(128)エックスの動向②
王国バルドの様子がわかる位置にまで到着しているエックスだが、相当賑やかになっているので肌に合わないと入国、いや、侵入はしていない。
直接王国バルド内の噂を聞き取る事も出来るので、確実にソルベルドが生存している事は理解しつつも、ソルベルドの実力も理解している上に謎の復活を遂げている事から、安易に近接して良い相手ではないと自らを律している。
少しの油断が命に直結すると身をもって知っているからであり、能力を活用して夜も更けた頃に侵入すると決めて一旦距離をとる。
巨木の上に難なく移動すると、飛翔種の視線から認識されないように多数の葉が生い茂っている場所を探して木の上を流れるように移動する。
「む?」
過剰に王国バルドから離れない場所で探していたのだが、多少朧気ながらも第三者の存在を感知する。
<隠密>Sの力を使っても朧気にしか気配を掴めないと言う事は、相手も気配を消せる何らかの能力を使っている上、そのレベルも最低でもAはあると見て良いので、移動を止めて能力発動に全ての意識を持っていく。
掴んでいる気配も通常の動きではなく明らかにエックスを認識して警戒している動きであり、気配の掴み辛さに差はありながらも、複数人が遠巻きにエックスを中心に囲うように移動が完了してしまった事を悟る。
「相当な練度だな。どうするか・・・間違いなくこちらの居場所は明らかになっているし、能力を行使し続けても存在を認識されている以上、戦闘は避けられないだろうな」
エックスを囲うように動いているのはネラの部隊であり、エルロンに対する情報を伝えてからは暫く様子見で王国バルド周辺に待機し警戒していた所、これ以上ない程に同類の気配を感じ取り、ネラの指示によって対処すべく一瞬で包囲して見せた。
徐々に包囲網が狭まっているのを感じているエックスだが、能力的にも巨木に簡単に登れるだけの力はあるが、他の戦闘系統の能力と比較すると直接的な戦闘で敵を粉砕するような戦いが出来る訳も無く、音も無く静かに・・・と行きたいが相手も同じ種類の能力者であった場合にはその手は使えない。
それもほぼ同格の能力を持つ複数を相手にするのであればどう考えても勝ち目はなく、数々の修羅場を潜ってきた経験からか、退路も無く積んでしまったと早々に悟る。
明らかに獣や魔獣からの監視にも警戒して動いているので、どう考えても普通の能力者の範疇を超えているからだ。
「無駄に抵抗すると苦しむだけか。何とも儚い人生だったな・・・結構な努力をしていたのだが報われる事は無く、思い出と言えばミルロンにこき使われただけ。やるせないが仕方がない」
敗北は確実である以上は無駄に抵抗せずにせめて一思いにと言う気持ちがあるので、能力を解除して一般人でも認識できる状態のまま巨木の上で佇んでいる。
その瞳は多少遠くに見える騒がしく賑やかな王国バルドに向けられており、自分では経験する事の出来なかった表の立場として、煌びやかな場所で周囲を警戒する事なく楽しく過ごしてみたかったと思いながらその時を待っている。
全く能力を使っていないので<隠密>を使いながら包囲しているネラの部隊の気配を掴めるわけも無く、やがてその時がやってくる。
今のエックスは佇まいが普通の人ではなく、更に見かけはフードと外套で身を固めているので旅人と言うには無理がある。
そもそも巨木の上に佇んでいる旅人が存在するわけがないので、元より練度が高い包囲側としては全く警戒度合いを緩める訳も無く姿を現す。
「何故そこにいる?周囲に罠を仕掛けている様子も無ければ破壊に繋がる行動も見受けられない。ソルベルド殿とミュー殿の婚姻に異を唱える存在か?」
ネラの主であるサミット国王と王妃が祝福している二人なので障害になる存在であれば排除一択なのだが、何も関係のない第三者であれば手をかけてしまった場合には逆に国王から問題視される事を知っているので、慎重に行動する。
この状況であれば間違いなくネラ側に相当な足枷が付いていると言えるのだが、とある事情で王妃に加えてサミット国王にも忠誠を誓っているので不利有利は一切関係なく、只管主の為に行動している。
問われたエックスとしても、この短時間で周辺の罠まで確認済みである以上は今更取り繕っても仕方がないと、本音を晒す。
その言動が自らの命に直結すると知りつつも、どうあっても助からないので最後位は本音で話して旅立ちたいと思っていた。
「俺は、少し前にミルロンと言う男からの依頼を受けてソルベルドを襲った。確実に仕留めたつもりだったが、何故生存している上に幸せそうな生活が出来ているのか・・・確認しに来ただけだ」
状況を確認できればソルベルドやミュー達に危害を加えるつもりも無く、そもそも今回の襲撃も表の存在を懲らしめられると言う思いはあるが、ミルロンの依頼を遂行するために起こしただけに過ぎない。
同じ影のような存在であるネラもこの説明だけである程度の事情は把握しつつも、だからと言って内容は非常に厳しい内容であった為に無罪放免とは出来なかったが、多少警戒は緩んでいつもの口調に戻る。
「貴方からは同じ匂いがしますね。もう少し事情をお伺いする必要はありますが、抵抗しなければこちらから攻撃する事は有りません。どうしますか?」
選択肢などあろうはずもないエックスは敵意が無い事を示す為に、装備していたあらゆる武器を地上に投げ捨てた。
「結構です」
敢えて外套やフードに関しては装備したままで良いと伝えるネラは、その後配下の者と共に王国バルドから離れた開けた場所にエックスを引き連れて移動する。
「では、少々込み入った所までお話を聞かせて頂きますね。ソルベルド殿に対する攻撃の件は理解しましたが、ミルロンからの依頼との事でした。先ずはそこからお願いします」




