(15)スロノの過去⑥
スロノの過去〇は今日の投稿で終わります
初撃で一体間引く予定だったのだが難なく避けられた上に自分達の存在を気取られ、全く優位性が無くなり攻撃されそうになっている三人の冒険者。
この後想定されるのは混戦、近接戦であり、その状況で対応できるのは<盾術>Dと<剣術>Dだけで、初めて身の危険を感じて極限状態に陥った<魔術>Dを持つ男は成す術がない。
<盾術>Dを持つ男は盾を使って攻撃する事も可能なのだがやはり成りたてレベルDだけあって防御も甘ければ攻撃も甘く、<魔術>Dを持つ男と同じく浮足立っている事もあり同じレベル帯のランウルフに翻弄されている。
唯一近接に特化した能力を発揮して互角に渡り合っている<剣術>Dの男だけはこのままではまずい事位は嫌でもわかっているのだが、どうやっても打開策が見出せずに焦っている。
ランウルフの攻撃をいなし、足元に気をつけながら軽く移動して時折仲間と協力して隙を生み出せればと思っているのだが、中々その状況に持って行く事が出来ずに焦りは増すばかり。
「ぐわ~!!」
この叫び声は近接されるとめっぽう弱い<魔術>Dを持つ男の悲鳴であり、杖を持っている右腕をランウルフに噛みつかれて何とか引き剥がそうとのたうち回っているが、しっかりと食い込んだ牙が簡単に外れる訳も無く仲間の冒険者が助けられる状況でもない為にあえなく杖を落とし、最悪の状況に陥る。
―――ガン―――キャン!―――
冒険者の誰しもがもうダメだと思ったのだが、そこに一筋の光が突如として降り注ぐ。
あまりにも情けない冒険者達なのだが、それ故に助けてやらなくてはならないと思ってしまったスロノが<魔術>Dを持つ男に噛みついて興奮し周囲に意識が向けられていないランウルフに対して少々重い石を思い切りぶつけたのだ。
結果、<魔術>Dを持つ男は噛みつかれていた右腕がどうなるのかは今後の対処に委ねられるのだが、一先ず命の危険だけは回避する事が出来た。
この状況は冒険者側とランウルフ側の両者に動揺を与え、夫々が全く別の行動をとり始める。
「おい、スロノ!少し時間を稼げ!」
唯一拮抗していた<剣術>Dを持つ男が動揺して攻撃が止み距離を取ったランウルフを放置して重傷を負った<魔術>Dの男に一気に近接すると、散々バカにしていたスロノに対して有り得ない事を命令している。
動揺からこのような事を言っているのだろうと感じたスロノは特に反論する事は無いが肯定する事などできる訳も無く、一応解体用の短剣を手に持って警戒しつつも自らもその身を曝け出して警戒の対象になってしまっている、寧ろランウルフ一体を仕留めてしまった以上最も攻撃対象になっている事は認識しつつも、この場を切り抜けるための指示を聞き逃さないようにしている。
ランウルフも想定外に仲間を失った事で動揺しているのか未だに攻撃する事は無く慎重に視線を向けており、スロノとしてはこのまま去ってくれないかと思いつつも<盾術>Dを持つ男もこちらに無事に来られた事に安堵した。
「ちっ、相当傷が深いな。早く町に戻って治療しないと」
「わかっていますよ。今後の活動にも支障をきたしますね」
<盾術>Dと<剣術>Dを持つ男が<魔術>Dを持つ男を見て背後で話しているのを聞きつつ、今後の作戦も指示されるのだろうと慎重に正面にいるランウルフの二体を見ているスロノ。
「え?」
突然視界が揺らぎ立っていられなくなり、膝から崩れ落ちて膝が曲がる形で背中から地面に倒れると周囲の木と共に空が見える。
「おい、漁り!お前は良くやったぜ。俺達パーティーの遠距離攻撃を失う事無く、その後も引き受けてくれるんだからな。最後に感謝だけはしてやるよ!」
「では、あの二体のランウルフの事、しっかりと頼みましたよ」
何を言っているのかと思ったのだが、間違いなく自分を囮にするために背後から何らかの攻撃をしてきたのだと即座に理解して怒りを爆発させようとするスロノは、異常状態に陥っているようで緩やかにしか動けない自分の状態に気が付く。
「こいつは俺の奥の手だぜ」
<剣術>Dを持つ男が懐に隠していたのか今まで持っていなかった小太刀を見せると、その先には何やら薬剤が塗布されていた。
「本当はランウルフに突き刺して麻痺させてやろうと思ったけどよ?あいつ等思った以上に動きが早くてよ。こんな短い刃じゃ俺に危険があるから使い所がなかったんだがな・・・思わぬ効果があったようで何よりだぜ。ま、安心しろ。お前には本当に軽く刺しただけで、命の危険はねーよ。完全に麻痺させると獲物と認識されねーと困るからな。この後あいつ等にどうされるかは、まっ、頑張ってくれや」
間もなく死亡するスロノの最後の手向けとして何故このような状況に陥ったのかを軽く説明した後、既に意識のない<魔術>Dの男を抱えるようにして慎重にこの場から去って行く三人の冒険者。
残されたスロノの横にはスロノが仕留めたランウルフが一体と、少々離れた位置に未だに何も傷を負っていない二体のランウルフが仲間の恨みと言わんばかりの唸り声をあげているのが聞こえる状態で存在している。
「畜生!こんな場所で終わりなのかよ!」
スロノの叫びは麻痺のせいか非常に弱弱しく、二体のランウルフにしか聞こえていない。
状況が変わる訳も無く、倒れているスロノの視界にも無事な二体のランウルフが入って来た。
スロノが何やら異常な状態に陥っているようだとは認識しているようで、警戒しつつも攻撃する為に近接してきている為だ。
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