(105)スロノの弱み?
暴風エルロンが弟のミルロンと接触してから特にこれと言った騒動が起きずに数日経過しており、警戒態勢になっているSランカー達も少々毒気を抜かれて通常の活動を行い始めている。
正確に二つ名暴風エルロンの意味を知っている他のランカー達は、暴風の如く苛烈な性格故に、場合によっては冷静さを求められる立場であったとしてもこれだけの期間エルロンが大人しくしているとは思えなかった為、他の荒事に身を置いているので復讐を行う暇がないのかと想像していた。
「来たかよ、兄貴。今日はスロノの情報が手に入ったぜ?」
Sランカー達の仮定は外れており、情報収集に長けた<操作>Sを持っている弟の所に身を寄せて準備をしているエルロンは、急いでいる訳ではないが早い内に対処しておくべきと判断していた<魔術>Sの能力持ちであるスロノに関する情報を得たとミルロンから言われる。
「相変わらず仕事が早ぇ~な。偽善のビョーラみてーに面白れー話しだったら良いんだがよ?早速聞かせてくれや」
ズカズカとミルロンのいる部屋に入り込みソファーにだらしなく座るエルロンと、同じく椅子から立ち上がり対面のソファーに腰かけるミルロン。
「あのスロノって奴、どうやって秘匿していたのかは知らねーが相当長期間能力を秘匿していたようだぜ?だから碌な実績が無く二つ名がつく前にSランカー登録になったんだろうな」
ミルロンも自らの能力が周知されないように気を付けており、ギルドに登録など一切していないのだが、スロノは自分を上回るレベルで能力を秘匿していたと思っている。
必要に応じて都度能力を自らに付与しているスロノなので、レベルSの力を行使したのは本当に数えるほどしかなく、最も多く能力を付与して活動したのがソルベルドとの戦闘時なので、一般の民がその実力を知る由も無い。
逆に言えば、底辺の依頼を受けている最中は本当に能力が無い存在であり、いくら情報収集能力に長けているミルロンであってもこの世の常識から外れている<収納>Exに関しての情報や知識がある訳も無く、推測すらできない。
その前提でエルロン、ミルロンの話は続く。
「だろうな。俺が知る限り、ギルドの鑑定を受けてSランカーとして登録した奴はアイツが初めてだからな。能力を秘匿している以上は実績なんざ出来ねーし、二つ名がつくはずもねーよ」
「だな。流石の俺もあれほど情報が掴みにくい奴だとは思わなかったが、知っているだろうが<収納>Eと<魔術>Sを持っている。で、ここからが肝心な部分だがよ?アイツは基本的にテョレ町を拠点にしちゃいるが、少し前まではいろんな町で活動していたわけだ」
過去の事についても情報を得られるのがミルロンの凄い所であり、恐らく酒場、ギルド、宿、ありとあらゆる所に情報を取りに行ったのだろう。
「最近では【黄金】と共に行動しちゃいるが、それ以前に単騎で活動していた際に一時期二人でパーティーを組んでいたそうだぜ?」
「二人で・・・か。そいつがスロノのアキレス腱になりそうなのかよ?」
二人の後に一人加わり、と言った事情まで把握しているエルロンだが、そこを説明する必要性を感じていないので核心部分だけを話す。
「おそらく・・・な。一応スロノが裏切られて離脱した形になっちゃーいるが、二人で活動していた際には随分と仲良さげだったようだぜ?」
冒険者としての禁忌や人としての常識など関係のない立ち位置にいるので、自らの目的達成のためには手段を選ぶことはないエルロンとミルロン。
「成程な。そいつをスロノの目の前で甚振るのもありかもしれねー訳か」
「ほどほどにしておけよ?兄貴。そいつはリノって名前だが持っている能力は<回復>Eだから、加減を間違えるとポックリ逝っちまうぜ?」
元とは言えエルロンの実力はまごう事なき高レベルの能力、それも身体強化系統の力を持つSランカーだった為、軽くじゃれているつもりでも致命傷を与えかねないと警告しているミルロンだが、リノに配慮したわけではなく生贄か人質か・・・すぐに壊しては目的が達成できないと注意喚起しただけ。
「まぁ、一応気を付けておくぜ。んで、そのリノって奴は何処にいるんだ?」
「それがよ、今はテョレ町にいるぜ。スロノのSランカーの話を聞いたからかは分からねーが、割と早い段階で元の町からは出ていたようだぜ?何でも、その町では活動し辛くなったらしいからよ?」
その理由はトレンやらロイハルエスやらの絡みで間違いないのだが、ここもリノを使用する目的には一切関係のない所なので説明しないミルロンと、そもそも痴情の縺れやら不仲になる原因やらには一切興味が無いので聞く事も無いエルロン。
リノはあの町で依頼を受けられるような状態ではなく、何の気なしに旅をしている最中にスロノと【黄金】の話を聞いた為にテョレ町を目的地としていた。
更にその道中にSランカーに突如としてスロノが名乗りを上げたのだから、裏切った事実はありながらも少しでも今の厳しい環境が変えられるのではと言った期待を持ちつつ旅を続け、今では無事異国の町に到着して底辺ながらも冒険者として日々活動している。
ギルドで依頼の受注を行う以上はスロノと会ってもよさそうなのだが、過去とは異なりスロノは若手冒険者の仕事の確保の意味もあって低レベルの依頼は受ける事が出来なくなっているので、直接ギルドに顔を出す頻度も激減しており、二人は未だに顔を合わせていない。
【黄金】もSランカーであるリリエルからの依頼を達成した処理がなされており、扱いがスロノ同様別格になっている上、新たな装備を試すのに夢中でこちらもギルドにほとんど顔を出していない。
【黄金】がリノと会っても面識がないので、何かが起こる訳ではないのだが・・・
「じゃあ、早速テョレ町に行って来るぜ?」
こうして最初のターゲットになったスロノに対する手札として、スロノが過去に淡い恋心を抱きつつも裏切られて縁を切ったリノがエルロンに狙われる事になる。




