(13)スロノの過去④
現実逃避で夢の中へ行ってきますZZZZZ
受付の言葉の中にあった“レベルDの能力を持つ”と言う所で思わず歓喜の声をあげそうになってしまったスロノだが、必死に冷静を装って依頼を受ける事にした。
「運搬費用については冒険者達が討伐できた数にもよりますが、数量に応じて報酬があります。この依頼自体に銅貨二枚(2万円)お支払いいたします。宜しいですか?」
スロノにとってみればお金・・・は食うに困らない程度には必要だが、それよりも今後この世界で生活をする中で安全を確保できる能力を集める事が何よりも大切なので、一も二も無く了承する。
「大丈夫です。宜しくお願いします!」
「ありがとうございます。では、少々お待ちいただけますか?」
この場から去って別の部屋に入って行った顔馴染みの受付女性を見ていたスロノだが、部屋から三人組の男と共に戻ってきたのを見て今回同行する冒険者なのだろうと把握する。
「お、何時も漁りをしているスロノじゃねーか?」
「おいおい、本当の事を言うなよ。普通なら恥ずかしくて逃げ出したくなるぞ?」
「今日俺達はレベルDの依頼を受けるのですよ。正直な所、相手もレベルDなので相当疲弊するだろうからいつも通りに運搬を頼みますよ?」
最初の二人は相当失礼で、最後の一人もレベルEで安全な仕事しかしていないくせにと言う侮蔑の表情でスロノに告げていた。
“漁り”と言う言葉はもう動く事のない状態の物体を漁って利益を得ていると言う侮蔑の表現であり、彼等にしてみればスロノは討伐済みの魔獣の一部をちょろまかしていると言う認識でいた。
この冒険者三人は初心者から漸く脱却したレベルDの能力を持つパーティーでギルドの育成プログラムによって初のレベルD相当の依頼を受ける事になっていたのだが、何を勘違いしたのか相当偉そうになっている。
レベルDの初回の依頼はギルドの配慮で今回の様に運搬に関する補助をつけるのが通例となっており、冒険者達がその費用を負担するわけではない。
今後立派な冒険者として育ってほしいと言う思いもあってギルドが費用を負担してこの対応をしているのだが、残念ながら時折この三人の様に大きく勘違いしてしまう者がいるのも事実だ。
当然三人の態度を見て受付は渋い顔になるのだがスロノとしてはレベルDの能力を回収出来る事が楽しみであり、いちいち気性の荒い冒険者や勘違いをしている者達に反論する時間も惜しいと思い笑顔で流す。
「そうですね。そのスロノで合っていると思います。宜しくお願いします!」
どう見ても自分より遥かに年下の悪口を言われているスロノ当人が大人の対応をしているので、受付としても多生心配になりつつも話を進める。
「では西の森の浅い位置にランウルフ数体。確認できている情報では2体の目撃情報がありますので、対処をお願いします。頑張ってくださいね」
能力がレベルDに上昇したばかりの三人がある意味熟練のレベルDを持つ魔獣を始めて始末する事になるので、受付としても個々人が相手取るのではなく多少でも余裕のある状況を作り出す必要があると言う配慮から、目撃情報を吟味した結果3対2の状況で狩りが出来る場所を案内した。
「行くぞ!」
リーダーらしき男がさっさとギルドを後にして残りの二人も続くと、スロノは慌てて隣接している納品場に向かって預けている荷台を受け取り三人を追いかけて行く。
森の浅い場所、魔獣としては相当レベルの低い個体が生息している場所である為に町の門を出てから一時間もかからずに該当する場所に到着すると、三人は周囲を慎重に観察して何も脅威がないと判断したのか休憩をとる事にしたようだ。
各自が持っている武器によって凡そ能力の推測はついてしまうのだが、三人の能力が何かは受付が第三者に口を開くわけもないし普通は冒険者自らが教える事もないのだが、この三人はどうやら常識を持ち合わせていないようで、漸く一般的な討伐依頼を受けられるレベルに上昇した事が嬉しいのか敢えて<収納>Eと有名になっているスロノに聞こえるように自慢気に話し始めていた。
「俺的には満足できねーけど、やっと<剣術>Dになったからな。今迄少々時間がかかった分、獣共をバンバン始末してあっという間にレベルCになって、そこからも加速度的に経験を積んで能力を補強して行くぜ?目標はレベルB!!」
帯剣している男はどうやら能力を誤認させるために剣を持っているのではなく、本当に<剣術>Dを持っているようだ。
「俺も、漸くこの<魔術>Dが火を吹く時がやって来たぜ!」
同じく短い杖を持っている男も、外観通りに<魔術>Dを持っている。
「あまり調子に乗って、俺に当てないでくださいよ」
最後の男も、手に盾を持っている事やこの口ぶりから間違いなく<盾術>Dを持っているのだろう。
確かに持ち得る能力は基本的に一つであり互いが互いを補完する事で対処するのが冒険者の常識なのだが、第三者がいる場所であからさまに自らの能力を話して良いのかと言うと別の話になる。
スロノはこの三人が明確に自分に向けて聞こえるように話しているのは理解しており、今回は育成プログラム故にレベルDと公になってはいるのでレベルは口に出しても良いけど能力までペラペラと話しているのを耳にして、その行為が逆に自分達の首を絞める結果に繋がるのかもしれないのに・・・と、半ば呆れていた。
例えば<魔術>Dを持つ者であれば術の発動も遅ければ威力も当然小さいので一気に近接されてしまえば何も対処する事は出来なくなるし、術の発動中に意識が削がれる行動、例えば石をぶつける程度でも術の構築を容易に邪魔する事が可能になる。
そう考えると最悪でも能力は明らかにしてもレベルは絶対に明らかにするべきではないと思っているスロノは、全く悔しくならない自慢話が終わるのを今か今かとつまらなそうに待っていた。