルーンが模様を認知した際に口にしていた隔離に関して提言しているスロノ。
場合によっては自らが持つ<鑑定>を使って具体的な呪いについて把握し、安全が確保できれば隔離の為に収納しても良いと考えている。
「スロノ。名案ではあるが、設置場所からの移動も呪いの発動のトリガーになり得るぞ?」