(132)立場の悪化③
能力が発動した感触が無いので少々焦り始めているミルロンだが、目の前のソルベルド、横に寄り添っているミュー、【黄金】、スロノ、スクエの話は止まらない。
「えっと、ソルベルドさん?本当に何もこの人に伝えなかったのかしら?ドロデスさん達でもできる事なのにSランカーが出来ないなんて、子供のお使いじゃないのは分かりますよねぇ?」
何故かミランダの言葉を受けて焦っているソルベルドと言う茶番を見させられて、漸く我に返るミルロン。
「お前等、突然何もしちゃいねー俺に何をしやがる!あぁ?確かに兄貴はSランカーを除名されたが、俺が何をした!」
能力が発動しないのは、今更だがどう考えてもソルベルドによって装着された腕輪だと理解したので冤罪の線で解放を目指しているミルロン。
直後に背後から強烈な熱波が襲い掛かり、悶絶して死を覚悟した直後に一気に熱が霧散する。
「あ~あ、やっぱり式には間に合わなかったのね。残念だったわ。ねぇ、リリちゃん!」
「そうですね。ソルベルドさんの新たな門出・・・無駄に緊張する姿を拝めなかったのは一生の不覚です」
「リリエルさん、リューリュさん!ブレスレット、ありがとうございます!!」
移動中に色々と情報を得ていた魔道リューリュと聖母リリエルがこの場に到着しており、二人は本来ソルベルドとミューの式に参列する予定だったのが、エルロンの為に裏から手を回してSランカー達の行動を抑制していたミルロンのせいで間に合わなかったのも知っている。
腹いせとばかりに緻密に制御されている<魔術>でお仕置きをしたリューリュと、二人の来訪に嬉しそうに駆け寄って話しかけているミランダ。
「お、おい!お前等・・・揃いも揃ってSランカーが無実の民に攻撃するのかよ?あぁ?恥を知れ!!」
制御されていた炎の為に攻撃中は死ぬほどの恐怖と苦痛がやってきたのだが、術を解いた瞬間にある程度のダメージはリリエルが瞬時に癒していたので魔力以外は復活しているミルロン。
「この野郎、うるせーな!スクエ・・・面倒だからコイツは埋めちまおうぜ?なっ?その方が世のため人の為。こんな粗悪品でも肥料にはなるぜ?」
ドロデスが早くもミルロンの態度に切れ始めており、その態度を見て相変わらず“埋めたがり”だと思いつつも止めに入るスロノ。
本来この役割を担うミランダは既にリューリュとリリエル、そしていつの間にか移動しているミューとハルナの五人で仲良く女子会が開催されているので、ある程度調整できるのは自分しかいないとの思いがあり行動している。
当然【黄金】の残りの二人は寡黙であり、ソルベルドはミューの周囲を構ってほしそうにうろちょろしているので全く期待できない。
「ドロデスさん、ちょっと待ってください。対応はスクエさんに一任するって約束だったじゃないですか?なんでそんなに埋めたがるんですか?」
「んぁ?いや、特に埋めるのが趣味ってわけじゃねーがよ?毒にしかならねー存在も豊かな土壌の一部に成れるんだぜ?良い考えじゃねーか?」
まるで自然に配慮していますと言わんばかりのセリフだが、ドロデスが本当にここまで考えるような人物ではない事を知っているスロノは、苦笑いで流している。
「はいはい。じゃあスクエさん。この王国バルドの国王陛下からも了解を得ていますし、ハルナ王女も許可を出していますから。思うままにしてください!」
一気に話が進んだので何とか危機を回避する為に会話を継続し、逃亡、逃走の機会を掴もうと口を開くミルロン。
「ま、待て!だから何度も言っているだろうが!俺が何をした!!そもそも、そのスクエなんて奴、俺は見た事も聞いた事もねーよ。相手を間違えているんじゃねーのか?」
黙ってミルロンの行動を至近距離で観察していたスクエは、軽く喉に手を当てると今迄とは全く異なった野太い声を出す。
「ミルロン。俺はお前からの依頼を幾度となく成功させてきた」
再び喉を触ると今後は易しい女性の声になるのだが、スクエ本人の素の声ではない。
「貴方が私に対して不条理な報酬を提示していた事は知っていました。今更ですが、最後の時に私の信念を否定した事だけは許せません」
「お、おまえ・・・エックスか?獣人だったのか!このクソがぁ!!」
ここまでされて漸く目の前の女性がエックスであると認識したエルロンは、彼女が格下、奴隷として扱うべきと思っている獣人種である事を理解してこれ以上ない程に怒り狂っている。
「あぁ、だから何だ?この野郎!」
怒っていようが戦力としては普通の少々鍛えている人なので、あえなくドロデスの怒りの鉄拳によって吹き飛び悶絶する。
「ちょ、ちょっとドロデスさん!勝手に手を出しちゃだめじゃないですか!スクエさんが対応する約束ですよ!わかります?や・く・そ・く ですよ!思い出しましたか?」
再度スロノが仲介しているのだが、この短時間で二度目なので早くも疲労の色が見えている一方、スクエは冷静だ。
「ミルロンは私が表の舞台に立てないと知って、そこを巧みに刺激してSランカーに対する恨みを増長させて私をこき使った。その上過去の依頼の内容は国家騒動規模の依頼ばかり。私も罪を償うけれど、ミルロンも同等以上の罪を償うべき」
そこに、結婚式の招待を受けて参列して暫くこの国に留まっていた存在、【黄金】やスロノが拠点としている王国シャハのサミット国王がバルド国王と共にこの場に現れる。




