(149)宴④
この場の誰よりも気配に関して敏感な<隠密>Sを持っているネラとスクエ。
スクエはもとよりこの食事会に参加しているのだが、ソルベルドが行動を起こした瞬間に守るべき主であるコロネラの近くに瞬時に移動して警戒しているネラ。
ネラもこの場にいたのだが影として、護衛として任務に徹していたので気配を消したままだったのだが、この事態になって急遽コロネラ王妃の護衛を行う為、周囲の味方からの攻撃を被弾しない様に敢えて姿を現している。
<隠密>の能力者が不利な点の一つだが、味方もその姿を認識できずに仲間からの攻撃を被弾してしまう可能性があり、この場にいるのは相当な実力者である事から被弾しては致命傷になりかねないと姿を見せている。
机の上の色とりどりのデザートを薙ぎ払ったソルベルドの行動について問いかけているネラに対し、ソルベルドはミューを守れる位置に移動しながら口を開く。
ミューも種族独自の力もあって全てから守らなくてはならない存在ではないのだが、この場の面々と比較すると圧倒的に力不足である上、ソルベルドにとってはこれ以上ない程、この場の国王と比較しても守らなくてはならない存在だ。
「このデザート、一つの色を食べる分には問題あらへんが、複数の色を食べると毒になるんや。ワイは行商人として各国を渡り歩いている時に似た様な匂いを嗅いだことがあるんやが、何も知らんと仲良く食べるとポックリあの世行きやで?」
「だけどよ?回復術やら回復薬やらで何とかならねーのか?ここは王宮だぜ?」
少々ピントのズレた質問と思われてしまう事を聞いているドロデスなのだが、王宮でこのような事が起っているので、今後の事・・・つまりは自分達がいない時に同様な事が起きても対処できるのかを聞いている。
「無理・・・やろな。回復系統の力を受けた段階で毒が増殖する組み合わせもあるんや。リリエルはんなら何とか都度調整して時間をかけて解毒できるんやろが、普通じゃ出来へんで。見てみぃや。これだけの色・・・どれだけの組み合わせが出来ると思うんや?」
組み合わせによって各種毒の効果が異なるようで、都度毒の種類に応じた適切な処理をしない限り回復自体が毒になると言っているソルベルド。
「そんなブツがあるのかよ・・・だがよ?それだけのブツなら入手経路も把握し易いんじゃねーのか?」
この食卓に至るまでの流通経路の調査はし易いので犯人特定も容易なのではと思っているのだが、これもソルベルドに否定される。
「アカンやろな。ドロデスはんの言いたい事も良く分かるんやが、濃度、組み合わせでは滋養強壮になる品でもあるんやで。つまり、一般的に売られている場所を渡り歩いて仕入れられては、何も怪しい部分は無いんや」
現実的に一部の素材はテョレ町でも普通に販売している品なのだが、この一部をどう組み合わせても毒にはならないので全く規制されてもいないし、管理もされていない。
「正直余の知識にもそこまではないので、試しても良いだろうか?」
「かまへんで」
流石にここまで具体的な説明をされている以上偽りではないと理解しつつも、実証の上で確定したいと思っているサミット国王。
騎士に命じて水槽と魚を準備させ、ソルベルドの指示通りに異なる色のデザートを複数水槽に投入した。
個別に魚がおいしそうにデザートを食べていたのだが、三種類目のデザートを口にした瞬間体表に傷が無数にできて出血し、透明の水槽は真っ赤になりあっという間に事切れた。
「ワイが知っとる組み合わせの中で、エグイと思った内の一つや。これで外傷を癒そうと回復術をかけたとたん、外傷は治るが内蔵がイカれるんや。エグイやろ?」
「陛下。直ぐに調査を行います」
「コロネラ様。私の方でも調査を開始いたします!」
犯人が未だ王宮にいる可能性が高く、時間が経過すると逃亡の恐れがある事も考慮してネラとスクエがすぐにそれぞれの主に許可を取って動き始める。
この場に残された面々は、驚きこそすれ結構な修羅場を潜って来た存在なので恐れる事は無く、慎重且つ冷静に現状を分析している。
「コレは誰を狙ったんやろな。国王と王妃・・・ワイ等二人、【黄金】の何れかやが、全員の可能性もあるで?」
「そうですよね。例の一件ではほぼ全員が当事者になっていますし、エルロンやミルロン絡みの逆恨みの可能性もありますからね。ミランダさんはどう思いますか?」
「確かにスロノ君の言う通りよね。でも、今のままでは対象が誰なのか絞るのは正直難しいわね」
「ソルベルド。お前・・・所かまわず惚気まくったせいで、余計な恨みを買ったんじゃねーのかよ?」
冗談に聞こえなくもないが、実はドロデスは真剣に問いかけている。
「相当抑えとるんやけどな。この程度で恨む様な小さな存在やったら、相手にもならんわ。もちろんミューはんは絶対にワイが守ったるで?」
「ふふ、ありがとうございます。信頼していますよ、ソルベルド様」
こんな状況でも・・・と【黄金】一行は思っているのだが、こうなると余計な事はしない方が吉なのでパーティーメンバーと国王夫妻だけで推理を進めるほかないと意識を切り替える。
「実際よぉ、ソルベルドが居なけりゃ俺はあのデザート、全種類一気に食っていたぜ?」
「確かに俺も相当食べていたと思います。今迄出ていた食事の量もデザートを食べるだけの余力を残す配分でしたからね」
「そこは普通の流れよね?でも、だからと言って前菜やメインディッシュの料理人を容疑者から外すわけには行かないわね。普通に考えればデザートを作った人が怪しいけれど」
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