(106)人の混在
「畜生!!スロノの野郎・・・間違いなくアイツの能力を利用してミランダを覚醒させたに違いない!まさかレベルSの力を隠していやがったとは、姑息な野郎だ!」
「確かにそう考えると合点がいくな。あれ程の魔術を突如として使えるなんて、普通では考えられないからな」
「いや、元から素養はあったが制御できていなかっただけだろう?まぁ、制御できるようにスロノが何かしたのは俺も間違いないと思うがな。レベルSの力があればその程度は可能なのだろうな」
経験も無ければ情報も無い遥か格上のレベルの話しなので、想像の域は出ておらずに見当違いの事を言っているのは・・・テョレ町に続く街道をスロノとミランダの話をしながらトボトボと歩いている三人の冒険者。
持っている武器は初心者が購入するような量産品の中でも粗悪な部類の品であり、装いも一言で表すと貧相だ。
この三人はミランダと共に四人でパーティーを組んでいたのだが、袂を分かちハーネルと言う弓使いの力のみで実績を上げ、自分の実力を大きく勘違いして借金持ちになったミンジュ、ラドルベ、バミューの三人パーティーである【飛燕】。
こちらもリノと似たような状況で、ギルドからの信頼は失墜している上に周囲の同業者もハーネルがいた時に【飛燕】から大きな被害を受けているので、誰からも救いの手を差し伸べられる事も無く環境を変えるべく移動をしていた。
奇しくも自分達の耳にもその存在が入ってくる【黄金】にいつの間にか加入して活躍しているミランダの噂を聞いたので、少しでも肖りたいとばかりにテョレ町に向かっている。
過去にミランダが大切にしている両親の形見のネックレスを脅しの道具に使った事など、過酷な生活を続けていた事で疲弊しているので記憶にないが、安易に恩恵に肖れるほどの仲ではない事だけは理解している。
「せめて借金だけでも・・・」
三人共通の認識はこの一言に集約されており、本当に少しだけお金が貯まるとギルドに強制的に徴収され、少しでも割の良い依頼を受けるために武器を新調する事も出来ずに低空飛行を維持していた。
借金をミランダが一時的にでも肩代わりしてくれれば、その間に貯めたお金で良い装備を購入してこの環境から抜け出すきっかけにできればとの思いがある。
今のミランダの財力であれば【飛燕】が抱えている借金を全て肩代わりしても懐に影響がないレベルなのだが、信頼度が別格のパーティーに存在しているAランカーとギルドから目を付けられている底辺冒険者の違いは大きい。
移動中の食料は現場で調達し、道中宿に泊まれるわけも無く野営を続けて漸く目的地のテョレ町に到着した【飛燕】の三人。
少々匂いを撒き散らしながらギルドに赴くのだが、当然ギルドに対する借金の情報はギルド本部を通して全てのギルドに共有されているので、【飛燕】の情報を確認した初見の受付からも良い表情で迎えられるわけもない。
「ここを拠点にミランダが活動していると思うが、普段は何時頃ギルドに来るんだ?」
受付の対応がどうあれ、周囲の冒険者は匂いに少々顔を顰めるだけで過去の【飛燕】については一切情報を持っていないので、絡んだり阻害したりする様子は見えない。
【飛燕】としてもこのまま依頼受注処理を行っては目的である大きな環境変化は望めないので、早速ミランダについて問いかける。
「【黄金】の皆様への依頼はギルドが直接依頼を出す形になっていますので、基本的にこちらに来られる事は滅多にありませんよ?」
想像以上の待遇を受けていると羨ましくなりながらも、これでは埒が明かないともう一人についても問い合わせる。
「じゃ、じゃあ、スロノはどうだ?」
「ここ王国シャハのテョレ町を拠点に活動されているスロノ様は一名しか存じておりませんが、Sランカーのスロノ様の事でしょうか?」
「そうだ。<魔術>Sを持っているSランカーのスロノだ。情報は流れているだろうが、俺達はあのミランダとパーティーを組んでいた【飛燕】で、過去にスロノとも絡んだ事がある」
良い関係かどうかは一切口にせず、敢えて誤解を与える様な表現で二人との関係性を主張する【飛燕】のラドルベ。
突如として名乗りを上げたSランカーのスロノに関する過去の情報は共有されていないのだが、ミランダは長くこの町で活動しているので以前ミランダが【飛燕】として活動していた情報だけは持っており、目の前の三人の男性が利益だけを求めてミランダやスロノに接触しようとするのではなく別の用件があるのではと思ってしまう。
例え三人から生活が困窮している事が原因としか考えられない様相・・・少々匂いがしようが、明らかに借金があると把握しようが・・・だ。
何も関連が無い存在が面会を求めているのであれば話は別だが、過去明確に行動を共にしていたメンバーからの要請であれば取り次ぐ必要があると思っていたし、事実受付としては正しい行動と言える。
「では、元メンバーであるミランダ様であれば面会のご要望をお伝えする事は可能です。スロノ様への面会はミランダ様を通して依頼をする方が宜しいかと思いますが、如何でしょうか?」
如何もなにもお願いするほかないので、なるべく早くと言う依頼の元で面会の要望を出す【飛燕】。
その後依頼を何も受けなければ日々の食事もままならないので、相変らずの新人冒険者が行うような依頼を受けて過ごし、薬草納品時に受付から待ちに待った言葉を投げられる。
「【飛燕】の皆様。明朝【黄金】の皆様はギルドに来られるので、その際にお会いになるそうですよ?大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ!」
これで少しでも環境が変わると思い、あわよくばスロノの力で自分達の力を覚醒してもらえるかもしれないと見当違いの妄想をしながら、翌日を楽しみにしている【飛燕】だ。




