(119)テョレ町での戦闘
―――バキバキバキ―――ガラガラ―――
数個の巨大な石を有り余る力を使って建屋に放り投げたエルロンは、あっという間に建屋が崩壊する様を楽しそうに見ている。
「まぁ、この程度じゃくたばらねーだろうな」
エルロンの予想通りに常に警戒していたスロノ達は投石による負傷はしておらず、実は本来の実力から考えるとあり得ない程上手く対処できていた。
相当な距離からあり得ない質量の石をかなりの速度で複数個投げつけられたので、夫々の能力である<魔術><斧術><盾術><闘術>では完全に対処できる可能性は低い。
だが現実的には無傷であり、何故そのような芸当が出来たのかと言えば・・・スロノが自らに<操作>を付与の上で周囲に無害と思われる獣を配置していたからであり、その獣からエルロン襲来の一報を受けていた。
「来ますよ。あちらにいるのでその方向から攻撃が来ると思って下さい。どうやら手始めに投石があるようですね。その間にミランダさんは脱出してこの建屋から距離を取り、術の構築をお願いします!」
投石が行われる少し前にスロノからこのように言われ、何故そこまで詳しく状況がわかるのか等野暮な事を言う事も無く迎撃態勢に移行する。
言われた通りの方向から投石があったので<盾術>Aをもつジャレードが先頭に立ち新たに進化した盾を使って華麗に往なしたのだが、建屋の損傷は防げずに倒壊する。
直後、ミランダが移動している事を悟られない様にドロデス、ジャレード、オウビ、スロノが建屋から別方向に飛び出して敢えて周辺の土を撒き上げつつ、反撃とばかりに夫々の武器を使った斬撃やスロノの魔術をお見舞いする。
全くの無傷で完全に反撃されるのは想定外だったエルロンだが、だからと言って攻撃の手を緩める様な存在ではない。
「はははは、良いじゃねーかよ。雑魚なりに楽しませてくれそうだぜ!失望させるなよ?」
本来<棒術>は持っていない能力であると公になって尚、レベルAや新人Sランカーを相手にするのには丁度良いとばかりに棒を振り回しているエルロン。
スロノが放つ魔術だけは他の攻撃よりも慎重に対処しながら、徐々に距離を縮めて行く。
当初想像していたよりもスロノの魔術は練度が高く、氷魔術で作られたナイフを棒で叩き落そうとした瞬間に嫌な気配を感じ、本来の能力である<闘術>を活かして避ける。
その攻撃は背後の大きな石に突き刺さり、一瞬凍ったかと思うと突然爆発する。
「おもしれーな。俺が真面に触れたら少しはダメージを負ったかもなぁ」
スロノは氷魔術の中に圧縮した炎の魔術を内包させていたのだが、あっという間に見切られて本来の効果を得られる事なく捌かれてしまった事で、敵の大きさを改めて理解する。
だからと言って攻撃の手を緩める事はないので、スロノの魔術がある以上は敵に近接するのは悪手であると理解しているドロデス、ジャレード、オウビの新たな武器によって強化された遠距離攻撃と共に苛烈な攻撃を仕掛ける。
全てを難なく捌いているように見えるエルロンだが、実は本心から雑魚と思っていた【黄金】からの遠距離攻撃でも多少のダメージを負っている事に驚愕しつつも、本丸であるスロノに向かう。
流石のエルロンでもギルドが一括管理している武器に関しての情報を得る事が出来なかったらしく、【黄金】三人の攻撃力を事前に正確に見積もる事が出来ていなかった。
「だが、そこまでだな」
だからと言って勢いを止める程の力ではないので、この距離までくれば手持ちの棒を投げつける事でスロノを始末できると確信した瞬間・・・背後から強烈な魔術が炸裂する。
【黄金】三人の攻撃力上昇、スロノの練度上昇に対応していたのでミランダの存在を失念しており、今の今迄全く攻撃も無かった事からいよいよスロノを始末できると意識を一瞬集中したところに背後から攻撃を食らい、そのタイミングで【黄金】とスロノから新たな攻撃が来たので対処できずに被弾する。
最も被弾してはならないのはSランカーからの攻撃だと分かっているので、ミランダや他の攻撃についてはダメージを負うのを覚悟の上で過剰に避けず、スロノの攻撃だけを完璧に捌く様に対処する。
「くっ、この雑魚共がぁ!」
どう見ても少なくないダメージを負っているのだが闘志は全く衰えておらず、先ずはいつの間にか背後にいたミランダが攻撃対象になる。
血走った目で一気にミランダに肉薄して一撃で吹き飛ばすと、ミランダを救う為に近接してくる【黄金】三人とスロノに対処する為に止めはさせないと理解して一旦距離をとる。
被弾した攻撃の威力が想像以上だったのでその後の動きに精彩を欠いてしまったエルロンは、残り四人の戦闘で優位に立てないながらも不利にもならず、互いが致命傷を負わないレベルで徐々に負傷していく。
やがてオウビ、ジャレード、そしてドロデスと吹き飛ばされて動けないのだが、最早エルロンも真面に戦える状態ではない。
スロノも<魔術>を全力で行使しているので自らに<回復>を付与して傷を癒す余裕などなく、かろうじて攻撃出来ている状態なので、やがて互いに攻撃の手が止まる。
「クソ野郎、今日はここで引いてやるぜ。だがよ?テメーが望んだ未来は来ねーよ」
逃走に意識を向けたエルロンに対し、倒れ込んで動けないながらも口は動くドロデスが煽る。
「はっ、ソルベルドの攻撃を受けて尻尾巻いて逃げやがったクズ野郎が、偉そうな事を言いやがって!」
「ク、クククク・・・そうかよ。テメー等のその無駄な自信はソルベルドのクソ野郎の存在かよ?アイツは別動隊の手で始末されたぜ?怪我が癒えりゃー次はテメー等だからよ?」
突然ソルベルドが死亡していると明言され、流石のドロデスも反応できなかった。