(123)移動の決心と
ソルベルドとの会話で、敵はエルロン以外にも存在して相当な強さを持っていると認識したスロノ達は、提言通りに再び王国バルドに向かう事を決意する。
「そうと決まれば、なるべく早くに移動した方が良いんじゃねーのか?何時エルロンや隠密野郎が襲ってくるかわからねーからな」
自分達が動ける以上はエルロンも動けるようになっているのは間違いないので、それならば少しでも早く戦力は一カ所に集中しておくべきだと伝えているドロデス。
「そうですね。皆さんを巻き込んでしまうのは申し訳ないですが、道中にエルロンが一人で襲い掛かって来ても俺一人では間違いなく対処できませんから、申し訳ないですが宜しくお願いします!」
「何を言っているのよ、スロノ君!私達は一蓮托生よ!でも、敵はエルロンと隠密だけだと思わない方が良いわよ。その油断が命取りになるんだから!!」
映像をあれ以上見ては胸焼けが酷くなりそうだったので、王国バルドに再度全員で向かうと決定した直後にギルドマスターの執務室に戻っているスロノ達。
決定即行動できるのも高ランカーの資質の一つであり、少しでも情報漏洩を防ぐべくギルドマスターのシャールだけに挨拶すると即ギルドを出、そのまま出国してしまう。
まるで暴走機関車の様な勢いではあるが、冒険者であればこのような事はまま起り得るのでシャールは特段何も思う事はないながらも、スロノ一行の安全を少しでも担保する為に自ら王国バルドのギルドに連絡する事はない。
あの通信はギルドの技術、冒険者に明らかにしていない武器の練成技術と共に最高の技術を組み合わせているので情報漏洩の可能性は低いのだが、部屋の周囲に関してはそのような設備は一切ない。
あの場では王国バルドにはSランカーのソルベルド、テョレ町側にも同じくSランカーのスロノがいるので通信以外の情報漏洩は低いと判断していだのが、ギルドマスター一人で通信処理を行った場合、第三者にスロノ一行の移動の情報が洩れるかもしれないと危惧していた結果だ。
こうなると目下問題になるのはリノであり、テョレ町のソルベルドの拠点の地下に閉じ込められているままになってしまうのだが、こちらも間もなくギルド側がその所在を突き止めて解放される事になるだろう。
あくまで開放であり、その後【飛燕】の残りの三人も含めて特別に面倒を見る訳ではない。
スロノ達が移動している頃エルロンはとある場所で傷を癒し、動きに異常が無いかを適当な獣やら魔獣やらを相手にして確かめている最中で、間もなく再戦と意気込んでいる。
「そろそろあいつ等も真面に動けるようになっているだろ。ヨボヨボになっている所を叩き潰しても面白くねーからな。本気を出している所を容赦なく叩き潰すのが最高だぜ!待っていろよ、スロノ・・・そして【黄金】!」
万全を期すための行動がスロノや【黄金】に余計な時間を与え、既に王国バルドに向かっていると分からずにゆっくりと再びテョレ町に向かうエルロンは、当然の様に正規の入国手続きなど取る訳も無く侵入して拠点に戻る。
「あ?」
外観上は何も変化が無いのだが、中に入ると明らかに荒らされた痕跡があり一瞬で眉間にしわが寄るエルロン。
一応気配を探っても何も感じないので特段武器を装備する事なく、状況を把握する為に地下から調査する事にした。
「この野郎・・・不要な存在だったが、だからと言ってこの俺から奪って良いかと言うと話は別だぜ?」
明らかに外部から破壊された檻が見え、正直今この場に着て思い出したのだが、本来いるべき存在がいない事に苛立ちを隠せないエルロン。
その後上の階を隈なく調査した結果どの階も荒らされてはいるのだが、そもそもこの拠点に何かを保管していたわけではないので失ったモノはリノだけだと判断した。
「チッ、思った以上に早くスロノがここを嗅ぎつけやがったか?」
全くの勘違いではあるが、そもそもスロノを相手にする際に挑発する意図もあって元パーティーメンバーであったリノをこの場に拉致してきたので、かなり高い確率でスロノがリノ奪還に関与していると思っている。
「丁度良い。俺から何かを奪うような不届きな奴には、相応の報いがある事をしっかりと教えてやるぜ!」
弟のミルロンには負傷した段階で暫く養生するので他のSランカーの動静に特化して調査を依頼していた為、再戦に向けて拠点を出て自らの力で相手の所在から調査を始めるエルロン。
とある酒場の入り口の横で座り込んでいる人物に対して、ぶっきらぼうに貨幣を投げてこう呟く。
「夜も冷えるからよ?そいつで一杯やったらどうだ?」
「・・・これじゃぁ、この店ではまともな酒は飲めない」
「そうかよ。じゃあ、水でも啜るんだな!」
最終的には突き放しているように見えるが、コレは裏の情報屋と接触するために必要な一連の流れであり、突き放されたはずの男は立ち上がると裏手に回る。
「今日はこっちかよ」
何度かこの情報屋を利用しているエルロンなので、毎度毎度異なる場所に連れていかれる事にイライラしつつも男の後ろをついて行く。
少し裏道に入ってクネクネ動いた後に、先導する男は壁に立てかけている板を移動させて出てきた扉を開いて中に入る。
「お待ちしておりました」
何度かこの情報屋を使っているエルロンを待っていたのは、情報屋と言う特性上来訪を事前に察知していたのか、廊下で怪しげな笑みを浮かべたフードを被っている男。




