(135)ミルロンの処遇へ①
最後の頼みの綱であり最強のカードでもある兄エルロンの助けが来ないばかりか、侵入すれば命はないと言われている大森林に向かって帰還していないと言われて心が折れたミルロン。
呆けた表情のまま檻の中で動きが止まり、その後リューリュ、リリエル、スクエが何を言っても反応する事が無かったので三人は地上に戻って来ている。
「スクエちゃん!随分と立派になったわぁ。しっかりとあのクズに言いたい事を言える。本当に立派よ!」
「あ、ありがとうございます、リューリュ殿」
「私も同じように感じました。生まれ変わった貴方には明るい未来しかありませんよ。ところで、ミルロンの件が終わった後についてどうするのか決めたのですか?」
「リリエル殿もありがとうございます。私は、大恩人の下で働こうかと思っています。ですから、今後は王国シャハが拠点となります!」
スクエとして生まれ変われたのは、偶然ではあるが王国バルド周辺で警戒していたサミット国王の妻、王妃の護衛であるネラのおかげであり、名付け親でもあるネラの力になりたいと心底思い希望をサミット国王に伝えていた。
サミットとしてもネラからスクエは信頼に足る人材になっているとお墨付きをもらっている事や、直接的な責任はないが少し前に宣言した通りに罪滅ぼしの意味もあって申し出を受けた。
その結果、立場上公にはならないながらも国家の為に、恩人の為に動けると喜びに溢れている優秀な人材が王国シャハに加わる事になり、意図したわけではないが<隠密>Sを二人も抱える部隊が誕生する。
立場が激変して良い気分のスクエとは異なり、同じく立場が激変して最悪の状況にいるミルロン。
食料を渡す際のあからさまな嫌がらせにも反応せず、何も口にしない状態で過ごしているので相当弱っている。
「面倒クセーな。罪を償う前にイカレちまったんじゃ意味がねーだろうが!リリエル、何とかならねーのかよ?」
未だ王国バルドにいる【黄金】やスロノ、リューリュ、リリエルなので、今日も城下町の大きな食堂で昼食を食べつつミルロンの扱いについて話している。
因みにこの頃になると、流石に国を長期間離れる訳には行かないサミット国王は護衛、つまりスクエを含めて王国バルドを出国済みだ。
「怪我や病気は対応できますが、体力回復、そしてソルベルドさんの様に少々頭のネジが飛んでしまった状態も修復する事はできませんね」
どのようなレベルの術であろうが万能ではないので今のミルロンを癒す事は不可能だと明言するリリエルに対し、ソルベルドを引き合いにした例えに無条件で納得してしまったこの場の面々。
同時刻にソルベルドは激しいくしゃみをして良からぬ事を言われていると思ったのだが、直にミューが心配してくれた事でその思いは霧散している。
ミルロンに関しては、回復能力を持つ存在の頂点が明言している以上は能力によって何らかの対応をする選択肢はなくなり、どうするのか悩み始める。
罰は野生動物が闊歩する場所に首から上だけを出して埋める事に決定していたのだが、今執行しても罪の意識すら持てずに死亡する未来しかないので、最低でもミルロンの意識を現実世界に戻す必要がある。
「あれだけ偉そうな態度だったがよ?エルロンが大森林に向かったと聞いただけであのザマかよ!」
案は出ないが愚痴は出るので、あまりにも心が弱かったミルロンに対して文句を言っているドロデス。
「でも、本当にこのままだと罰としては成立しないわよ?ショック療法で私が少し焼いてみようか?」
やはり高ランカーは少々頭のネジが飛んでいるのか、リューリュが平然と苛烈な事を言い、ドロデスも反論しないしリリエルまで追随する。
「それもアリか?できる事はしておいた方が良いのは、冒険者の鉄則だな」
「それでもだめならば、そのまま罰を執行するほかありませんよね?場所は決めているのであれば、その場所でリューリュさんが焼いてみるのが良いと思います」
普通とは違うルートで高ランカーに成ったスロノや、同じくスロノの陰ながらの補助があって高ランカーになったミランダはこの流れに乗れず、寡黙なジャレードとオウビは何時もの通り黙っている。
確かにこれ以上体力を失っては正気を取り戻しても罰として成立しない可能性が高いので、あれよあれよと言う間に必要な作業が決まり即実行される。
「じゃあよ、幸せにな!また来るぜ」
「ホンマおおきに!いつでも遊びに来たってや!!いや、ワイ等の方が新婚旅行ですぐにそっちに顔を出すさかい、その時は宜しゅうな!」
バルド国王、ハルナ王女、ミュー、ソルベルドがミルロンを引き連れた【黄金】達を見送っており、一向は目的地である大森林方面に向かう。
「じゃあ私達はここでお別れね。本当に大丈夫?」
暫く移動するとリリエルとリューリュは進む方向が異なるのだが、二人にとっても大森林は危険な場所だと分かっているので、同行しなくても良いのか改めて確認している。
「大丈夫だ。森に入る訳じゃねーからな。それに、焼くのはミランダでもできるからよ。リューリュと比べると精度は劣るが、失敗しようが問題ね~しな」
明確にドロデスが同行せず共問題ないと告げ、確かに森に入らないのであれば大きな問題はないだろうとリューリュとリリエルは別れて行く。
「うっし、んじゃぁ俺達も急ぐぜ?」




