(113)事情が明らかになる
執務室にいる面々は、どう考えても以降の説明で事態が好転する要素は何もないと理解しながらシャールの話を聞いている。
「ここからが更に推測になるが、エルロンがこの町に態々来た理由、記録に残らないように侵入した理由、リノを攫った理由について考察すると、どう考えてもギルド本部での騒動の報復以外には考えられないと言う結論に至った。つまりスロノ、お前が狙われている可能性が高く、リノはそのための人質か何かに使われるのだろう」
「まぁ、古い情報とは言ってもリノとスロノの関連性程度はあいつなら情報を得ているだろうから、予想通りっちゃ予想通りだがよ?そうなると他のSランカー、リリエルやらリューリュやらも的にされるんじゃねーか?いっその事協力体制で潰しちまった方があと腐れがね~と思うがな?」
「ドロデスの言いたい事もわかるが、あの二人は夫々重要な依頼を受けている最中で簡単にこの町に来る事は出来ない状況だ。まぁ、矛先が向かう可能性は各自認識しているだろうが、改めてギルド本部から二人が活動している支部を通して注意喚起だけはするように処理済みだ」
ドロデスの提案が受け入れられれば安全かつ迅速に事が収束するのは間違いないが、別格の存在であるSランカーとして登録している以上は断れない依頼も多数あり、運悪く民の為に活動しているリリエルでさえとある国難を解決すべく王族からの依頼を受けている最中だった。
実はこの依頼も、エルロンの弟であるミルロンが兄の援護をするために仕向けていた結果だが、ミルロンの存在を知らないギルドマスターや総代なので、今の依頼をキャンセルしてまで彼女達を招集する事は出来ない。
Sランカーの行動に関しては通常公開されないが、緊急事態であれば本部を通せば事情を把握する事が出来るギルドマスターなので、現状を正確に説明の上これからの話に移行する。
「対処については、リノをどのように使って来るのかにもよるのだが・・・最終的にはあの性格なので、直接的に攻撃してくるだろうな」
「けっ、望む所だぜ!自分の力に溺れて碌な事をしてこなかった腐れ野郎に、負ける訳にはいかねーんだよ!」
「あの、ドロデスさん?エルロンの狙いは俺ですよね?」
狙いはスロノと言われているのに何故か好戦的に口を開くドロデスなので、思わずスロノが突っ込むのだが、その返しに思わず目頭が熱くなる。
「はぁ?スロノが狙われているのを黙って見てろって言うのかよ?俺達はそんなに頼りねーか?確かにレベルはSじゃねーがよ?弾避けにはなるぜ?」
実力者であるが故に、能力の種類に違いがあってもレベルAとレベルSでは絶対に越えられない壁があると理解しつつも共闘する事が当然と伝えているドロデスと、同意している他の【黄金】の面々。
極論はドロデスの言葉通りに弾除けになれば良いとの覚悟まであるので、複数のAランカーが命を投げ出した行動であれば、未熟なSランカーのスロノであってもエルロンと互角に闘う事が出来るだろう。
逆に言えば、それ程までに実力差があると言えなくもない。
「シャールさん?そう言えば、今回エルロンがスロノ君を狙うって事は・・・復讐対象にはソルベルドさんや場合によってはハルナ王女達も含まれている可能性が高いのですよね?」
「あぁ、リリエルやリューリュの連絡と共に、王国バルドのギルドにも連絡済みだ」
「じゃあこっちの対策は、俺達【黄金】とスロノはクソ野郎を撃退するまで共に行動する。これで良いな?」
ドロデスが突然結論を告げるのだが、確かにスロノ単体では絶対にエルロンに勝利できない上に他のSランカーも・・・話題には出ていないが流星ビョーラすらミルロンが手を回した依頼を受けているので助力出来る状態ではなく、これ以上の妙案はない。
こうしてテョレ町にいるスロノ側の動きは決定したが、攻撃側のエルロンはとある部屋で食事をしながら手紙を読んでいる。
小型の飛翔魔獣の足に括り付けられていた手紙であり、弟であり<操作>Sを持つミルロンから送られたもので、内容を読み進めている内に獰猛な笑みになる。
「流石はミルロンだぜ。厄介な他のSランカーは下らねー依頼で足止め。ソルベルドに至っては同格が攻撃しに向かっている・・・か。抜かりね~な。となるとこいつは用済みか?」
未だに気絶しているリノに視線を移すエルロン。
本来リノを使ってスロノを挑発するか、平常心を奪うか、用途はさておき何等で活用しようと思っていたのだが、予想を超えて他の邪魔が入らない環境になったので例え【黄金】がスロノ側にいようが、普通に戦って勝利できる自信がある。
こうなると逆にリノは邪魔なので、どう処理するべきか少しだけ悩むミルロンは・・・
「前回同様何があるかわからねーからな。一応保険として残しておくかよ?」
今迄は邪魔者即削除だったのだが、前回ギルド本部でリリエルを前にして撤退した事、その前も王国バルドで撤退した事も有って、不測の事態に備えた保険として命はとらずに監禁する事にした。
理由はどうあれ辛うじて命を繋げたリノだが、最早スロノにとって顔見知り以下の存在になっているとの情報は得ていないエルロン。
多少面倒にしつつも地下の牢屋とも言える部屋に乱暴に放り投げて鍵をかけると、多少の食料と水を中に投げ込んで再び部屋に戻る。
「幾らミルロンが手を回していようが、バケモンであればそう時間がかからずに依頼を終えるだろうからな。明日・・・いや明後日にでもスロノに挨拶に行くかよ?」
時間をかけてしまえば援軍が到着する可能性があるので、そうなると今迄同様中途半端で撤収せざるを得なく、三度連続で収穫無き撤退はあり得ないと数日の間に動く事にしたエルロンは、直に横になり体を休める。
「ここから反撃の狼煙が上がる訳か。スロノの次はリリエルか?楽しみじゃねーの!ははははは!」