(127)エックスの動向①
少し時は戻り、スロノがテョレ町を出た直後・・・ミューの為に大々的に結婚に関して公表し、実は幸せな姿を見せつけたいと言う可愛らしい野望があるソルベルドによって、折角誤情報が敵に知れ渡っていたのだが即座に修正の情報が一部で出回る。
危険排除の観点からは間違った行動なのだが、だからと言ってミューの幸せな姿、美しい花嫁姿を見せつけたいソルベルドは止まらないし、ミューも正直危険性は理解しつつもソルベルドと共にバージンロードを歩きたいと言う気持ちが抑えきれていない。
ハルナ王女を含め国王バルドもソルベルドの意思を尊重した上で、全力で助力すると明言しているので、国家を上げての騒動になりつつある。
当然ソルベルドを始末したと報告を受けて王国バルドでの調査を全く行っていなかったミルロンや、正に当事者であるエックスの耳にもその情報が入っている。
「おい、エックス。お前・・・ソルベルドの件はしくじったのか、偽りの情報を俺に報告したのか、どっちだ?」
ミルロンの執務室にいるのは相変らず正体不明のエックスであり、正直当人も困惑しているのだが、表情が見えない以上エルロンには分からない。
「実際にこの手で攻撃し、毒を付与した短剣を根元までしっかりと押し込んだのを確認した上、感触からもそうなっていた事は間違いない。更に、毒が完全に作用して間もなく死亡するほかない所まで・・・弱った所まで待機してこの目で確認している」
今日は男性の様な語り口ではあるがミルロンにとってそこはどうでも良く、信頼できると思っていたエックスから言い訳が発せられた事に呆れていた。
「待機しようがいまいが、お前は俺に依頼達成報告時にソルベルドが死亡したと伝えた。そして現実は・・・お前も聞いているだろうが!お花畑満開のソルベルドの素行をなぁ!」
ミューにベタ惚れだが、ミューもソルベルドにベタ惚れであり、相思相愛の中で盛大に結婚式を行うと宣言しているのだから、異国の事とは言えこの二人にその情報が届いていないわけがない。
「正直、何故生きているのか分からないが・・・依頼と言う面では失敗したと認めざるを得ない。コレは着手金だ」
素直にミスを認めて依頼受注時受け取った金銭を返却するエックスだが、ミルロンとしてはそれだけでは収まらない。
兄であるエルロンの為に行動し、結果が出たと報告している以上はそれに沿った動きをしているはずで、今後の行動に何らかの障害が出る可能性が高い。
「エックス。お前、それだけで済むと思っているのか?あぁ?誤情報を掴む羽目になった俺に何も被害が無いはずがね~だろうが!」
普通の人なら失神しそうなほどの勢いで詰め寄っているミルロンだが、実力者であるエックスは微動だにせず普通に対応しているように見える。
「そうか。言わんとしている事は分かる。俺も未だにソルベルドが生きている事が信じ・・・いや、これも言い訳だな。これでどうだ?」
暗に何らかの補償をしろと言われているのは理解しているので、依頼時に受け取った貨幣と同額を机の上に置くエックス。
「まぁ、本音を言えば足りねーがよ?今日はここで手打ちにしておいてやるぜ。で、どうするよ?これから王国バルドに行ってその目で確認するのか?」
現金なもので、今の所は兄のエルロンから特段何かを依頼してくるような連絡が無いので今回の誤情報による被害はないだろうと思いつつ、修正情報の伝達を手配しながらエックスの動向を確認する。
「そうだな。確かに何故生存しているのか、生存できたのかは今後のために知っておいた方が良いだろうな。打てる手も増える事に繋がり、生存確率が上がる」
「はっ、仕事熱心なこって!表を見返すのも勝手にすれば良いがよ?それで視野が狭くなっているんじゃねーのか?まぁ、せいぜい頑張ると良いぜ。あばよ!」
表面上は円満解決に至っているのだが、ミルロンとは異なりエックスの心中は穏やかではない。
相当危険な依頼を正直見合わない金額で請け負った事が多々あり、裏で活動している以上はやむを得ない部分だと思いつつ今迄黙っていた。
そこに加えて、今回自分でも理解できない事象によって結果的に依頼を遂行できなかった所、行動の原点になっている部分まで否定されてしまいミルロンに対する信頼関係は全くなくなっている。
行動の原点とは・・・表の存在、つまりギルドに登録している、登録出来ているSランカーを見返してやりたいと言う部分であり、そこを絡めて否定的な事を言われたのでどうしても消化できなかった。
エックスはここに至るまでに相当な悪事にも手を染めており、冒険者の禁忌に間違いなく触れる行動もしていたので、正式に登録を行いSランカーとして名を挙げる事は不可能だと理解していた。
スロノの様に能力を判定して登録できると言っても、素行についてはある程度調査が入るのだから・・・
逆恨みと言えばその通りなのだが、これ以上ない程手を汚しているエックスにしてみれば生きるために行っていた事であり、逆に正道を歩んでいるギルド登録Sランカーに恨みが募るばかり。
そこにミルロンと言う同類の存在を認識し、同じ境遇だと思い多少不利な条件でも目を瞑って仕事をしていたのだが、完全に裏切られた気持ちでいる。
「ミルロンとはこれで終わり。場合によっては兄のエルロンも敵に回すかもしれないわけだが・・・何とかなるだろう。最悪は貯蓄もあるから素顔に戻って一般人として生活をする方法もアリだしな。しかし、何故ソルベルドが生きているのか、今はその部分の情報を集めるのが先決だな」
こうしてエックスは能力である<隠密>Sを使い存在を消して、ソルベルドがいる王国バルドに向かった。
エックスが到着する前にスロノ達は到着しており、国内はこれ以上ない程ミューとソルベルドの結婚式で沸き立ち、お祭り騒ぎになっていた。




