(122)ソルベルドの思い
ミランダからエルロンおよびエルロン側の戦力について聞かれているソルベルドは、どう考えても今回負傷した相手に対する情報を求めている事は確認せず共理解しているので、隠す事も無く素直に話す。
「敵の戦力を過小評価せんのはええ事や。ええで!ワイの所に来た奴も状況を考えれば間違いなくエルロンの指示やろな。来たのは<隠密>を使う奴やが、性別、容姿、残念ながら全て分からん」
はっきり言って能力以外何も分からないと言っているのと同義だが、能力を断定しており、その能力が<隠密>である事を考慮すると確かに敵の情報を得るのは難しいだろう。
「ほんでな?ワイはそいつに毒の短剣で刺されてもうたんやが・・・ここからが重要な所や!」
Sランカーが明確に敗北してしまった部分の説明に入るので非常に緊張した面持ちになっている【黄金】やスロノ、そして当事者ではないが何故かこちらも緊張しているギルドマスターのシャール。
全員が無意識の内に“ごくり”と唾を飲み、ソルベルドの話を待っている。
「情けなくもハルナ王女とミューはんの目の前で“ぶっすり”と刺されてもうて、全く動けずに死を覚悟したんや。ほんで・・・改めてここからが重要やで?」
敢えて注目を集める様な語り口で中々本題に入らないのだが、誰も催促するような事は無く真剣な眼差しを映像に映るソルベルドに向けている。
「ワイは死を覚悟し、実際あのまんまでは死んでたんは間違いないやろが・・・タダでは転ばんのがこのソルベルドや!なんと!!ワイの女神が優しく快方してくれたんや!!グフフフフ、今思い出しても笑いが止まらんわ!ホンでな?お前等お子ちゃまには分からんかも知れんが、チューの味?わかるか?分からんやろな~。それはそれは素晴らしい味がするんやで?」
希望した相手の戦力を含む情報は一切なく何故か“のろけ”が始まってしまったので、テョレ町側の面々は互いを見て首を傾けている。
過去のソルベルドの行いやSランカーの一角である事を考えると相当微妙と思わなくも無いのだが。今尚映像のソルベルドは止まらない。
「ホンでな?何と何と!!ここで重大な発表や!ワイとミューはん・・・ぐふふふ、コホン。ええか?耳の穴かっぽじってよーく聞いたってや?この度、夫婦になりました!いぇーいぃ!!」
「「「「「「・・・・・」」」」」」
何故かソルベルドに寄り添っているミューも暴走を止める事なく笑顔のままで、嬉しそうに腕に絡みついている。
こうなると唯一の良心としてハルナ王女に視線が集まるが、ハルナ王女も嬉しそうに寄り添っているミューを見ているだけなので改善は見込めない。
ハルナ王女としては、自分の命を守る為に弟と妹を失ってしまったミューには絶対に幸せになって貰いたいとの気持ちが強いため、この状況下ではあり得ない程のイチャイチャぶりを発揮している二人を見ても嬉しい以外の気持ちが出てこない。
「ソルベルド様の宣言通り、お二人は結婚されます。王家としても大々的にお祝いさせて頂く所存ですので、もしよろしければ皆様も王国バルドにお越し頂きたいと思っております!」
何故かハルナ王女も二人の結婚式の案内まで始める始末で、ここまでくると逆に自分達がおかしいのかと勘違いすらしてしまうテョレ町の面々。
「そ、それはおめでとうございます。とても良いお話だと思いますので、時間を調整の上お祝いの席には参加させて頂きたいと思います」
一応当たり障りのない回答が出来るミランダは非常に有能だが、他のメンツは未だどう反応すれば良いのか分からずに唖然としている。
言うだけ言って満足したのか、ソルベルドとミューはどう考えても自分達の世界に入り込んでおり、かろうじて第三者のハルナ王女もはち切れんばかりの笑顔になっている。
「・・・おい、スロノ。あのソルベルドが訳の分からねー事を言っていたが、俺の聞き間違いか?チューだのなんだの」
「残念ながら聞き間違いではないですね。俺の耳にも同じように聞こえていましたよ。ひょっとして盗聴を気にした何かの暗号かと思いましたが、アレを見るとどう考えても違いますよね?」
今の所得られた情報はソルベルドが襲われて相当な重傷を負った事と、状況は不明だが相手は<隠密>を持ち、ソルベルドの警戒を掻い潜って致命傷を負わせる事が出来る実力者だと言う事だけ。
「ソルベルド!お前の所にそいつが追撃に来たらどうするんだ?」
あまりにも甘々の映像を見させられているので、ドロデスがぶっきらぼうに現実を突きつける。
「そんなん決まっとるやんけ!ワイとミューはんの幸せの障害は全て断罪したる!」
一度負けているのに・・・とは言えずに、具体的な策が知りたいので必死で心を落ち着かせて再度問いかけるドロデス。
「その方法が知りてーんだよ。仮に、そいつがエルロンと共にこっちに来た場合は相当な苦戦、いや、正直敗北もあり得るからな。それに、エルロンは去り際にお前が死亡したと断定していたぜ?生きているとわかりゃー、そっちに追撃があるんじゃねーのか?」
「今回の隠密野郎はエルロンの差し金である事は間違いないと思っとる。そこを考えると、ワイの生存を知ったら追撃はあるやろな。そや!お前等はエルロンに狙われとる。そんなら、ワイとミューはんの祝いついでにこっちに来たらええんちゃう?」
共闘が出来る有益な部分はあるのだがソルベルドはそこをあまり深く考えておらず、自分達の幸せぶりを見てもらいたい気持ちの方が大半を占めている。
ドロデスの問いに完全に答えているわけではないのだが、正直ミューやハルナを盾に取られてしまえば再び敗北する可能性が高いと知りつつも、この場でそのような事を言おうものなら二人が逆に余計な気を遣う可能性が高いと分かっているので、敢えて無視しているソルベルド。