(133)立場の悪化④
手加減をしたと言ってもドロデスに吹き飛ばされているミルロンは大きなダメージを受けており国王達の来訪や言葉を聞ける状態に無いのだが、女子会をしつつも状況を把握できる実力者がここにいるので、リリエルによってある程度回復されている。
「スクエよ。その方が過去に行った所業については確かに責が無いとは言えん。だが、過酷な環境で必死に生き抜き、弱き心を付けこまれてしまった部分は十分以上に酌量の余地がある。余の力が不足している故、種族差別などが起きている環境が無くならなかった事は間違いなく余の責である」
スロノは結婚式で初めて自国の国王をその目にしていたのだが、噂とは異なって懐が深く非常に有能な国王だと認識していた。
その感想通りにスクエを過剰に庇う事はしないながらも、しっかりと立ち直れるように言葉をかけている。
「余は王国バルドの国王である。そこなミルロンと言う不敬な者が嫌悪する獣人ではあるが、心はサミット殿と共に在る。余も力不足でありスクエを今迄救えなかった事、ここに謝罪する」
更に獣人国家バルドの国王までもが追撃し、何が何だか分からないままに涙が流れているスクエ。
当人はこの国周辺の警戒任務を行っているネラ一行と行動を共にしていただけのつもりだったのだが、気が付けばこの場に連れて来られていたので、状況が完全に理解できないながらも良い方向に向かっていると肌で感じ、国主二人に温かく迎えられた事で蟠りが涙と共に流れ出る。
「つまり余達が伝えたいのは・・・スクエの罪は余達の罪と相殺されたと言う事だ。今後その方の身の振り方は、余とバルド殿から幾つかの選択肢を与えよう」
溢れる涙が止められず、本来はこの場でミルロンに対する罰を明確に告げなくてはならないと理解しつつも口が開けないスクエ。
「我が愛しき同朋よ、罪に関してはサミット殿の宣言通りに既に無くなっておる。こ奴の罪に関しては、今後の事も鑑みて余の方で対処しても良いが?」
バルド国王が助け舟を出しており、ここで言う今後の事にはミルロンの兄であるエルロンからの報復も含まれているのだが敢えて口には出さない。
いつの間にかスクエの近くに来ているリリエルとリューリュに優しく撫でられ、少しだけ落ち着いたのかしっかりと視線をバルド国王に向けるスクエ。
「陛下。申し訳ありませんがよろしくお願いします。私は、今この時より過去を捨てました。未来だけを見て歩いて行きたいと思います!」
その後はリリエルとリューリュの配慮もあって女子会に強制参加させられている上、断罪の宣言も聞こえない様に調整されているので、成人に至っていないと思われる年齢相応の笑顔を見せていた。
残されているのは顔面凶器でもある【黄金】の男性三人とSランカースロノ、そして二国の国王と断罪される側のミルロンだが、勿論ネラを始めとした護衛は気配を消して待機している。
「う~い、このクソ野郎の処理を任されたとの事で、俺から素晴らしい提案があるぜ?」
「ちょ、ちょっとドロデスさん!陛下の御前ですよ?どうせ何時もの通りに埋めようとか言い出すんでしょ?」
早くも三度目の調整が入ったので疲労困憊のスロノだが、ドロデスは相手が国王だろうが皇帝だろうが態度が変わる訳も無い。
「おっ、流石はスロノだぜ。良く分かっているじゃねーかよ!だがな・・・恐らく勘違いしている部分があると見た。実は埋めると一口に言っても、それは無限の方法がある訳よ。埋める土質の状態、埋める対象の姿勢、まぁ数えきれね~選択肢がある素晴らしい手法なわけだ。深けぇ~だろ?」
スロノは止めようとしたのだが何故か共感されていると認識したようで、勝手に持論を展開し始めるドロデスなのだが、元より凶悪な顔である事から嫌でも内容を理解できてしまい更に恐怖が増しているミルロンは血の気が引く。
今尚発動しない能力に一縷の望みをかけて必死に行動しているのだが、当然何も変化が無く恐怖の時間を過ごす事になっている。
結構な時間“埋める”と言う行為に対するドロデスの持論が展開され、やがて王国シャハのサミット国王が未だ止まらないドロデスの熱い説明を止めて結論を出す。
「・・・で、地上ギリギリまで埋めちまうのが最も長く反省する時間を与えられるわけよ。最終的には土に還って養分になれる。素晴らしいと」
「ちょっと良いだろうか?」
勢いが増し続けている為に誰もが止めるタイミングを見計らっていたので、先陣を切ったサミット国王に希望の視線が集中した。
「余としては、先ずは結論を決めておきたい。手法については執行までの短い期間で決めれば良いだろう。で、ここまで話せば余の意見は全て言うまでも無く理解してもらえると思うが、今までの悪事を鑑みれば・・・ドロデス殿が言う所の養分になって貰うほかないだろうな」
「うっし!流石は国王だぜ。準備は俺の方で入念にやっておくからよ?」
どれだけ埋めたがりなのか・・・と、誰しもが思っているのだが、折角この場が丸く収まりかかっているので、ミルロンの罰に関して異論がない以上は誰も文句を言わない。
ただ一人、罰を受ける事が確定してしまったミルロンを除いて・・・
「ふ、ふざけるな!証拠はあるのか?俺が騒動を起こした証拠だ!!それに、俺に手をかけてみやがれ!兄貴が、暴風エルロンが黙っちゃいねーぞ?」
ドロデスが“のっしのっし”とミルロンに近接するので、これで四度目の仲裁が必要かもしれないと少々頭痛がしているのだが、対処を任されたのか機嫌が良くなっていたのでスロノの心配は該当しなかった。
「がはははは、威勢の良い肥料じゃねーかよ?テメーの最大の被害者がここにいるのを忘れたわけじゃねーだろうな?二国の国主が執行を認めているんだぜ?で、次はなんだったか・・・テメーのクソ兄貴?問題ね~よ。いつでも来やがれ!」